7.怖がりで優しい弟
『それじゃあ、ママとパパには気づかれないように・・今日の夜にね・・』
『夜中にお菓子が保管されてる、大きい台所に行くわよ!』
『盗み食いする奴は、必ず同じ場所に来る筈よ・・』
『0時にアンタの迎えにいくからね!寝てたら、叩き起こすからね』
好奇心で目をキラキラさせるプリン。
『姉上、もし別の犯人がいるとしても・・流石に毎日、食べにくるとは思えないのですが・・』
プリンとは逆に、少し行きたくなさそうに答えるアラモード。
『そんなの、行ってみないと分からないじゃないの』
『それにオバケだったら、どうしますか、オバケに呪われたら・・』
『何言ってるの?アナタ、さっきパパに、捕まえに行きましょうって提案してたじゃないの?』
『だって、父上と一緒だと思ったし・・』
『夜中に捕まえに行くとは思ってなかったし・・』
『・・もう、言い訳ばっかり、アナタは小さい時から怖がりね・・・いいわ、行きたくなければ、ワタシ一人で行くから、ワタシ一人でもう一人の犯人を捕まえてやるから・・』
プリンは、怒ってそう言うと、アラモードの背中を押し、クルっと方向転換させて、ドアの方へ、押して行く。
ドアの外へ、アラモードを追い出し、バタンッとドアを閉める。
アラモードが仕方なく、自分の部屋に帰ろうとすると。その時、プリンがドアを開け、ヒョッコリと顔を出す。
『パパとママには秘密よ。もし二人に話したら、アラモードとは一生口を聞いてあげないんだからね!』
プリンはそう言うと、再びドアを力いっぱい閉めてしまったのでした。
プリンがドアを閉めた後、アラモードはガクリと肩を落とし、悲しそうに自分の部屋に戻って行ったのです。
二人が、そんな会話をしてから、時間が過ぎ、その日も夜はやってきました。
夕食の時間、王様と王妃様はまるで会話をしませんでした。
二人共、朝の事を気にしている様でした。
二人共、プリンとアラモードには変わらなく、優しく接してましたが、夕食の雰囲気は何時もと全く違い、全然楽しくありません。
プリンとアラモードも、先程の会話でケンカ別れの様になってしまったので、全然話をしません。
『どうしたプリン、アラモード、お前たちさっきから、口もきかんで??』
『別に!、ただ話す事も無いだけよ・・』
『ハイ、父上、別に・・です』
『そうか、何か、今日は様子がオカシイぞ・・』
王様は、二人の雰囲気を心配する様にそう言いました。
『アナタが、盗み食いなんかするからよ・・』
それを聞いていた王妃様が、ワザと王様に聞こえるように独り言を呟きました。
『フン・・どうせワシが総て悪いのじゃろ・・』
王様も、イジケタ様にそう言い、それから少しムッとした表情で、黙ってご飯を食べ始めました。
こんな感じで、その日の夕ごはんの雰囲気はとてもよくありませんでした。
食事が終わると、プリンが先に声を出します。
『パパ、ママ、今日眠いから、ワタシ先に寝るね、何か疲れちゃった』
『ウンン、どうしたプリン、具合でも悪いのか??』
王様は、心配そうに聞きます。
『プリン、オデコ触らせなさい・・』
今度は、王妃様がそう言って、プリンのオデコに手を当てます。
『熱は無いようね・・、歯磨きだけは忘れないでするのよ』
『ハイ、大丈夫』
プリンはそう言って足早に部屋に戻ったのでした。
プリンの後ろ姿をみながら、王様と王妃様は同じ言葉を呟いた。
『心配ね・・』
『心配じゃな』
『父上、母上、きっと大丈夫です。姉上、昨日遅くまで本を読んでて、眠れなかったって言ってましたから・・』
一人だけプリンの目的を知っていたアラモードは、両親を心配させないようにそう伝えたのでした。
プリンは、部屋に戻ると目覚まし時計を0時にセットして、ベッドに潜りました。
しかし、ベットに入っても、時間が早すぎるためか、ナカナカ眠れません。
寝ようとすると、逆に眠れなくなるものです。
時間がどんどん経っても、眠れないのです。又、眠れない為、普段考えないような事を色々な事を考えてしまいます。
その中に、アラモードが言ったオバケの事が心配になってしまったのです。
(オバケなんか怖くないわ、居るわけも無いし・・・)
最初は、そんなふうに自分を怖がらせないように考えていましたが、プリンもやっぱり女の子です。
だんだんと、怖くなってきてしまったのです。
(もし、オバケが居たら、呪われたらどうしよう・・)
そんな事を考えていたら、ますます眠れなくなってしまいました。
それから、どれくらいの時間が経った事でしょう。
突然、目覚まし時計が、リンリンと音を鳴り出しました。
プリンは想像以上の大きい音に、慌てて目覚まし時計を止め、仕方なさそうに着替え始めました。
着替えが終わり、暗い気持ちで部屋のドアに向けて歩いていくと、何とドアが自分で開いたのです。
『キャッ、幽霊?、幽霊退散!、ナムアミダブツ・・』
反射的に、プリンはそう叫び、目を瞑って咄嗟に後ろに逃げました。
『・・・姉上、ヒドイです。僕は幽霊じゃないです・・』
聞き覚えのある声に気づき、目を開けると、其処には怖がりだけど、優しい弟のアラモードが立っていたのです。
『姉上、昼間はスイマセン。やっぱり、姉上を一人だけで行かせることはできません。僕も連れてってください』
プリンは、怖がりな弟が勇気を出した事が嬉しかったのか、それとも自分を心配して一緒に行ってくれる優しさがとても嬉しかったのか、いや多分、両方です。
プリンは嬉しそうな顔で飛びつくように、アラモードを抱きしめたのでした。
そして、仲の良い二人の姉弟は、部屋のドアを再び開け、いやネコ魔王と出会う冒険への入り口を開けたのでした。