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2.解かれた鏡の封印

それは、温かい春の日でした。


気持ちの良い春かぜが、まるでパンの国のお城の人達に挨拶をしにきたのかというぐらい、温かく洗濯日和でした。


その日、お城の掃除、洗濯などの雑務の責任者を担当するグラタン侍従長はその陽気をみてある事を決めます。


そうそれは、お城の大掃除です。


お城中をピカピカにし、汚いモノは皆洗濯して外に干しましょうと、城で働く総ての人達に大号令。


その行事は、お城で長く働いていた人達にとっては、それほど特別な事では有りませんでした。


しかし、運が悪く、その中にはお城で働き始めて、未だ日が浅い、お城の事を未だ全然知らないゼリーという少年が居りました。


『ゼリー君、君はこの部屋の掃除を担当してくれ!』


ゼリー君の教育係を任されているパンナコッタ先輩は、そう言って一つのドアを開ける。


『此処は、何でも、王家に古くから伝わる特別なモノだけをしまう部屋だって聞いているよ』


『だから、この部屋のモノは、下手に触ってはいけないから、床掃除だけで良いので!!』


『それでは、宜しく頼む!、私は、この階の別の部屋を掃除しているから・・・』


『この部屋の床掃除が終わったら、私を探しに来てくれ、その時は新しい仕事を与えるから・・』


『ハイ!!、一生懸命頑張ります!!』


『フフッ、君は真面目だな・・君が一生懸命な子で助かるよ・・それでは!』


パンナコッタ先輩はそう言うと、足早にその部屋から出て行った。


ゼリー君は、真面目な少年で実はとってもキレイ好きな少年でした。


パンナコッタ先輩の言いつけを聞いていたのですが、部屋の床掃除を始め、ある事に気づきます。


それは、部屋の奥に汚い布で覆われた机らしき物がおいていたのです。


『なんだ、この布。汚いなぁ・・、これじゃあ、覆われている物も汚くなってしまう・・』


(・・・綺麗な布と取り替えたら。どんなに気持ちいいだろうか・・)


(ただ、パンナコッタ先輩からは、床掃除だけを任されてるし・・)


『まあ、いいや、後で先輩に取り換えていいかを確認して、其れからでも遅くは無いか‥』


ゼリー君は、一度はそう考え、汚い布の事を諦めようとしました。


しかし、その時でした。一人の女の子がゼリー君の掃除している部屋に入って来たのです。


『お~い、ゼリー、カーテンや、テーブルカバーで、汚れているモノがあれば、ワタシに頂戴』


『洗濯するから、皆のモノを回収して来いって・・、あら、何ソレ』


入って来たのは、皆から(ねえ)さんと、呼ばれ慕われているケーキ姉さんだった。


『汚いわねぇ、これ何十年も、洗濯してないんじゃない・・』


部屋に入って来たケーキ姉さんも、ゼリー君がみていた汚い布に気づく。


『ゼリー、コレ、私洗濯するから、持ってくわね、イイでしょ!!後で、代わりになる綺麗な布持って来るから・・』


『エッ、う~ン、イイよ』


『ウワァ、この汚れ、落ちるのかしら・・汚いわぁ』


『姉さん、・・・チョットマ・・・』


咄嗟に、許可を出してしまったと、ゼリー君は、後悔し、ケーキ姉さんを止めようとしたが、姉さんは素早い手つきで、ササッとその物にかかっていた布と、その布にまかれていた紐を器用に取ってしまったのです。


布をはぎとると、其処には鏡の付いた机が置いてありました。


綺麗な白いフチで囲まれた大きな鏡があり、そのフチの周りには小さな宝石が幾つも散りばめられており、とても優雅な化粧台であった。


『うわぁ、凄い立派な物が出て来たわねぇ、こんなに綺麗なモノを、こんな汚い布で・・粗末にしてたら、バチが当たるわよ・・』


ケーキ姉さんは、ゼリー君にもしっかり聞こえる声で、そう呟いた。


剝ぎ取った布をケーキ姉さんは自分が持てる様になるべく小さくなるように畳む。


『ウワァ、私の手も、真っ黒よ、キャア~、バッチィ』


そんな事言いながら、準備が整ったケーキ姉さんは、部屋の出口のある、ゼリー君の居る方へ向き直る。


『ンンッ、どうしたの、ゼリー、聞こえなかったけど、ワタシ何か、間違っちゃった??』


『ウウン、別に大丈夫、それより、姉さん、代わりの布だけ、出来るだけ早く持って来てくれる・・』


(布がキレイになってれば、みんな喜んでくれるだけ、特に問題無い筈・・)


『新しい布を被せないと、僕、ここの部屋の掃除、終われないから・・』


『分ったわ!超スピで、戻って来るわね・・ちょっと待ってて』


そう言うと、ケーキ姉さんは忙しそうに、部屋を駆け足で出て行った。


暫くすると、満面の笑顔で戻って来て、『じゃあ、コレね!』と言って、綺麗な新しい白い布をゼリー君に渡すと、ゼリー君も急いでそれを美しい鏡台に被せ、ウソがばれない間に逃げる様にその部屋を去って行ったのであった。


ゼリー君の去った後、10分もしない内に、新しく覆いかぶされた白い布の中で動く影が現れる。

外からみれば、それは猫の姿をした黒い影であった。


『ゴロニャーン、ゴロニャーン。』


『まさか、ワシの封印が解かれる日が来るとは、・・・長かった、長かったぞ!』


『こんなところに100年も閉じ込めた、あ奴ら一族に絶対に復讐してやる~、ニャ~ゴ・・・』


『シャ~!!』


穏やかな春の日に、大掃除におわれたお城の人達の耳には、その声は聞こえませんでした。


それは、小さい、小さい声でしたが、ネコ魔王があげた復讐の始まりを伝える雄たけびだったのです。

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