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残酷で切ないお願い

作者: しろかえで

今日は安全ですが……安心かどうか分からないしろかえでです(^^;)

 呼び出されたカフェに行ってみると東雲(しののめ)センパイの前にはもうウインナーコーヒーが置かれていて、私は急いでキャラメルマキアートをアイスで頼んだ。


「まだ私も来たばっかりなのよ」


 そう微笑む東雲センパイは……白のスタンドフリルブラウスに黒のカットアウトVネックジャンパースカートで……これに黒のレースアップブーツを合わせるなんて、()()()()があり……ややもすればギャル系に陥ってしまう()()()()()()JKにはとても真似できない。


 センパイはやっぱりお洒落でオトナで……半袖の学シャツのボタンを二つ外しで()()()()()()にしている私とは天と地だ。


「センパイ、やっぱりお洒落ですよね!今日は蒸し暑くなってしまったのに、しっかり秋コーデで……午前中は大学だったんですか?」


「ううん。大学は9月になってもまだ夏休みなの。例年は21日までだけど……今年は学期始めが9月24日になるわね」


「へえ~ だったらガッツリ!バイトできますね。それとも時期をずらした旅行かしら」


「ふふ、じゃあ葉月美(はづみ)ちゃんはいっぱいお金貯めて、大学生になったら、そうなさいな! 例えば……正親(まさちか)くんとかと」


「ハハ、佐野くんとじゃ()()()()になってしまいますよ」


「例え二人きりだったとしても?」


「えっ?!……そお、ですよぉ……そんな事、有り得ませんけど」


()()()()、言っていいのかな?」


 何だか見透かされているようで私は目を伏せる。


 東雲センパイはスプーンをつまんでコーヒーを蓋しているクリームを撫でている。


「葉月美ちゃんが来てくれて、私達、とても助かっているのよ。正親くんは何か言ってない?」


「佐野くんは……『飯田さんがオレと同じバイトを始めるなんて思ってもみなかったから驚いたけど、先輩達も“飯田さんは仕事の覚えが早い”って評価してたよ』なんて言ってます」


「“佐野くん”に“飯田さん”か…… あなた達、すっごく他人行儀ね。不自然なくらいに」


「そうですか? 私達、つい数か月前までは、まったく見ず知らずの他人だったんですよ。高校だって……お互いの親同士の示し合わせが無ければ、全然別の高校に行っていて……要らぬ気を遣う事も無かったはず! だから自然に他人行儀なんです」


 本当は……半分違ってる。


 佐野くんは、さり気なく他人を気遣えるオトナの面とピュアとも言える繊細な少年の心を持っていて……その事に気付いてしまった私は……義兄(あに)以上の思慕をカレに抱いてしまった。


 佐野くんに何の断りも無く同じ職場をバイト先に選んだのは、佐野くんが敬愛するバイトのセンパイ……東雲紗雪(しののめさゆき)さんに嫉妬したからだ!

 私の知らない所で、佐野くんが東雲センパイと関係を深めてしまいそうに思えたから……



 佐野くんが……私に対して“何らかの感情”を抱いているかを確認したわけでもないから、完全に私の独り相撲……


 私は今、目の前に置かれたキャラメルマキアートを少しの苛立ちをのせたストローでクルリ!と掻き回すだけ……

 恋に堕ちるとは

 斯様にみっともない。


「じゃあ、いいかな?」


 東雲センパイは……ポーカーの手札を伏せる様な面持ちで言葉をレイズする。


「私のバイト代を正親くんに遣っても」


「えっ?!」


「今度の日曜日……14日は私の誕生日なの」


「……おめでとうございます」


「正親くんがね、言ってくれたの『日頃お世話になっている紗雪センパイに何かプレゼントをしたいんです! お陰様でオレ、けっこう稼いでますから、何でもリクエストしてください! あ、買い物は義妹(いもうと)の飯田さんにも協力をお願いするつもりですから安心してください』って。でもね、私は14、15の土日に旅行に出るつもり……正親くんを拉致してね」


 思わず身を起こした時に右ひじが水のグラスに触れ、倒れかけたグラスを止めた東雲センパイの指先から水の雫が垂れる。


 だから私は……何も言えず泣く事もできない。


「やっぱりね……でも葉月美ちゃん! 私も譲る事はできないの」


 私は涙が声に絡まない様にやっとの思いで言葉を返す。


「何をですか?」


 東雲センパイはそれには応えない。


「ねえ、葉月美ちゃん! お互い“初めて”で一緒になれて……子供が産まれて、そのまま一生、お互いがお互いしか知らずに生涯を閉じる事が出来たら、とても幸せだと思わない?」


 私は言葉を発することができなくて、ただストローを咥える。


「私はね……せめて()()()()()そうありたいと思うの。残念ながら子供を持つ事は……できそうにないけど」


 目尻の端に留め置いていた涙が膨らみ過ぎて、私の左の頬にスーッと落ちて行く。


「……それは……佐野くん次第だと思います」


 東雲センパイはポーチからハンカチを出して、顔を背ける私の頬に当てる。


「心配しないで!きっと私は……あなたの何倍も泣くから」


 東雲センパイは私の涙を拭ったハンカチをキュッ!と握る。


「大丈夫!最後に勝つのはあなただから! でもね!今度で私の誕生日は終わりだから……私は命がけでカレを抱くわ!」



 その日、東雲センパイと別れて……どうやって帰ったのか

 よく覚えてはいない。


 佐野くんは友達と旅行に行ってくると()()()()()に告げたのは覚えているので……私はその場に居たのだろう。


 ああ、思い出した!


 連休中、佐野くんも東雲センパイも居ないお店でバイトしていたのを……



 

 冬の足音を聞く前に東雲センパイは亡くなった。


 家族葬だけど、私と佐野くんは葬儀に参列した。


 いつもは周りに気を遣い、物静かな佐野くんが……今、人目を憚らずに声を上げて泣いている。


 ああ、きっと……東雲センパイは思いを遂げたのだろう。


 でも、こんなになってしまったカレを

 私は抱く事ができるのだろうか……




                         おしまい



えっと、今、ハマってるアニメがございまして……(でも観るのは2週遅れぐらいなのですが(^^;))

原作物なのですが、私はまったく先を知らないので、「こんな感じの話になるかも」と妄想して書きました。


なので二次にはなりません!(*^^)v



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