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第6話 捨てる神あれば拾う俺?


「うぁー。やっぱり降っちまったか……」


 家の近所にある地域密着型スーパー、アニマート。そこで買い物を終えた俺が入り口の自動ドアから出ると、外では既にシトシトと雨が降っていた。


 あいにくと晴れの予報をアテにしていたせいで、今日は傘を持ってきていない。



「仕方ない。ヒヨリは怒るだろうが、濡れながら帰るか」


『いつも折り畳み傘を入れておきなさいって言ってるでしょ!』


 そんなオカンのようなお叱りが脳内で再生される。


 俺の体調管理に関して、陽夜理はとても口うるさい。やれ野菜をもっと食べろだとか、筋トレをして細マッチョを目指せだとか。


 常日頃から甲斐甲斐しく(?)世話をしてくれる義妹なのだが、意外にも喫煙についてはあまり文句を言ってこない。もっとも、内心ではあまり吸って欲しくないと思ってはいるんだろうけど。



「たぶん、俺が吸い始めたキッカケを知ってるからだろうな」


 今じゃ結構なペースで吸っている俺だが、元々はタバコが大嫌いだった。


 それが変わったキッカケはたぶん、遺品だった父さんのライターを譲り受けたことだろうな。



 歳になり、家のゴタゴタが落ち着いた頃……俺はなんとなく、そのライターを使ってタバコを吸い始めたんだ。


 タバコの銘柄は、なんとなく父さんが吸っていたものと同じにしてみた。つい感傷的になったというか、父さんがどんな気持ちでコレを吸っていたのか、自分でも味わってみたくなったんだ。


 最初はニコチンとメンソールの強さに()せまくったものだが、今ではそれにも慣れてしまった。


 陽夜理も父さんが吸っていた頃はしょっちゅう文句を垂れていたっけ。


 でも今は俺がリビングでタバコをふかしていても、目を細めるだけで特に何も言わない。いや、言えなくなってしまった……のかな。



「おっと、いかんいかん。タバコの事を考えていたら、また吸いたくなってきた」


 ポケットの中にあるタバコに手を突っ込みたくなる衝動を抑えつつ、両手に買い物袋を引っ()げて家路を急ぐ。


 幸い、ここから家まで歩きで10分ほどだ。すこし息を切れさせながらも、歩き慣れた裏路地を早足で進んでいく。


 だが……。



「……なんだ、あれ?」


 アパートが建ち並ぶ住宅街の合間にある、どこにでもあるような狭い路地。いつもはただ通り過ぎている何の変哲もない道だ。


 しかし今日に限って、普段は見掛けないモノが視界に入った。


「捨て猫……?」


 潰して広げた段ボールの上に、大人と子供で似たシルエットの女性が人。それも揃って(うつむ)きながら、その場で体育座りをしている。


 ……この冷たい雨の中、傘も差さずに何やってんだ?



 なんとなく怖いので、横目でチラ見をしながらその隣を通り過ぎようとする。


「……マジかよ」


 予想はできていたが、既に2人ともずぶ濡れになっている。


 長くて黒いシルクのような髪は、ペッタリと着ている白いワンピースに貼りつき、細身ながらも女性らしい身体つきをしているのが分かる。


 というか、雨で下着が透けてしまっていてかなりエロい。しかも人お揃いで紫とか中々やりおる。――って、そんなこと考えている場合じゃねーだろ。



「あの……どうかされましたか? もしかして事件にでも遭いました?」


 たぶん事件性は無いとは思うが、念のために警察へ連絡をする心構えをしておく。


 すると姉なのか、身体が大きい方の女性が顔を上げた。


「うおっ……」


 ――ヤバい。超美人だ。


 大きなクリっとした黒い瞳に、若干青くなってしまっているがプリッとした唇をしている。


 可愛いと綺麗を足して2を掛けたような、大人の色気がある美人なお姉さんだ。


 左目の下にある泣き黒子(ぼくろ)もセクシーで素晴らしい。あまりに俺の好みにドンピシャ過ぎて、思わず変な声が出てしまった。



「あ、あの……?」


 しまった。自分から話し掛けておいて、ボーっとしていた。


「あっ、すみません。ちょっとだけ考えごとを。それより、こんな雨の中でどうしてこんな所に……何かあったんですか?」


 さすがに貴女(あなた)に見惚れていましたとは言えず、誤魔化すように仕切り直して再び問い掛けた。



「実は……その。いえ、やっぱりなんでもないです」


 いやいやいや……。


 文字通りの濡れ烏(ぬれがらす)になっておいて、さすがに"何も"は無いだろう。


 彼女は自身の隣でジッと座り続ける少女を見て、再び俯き黙ってしまった。



「こんな寒い雨の日に、女の子2人だけで地面に座っていて、何も無い訳がないでしょう。俺に言えないような状況でしたら、代わりに警察を呼びましょうか?」


 悪いが、少しだけ語気を強めて言わせてもらった。


 だが、このままではいけない予感がしたんだ。なにより、捨てられて震えてる奴を放っておけなかった。



 “警察”と聞いてさすがに観念したのか、覚悟を決めたお姉さんが俺にしがみ付いてきた。


「見知らぬ方に突然言うのもなんですが……お願いします。どうか私を……いえ、私たち母娘を拾ってくださいませんか!?」



作者「下着は紫、次点で黒がエロいと思っています。異論はもちろん大歓迎!(錯乱中)」

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