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第42話 義妹とクリスマスデート


 小さい頃から、クリスマスが一年の中で一番好きだった。


 プレゼントをくれるけど姿は見えないサンタさん。

 ちらつく雪とキラキラした電飾にデコレーションされた街。

 バケツに入ったチキンにロウソクの灯った大きなケーキ。


 目に入るどれもこれもがトクベツな気がして。


 あの異世界に飛び込んでしまったみたいな、ワクワク感がたまらなく好きだった。


 ――父さんたちが居なくなってからは、一年で一番嫌いな日になった。



「予想はしていたけれど、イブのショッピングモールってこんなにも混むのか……」


 12月24日。俺は以前からの約束通り、陽夜理と一緒にお出掛けに来ていた。


 場所は来音(くるね)駅からシャトルバスで20分ほどの位置にある、大型ショッピングモール。


 少し前にアシュフィールド先生と来た映画館が併設されている場所で、ファッション専門店以外にも食事のできるお店や本屋などが集まっている。


 規模も中々に大きく、1日では回り切れないほどの広さがある。にもかかわらず、今日は家族連れやカップルで溢れかえっていた。



「ううぅ……人が多いよぉ……」


「大丈夫だよ。逸れないように手を繋いでいよう」


 不安そうに周囲を見回す陽夜理の手をしっかり握りながら声をかける。彼女はホッと一息つくと、そのまま腕を絡めて俺にピタっとくっついてきた。


 そんな妹の仕草に苦笑しながらも、まずは陽夜理が以前から目を付けていたらしいインテリアショップへと向かうことに。彼女の目的は観葉植物の鉢植えだったようで、店内に入ると早速物色し始めた。



「お部屋の中でツリーを飾りたいの! ね、いいでしょお兄ちゃん」


「うーん。いいけど、クリスマスが終わったら邪魔にならないか?」


「鉢植えだったらそこまで大きくならないし、庭の花壇に植え替えてもいいじゃない?」


 まぁウチにはツリーが無かったしなぁ。陽夜理も飾り付けでクリスマス気分を味わいたいんだろう。


 つらい思い出を塗り替えられるキッカケのひとつになるんなら、これぐらい安いものか。



「よし、買おう。このモミの木はどうだ?」


 床に置いてあった陽夜理よりも少し小さい、120センチサイズぐらいのツリーを指差しながら尋ねる。


「いいの!? あ、でもこれはモミの木じゃなくて、ゴールドクレストって植物だよ」


「へぇ~、見た目じゃ違いが分かんないもんだな。そうだ、ついでに飾りも飼っていくか?」


 すると陽夜理は嬉しそうに抱き着いてきた。


「やったぁ! ありがとうお兄ちゃん!」


「ははは。どういたしまして」


 妹からのハグを受け入れながら、俺は頭を撫でてあげた。すると陽夜理も甘えるようにスリスリしてくる。


 店員さんからの生暖かい視線を向けられつつ会計を済ませたあと。俺たちは一旦商品を預かってもらってから店を後にし、次の目的地であるペットショップへと向かう。



「ね、お兄ちゃん。このネズミのオモチャ、ボタンが気に入りそうじゃない?」


「確かにな。でもそれならチョコにも何か買ってやんなきゃな。この骨のオヤツはどう?」


 海猫亭の動物たちにも平等にクリスマスプレゼントだ。

 そんなやり取りをしながら、俺たちは両手が紙袋でいっぱいになるまでショップを回る。


 最後にキッチンカーのカフェでホットチョコレートのドリンクを買ってやると、ベンチに座った陽夜理は満足そうにしながら大きく息を吐いた。


 どうやら一日中歩いて疲れてしまったようだ。でも楽しんでくれたようで何よりである。



「お兄ちゃん、今日はヒヨに付き合ってくれてありがとう!」


 ショッピングモールが設置した眼前の大きな特設ツリーを見上げながら、陽夜理は俺の肩に体を預けた。


 プレゼントに俺が買ってあげたモコモコの毛糸帽子が可愛らしい。


「今日はずっと笑ってるね?」


「え? そうかぁ?」


 妹の言葉に、俺は思わず固まってしまう。


 そんな俺の様子に彼女はクスクスと笑った。


「ほら、また笑った」


「……そんなことないと思うけどなぁ」


 基本的に無愛想だから、全然気が付かなかったな……。でも家族と過ごせるクリスマスがこんなにも楽しいと思ったのは本当に久しぶりだったから。柄にもなく浮かれていたのかも。恥ずかしいな……。


 しかし陽夜理はそんな俺の心情を察してか、幸せそうに微笑んだまま口を開いた。



「ヒヨもね、お兄ちゃんとのデートすっごく楽しいよ!」


「……そっかぁ」


「でも、家族みんなでお出掛けしたら、もっと楽しいと思うの」


 家族みんなで? でも家族はもう、俺たちしか……。


「お兄ちゃん、ヒヨに遠慮しないでいいよ? 華菜お姉ちゃんのこと……本当は好きなんでしょ?」


 陽夜理は真剣な眼差しで俺を見つめる。



「ミアお姉ちゃんとね、一緒に話したの。お兄ちゃんたち二人は自分たちに気を使って、素直になれていないんじゃないかなって。でもヒヨもミアお姉ちゃんも……二人のことが大好きだから。だから二人にも大好きになってほしいの」


「ヒヨリ……」


 まさか陽夜理と美愛ちゃんが、そこまで俺たちのことを考えてくれていたなんて。それにしても、俺が華菜さんのことを好きだってこと、そんなにバレバレだったのか? 恥ずかし過ぎるんだが……。


「だからヒヨ、お兄ちゃんと華菜お姉ちゃんの子供見たいなぁって」


「この前にヒヨリが言っていたのはそういうことか……」


 はぁ、あのときは急に何を言い出すのかと思ってビックリしたけど。いや、まさか毎晩のように行為に浸っているってことまで気付かれてないよな!?



「ありがとうな、ヒヨリ。お兄ちゃん、もう少し頑張ってみる」


「うん。一回フラれたぐらいで諦めちゃだめだよ?」


「うぐっ!? どうしてそのことも!?」


「あはは。お兄ちゃんって顔にすぐ出るから、なんでも分かっちゃうもん」


 陽夜理はそう言ってケラケラと笑った。


 はぁ、参ったな。

 この子には隠し事なんてできなさそうだ。



「なんだかヒヨリから勇気のプレゼントを貰っちゃったな」


「きっとお兄ちゃんが、日頃から良い子にしているからだね」


「ふふっ。そうだな、来年もサンタが来てくれるようにもう一年頑張るか」


 でも俺が貰ったのは勇気だけじゃないな。


 ――サンタさんよ、この幸せなひと時をありがとうございます。


 今はこの場に居ない存在にお礼を言いながら、俺は陽夜理と笑い合った。




「はぁぁ……もう今日は疲れたよぉ……」


「あはは。お疲れ様、ヒヨリ」


「お兄ちゃんもいっぱい荷物持ってくれてありがとう!」


 陽夜理が購入した観葉植物の鉢植えを片手で抱えて歩く俺に、彼女は笑顔でお礼を言ってきた。どうやら相当気に入ったらしいな。


 帰ったらみんなで飾り付けタイムかな? そんなことを考えているうちに宿の前まで到着したのだが、道路で華菜さんたち母娘が誰かと揉めているのが目に入った。いったいどうしたんだろう。


「お兄ちゃん……」


「あぁ、行こう」


 疲れた体に鞭を打ちながら、足早に彼女たちの元へ。



「まさかこんな所にいたとはな。――探したぞ、華菜」


「アナタ……」



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