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第3話 妹の機嫌取りなんて朝飯前っすわ


 朝食のメインは、とりたての卵で作った特製ハムエッグトーストだ。それを我が家の小さなコックである妹の陽夜理(ひより)と食べながら、今日の予定について話していた。


「今日は午前中に大学の講義があるから行ってくるよ。帰りにスーパーで食材を買ってくるけど、陽夜理は夕飯に食べたいメニューはあるか?」

「あるあるっ! ヒヨ、お兄ちゃんのチーズインハンバーグが食べたい!! デミグラスソースで!!」


 陽夜理は俺の問いにすぐさま答えた。

 小さな口で(ついば)むように食べているせいで、口の周り中にパンの食べかすが付いている。


「(こういうところはまだまだ子供なんだよな)」


 一応マナーなどは今は亡き両親の代わりに厳しく注意しているつもりだが――


「(ま、可愛いし良いか)」


 ――多少甘くなってしまうのは致し方のない話だろう。



「ヒヨリは相変わらずハンバーグが好きだなぁ。じゃあ汁物はクリームシチューにして、デザートはプリンにでもするか!」


 ――前言撤回。

 俺はどうしても、この年の離れた義理の妹をつい甘やかしてしまう。厳しく注意されているのはむしろ、妹から兄に対してである。

 まぁこれでも兄妹仲は良好。反抗もしないし、このままでもいいのかもしれない。


「やったぁ! お兄ちゃん大好き!!」


 パンくずをパラパラと落としながら椅子を駆け降り、俺にぎゅ〜っと抱きついた。

 くっ、なんだこの尊い生き物は。天使ヒヨリエルか?


 女性らしさの膨らみなどは皆無。だがそういったスキンシップとは無縁()つシスコンである俺には、かなりのクリティカルヒットだった。恐らく今の俺はだらしのない緩みきった顔を晒しているに違いない。家の中ならまだしも、外で見られたら事案になりそうだ。


「か、可愛い妹を喜ばせるのは兄として当然だろう。だからヒヨリもお兄ちゃんの為に学校でちゃんと勉強して、友達ともたくさん遊んでくるんだぞ??」


 腰にグリグリと頭を(こす)り付けていた陽夜理が、兄のセリフを聞いてピシッと固まる。


 ギギギ、と見上げた顔は天使のソレ(エンジェルスマイル)ではなく、般若の顔だった。


「ヒヨはいつもちゃんとお勉強してるもん! 今は友達だって沢山できたんからね!! 意地悪なお兄ちゃんなんて嫌い! べーーっだ!!」


 陽夜理は兄にそう吐き捨てると、廊下に出てトトトト、と走って行ってしまった。……洗い物はキチンと流しに置いてから。


 食事を作ってもらった者が後片付けをする。それが堂森家のルールなので行儀は良いのだが……愛する妹に「お兄ちゃん嫌い」と言われた俺は、あまりのショックで思わずフリーズしてしまう。


「今日、大学休もうかな……」


 トーストのパン屑がビッシリとついている己の脇腹を見つめながら、シスコン男は独りガクッと項垂(うなだ)れた。



 ◇


「よう、相護(そうご)!! おいおいなんだよ、そんなシケた顔をして?」

「別に何でもねーよ」

「なんだよつれねーなー。悩み事でもあんなら、親友であるこの俺がいつでも相談に乗るぜ?」

「だから何でもないって……」


 結局俺は大学をサボることはせず、重い足取りで講義室に向かっていた。

 そんな俺に声を掛けてきたのは、大学で出来た友人の公太だった。いかにも"大学デビューを目指してます!"という痛いヤツで、女からモテる為だけに生きている典型的なアホだ。


 常日頃からヘラヘラとした男なので、やがて付いたあだ名はハム太。それを聞いた本人曰く、可愛いから嬉しいと笑っていた。ヘケッ。



「うわ、くっさ……公太お前、また変な香水買った!?」

「いい匂いだろ? 今回はちゃんと下調べしてからAmaz○nで買ったんだぜ?」

「お前なぁ、口コミの情報を鵜吞みにするなってあれほど言っただろうが」


 この男、モテるための行動力は半端ないくせに、間違った方向性に突っ走るクセがある。

 前回だって髪を自分の手で金色に染めようとして、大失敗。まだら模様のライオンになったり。

 服屋ではモデルのマネをすれば外れないだろうと言って、丈がまるで合っていない服をネットで丸々購入。あまりに袖が長いので、キョンシーというあだ名がつけられたり。


 そして今回が香水だ。どうせに変なうたい文句に釣られたんだろう。


「だってよぉ、男性ホルモンで女性がホイホイ寄ってくるって書いてあったんだぜ? これってもう、媚薬だろ!」

「……この大学、そこそこレベルあるのにお前よく受かったよな」

「可愛い女子が多いって有名だからな! 頑張って勉強したぜ!」

「あ、そう……」


 眩しい笑顔を向けられ、俺は適当に言葉を返すことしかできなかった。


 ……まぁこの男も悪い奴では無いんだけどな。

 公太も俺の家庭事情を知っていて、両親の件のゴタゴタで大変だった時期に色々と支えてくれた面倒見の良い奴だ。陽夜理の件で相談にも乗ってくれたしな。


 ……あんまり認めたくは無いが、親友と言っても良いのかもしれない。



「あ、分かった!」


 そんな公太が何かを思い付いたのか、パチンっと指を鳴らした。


「相護がそれだけ悩むってことは、どうせヒヨリちゃん関連なんだろ? イケメンの公太さんを紹介してほしいとでも言われたか?」

「――あ? てめぇ今なんつった、ハム太」


作者「公太のモデル?作者の実体験?はて、何のことですssss(震え声)

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