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第15話 忘れたい黒歴史


和音(かずね)には、海猫亭の食事で出す野菜を頼みたいんだ」


 ウチの隣にある和音の実家――千羽(せんば)家は代々続く農家だ。

 広大な畑やハウスを持っていて、農協を通して野菜を(おろ)すほどの規模を誇っている。


 この来音(くるね)市は海の近くなので、塩害に強い大根やネギなんかをメインに育てているんだが、その野菜と獲れたての海鮮を掛け合わせた鍋料理はまさに絶品だ。

 我が海猫亭の名物料理にもなっていて、これを目当てに県外からやってくるお客さんが居るほどだったりする。



「ソーゴ兄……それってもしかして!?」


「うーん、まだ確実なことは言えないけどさ。少しずつでも営業を再開できたらいいなって」


 そう言って俺は華菜さんの方を向くと、ニッコリと微笑む彼女と目が合った。


「やったー! 海猫亭が戻ったら、アタシもアルバイトできるじゃん!」


「おい和音。人手が増えるのはコッチも助かるけど、バイト代を出せるほどの余裕はまだないんだってば。それにお前、12月は期末テストがあるんじゃないのか?」


「う゛ぇ゛っ!? 忘れてた……」


 嬉しそうにガッツポーズをしていた和音がピシリと固まる。


 もし赤点なんて取ってみろ。俺が和音の親父さんに怒られちまう。



「だからまぁ、そういうことだからさ。帰ったら、和音のお父さんに『今度仕入れの件で挨拶に(うかが)う』って伝えておいてくれ」


「うん、分かったー。パパも喜ぶと思う!」


「……あぁ、よろしく頼むよ」


 父さんたちが行方不明になったあと、和音の両親には大変お世話になった。傷付いてボロボロになった俺たち兄妹を、心から支えてくれた人たちだ。


『ソーゴ君も知っての通り、俺とアイツは腐れ縁だったからな。あの馬鹿が居なくなった今、俺をオヤジだと思ってくれていい……だから少しは大人を頼れ』


『……ありがとう、ございます』


 誰も味方が居ない中、ああ言ってくれたことでどれだけ救われたことか。

 いわば俺と陽夜理にとって第二の親だ。営業を再開するなら、ちゃんと筋は通しておかないとな。



「でも良かったぁ。アタシ、このまま海猫亭が無くなっちゃうかと思った」


「和音にも長いあいだ心配かけて悪かったな」


「ちょっ、そんなマジなトーンで謝らないでよ。それにほら、アタシたち幼馴染なんだしさ? ……まぁバイトの件は抜きにしても、何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってよね!」


 和音は親父さん譲りの屈託のない笑顔でそう言ってくれた。海猫亭を元気にしようと手伝ってくれるその気持ちは本当に嬉しい。


 華菜(かな)さんという心強い協力者も出来たし、さらに賑やかになりそうだな。



「それじゃあ、野菜はアテができたとして……あとは魚介系の仕入れか。そっちはちょっと気が重いな」


 以前は両親が直に海へ出て釣りをしたり、港市場で貝やカニなんかを仕入れていたんだが。



「たしか、そう簡単には海へは出れないんでしたっけ?」


「そうなんですよね……」


 華菜さんの言う通り、好き勝手に海へ出て釣りをすることはできない。

 漁業権の拾得や漁港の組合に入ったりと、いくつかの段階を踏まなくちゃならないのだ。


 地元民である父さんは、伝手などを駆使してそれらの問題をクリアしていたけれど。なんにも持たない今の俺がそれをやるのはちょっと難しい。それに――



「あー……ソーゴ兄、漁師さんたちに食って掛かったからね」


「ううっ、今となっては反省してるよ。あのときは捜索することで頭が一杯だったからさ」


 あれは俺の中でも早く消し去りたい黒歴史のひとつだ。

 もう数か月も前の出来事だというのに、思い出すと恥ずかしさで頭を掻きむしりたくなる。



『どうして捜索を打ち切るんですか! まだ父さんたちが海で助けを待っているかもしれないのに!』


 両親の捜索は、わずか数日で打ち切りになった。


 最初は率先して船を出して探してくれていた漁師さんたちも、やがてひとり、またひとりと捜索を諦めて去っていく。


 俺なんかよりも海での長期生存が絶望的だってことはよく分かっていたんだろう。でもそれがどうしても耐えられなくて、俺は泣きながら漁港まで直談判しに行ったのだ。



『堂森さんよぉ、さすがにもう……』


『俺たちも仕事があんだ。悪ぃが諦めてくれ」


『うるせぇよ! いいから探せって!!』


『あ゛ぁ? てめぇ、もう一回言ってみろ!』


 水揚げの作業をしながら同情的に見ていた漁師さんたちも、いきなり怒鳴り返してきた俺に声を荒げる。


『うぅ゛っ……、お、お願いします。探してください! 俺の父さんと母さんを!』


『何度も言わせるんじゃねぇよ坊主。さっさと帰れ!』


 当時の俺はとにかく必死だった。漁師さんたちの怒鳴り声にも怯まず食い下がり、あげく(すが)るように掴み掛かってしまったのだ。


 その状況を直接見ていない和音でも知っていたぐらいだから、俺の悪評判は漁港一帯に広まってしまったのは想像に難くないな。



「はぁ……穴があったら入りたい」


 と頭をガックリと項垂(うなだ)れさせる俺に対し、和音がカラカラと笑う。


「そんなに心配すること無いって。パパが言ってたけど、『海の男は酒飲んでカカアを一晩抱けば、賭けで借金こさえていてもスッパリ忘れるモンだ』って」


「いや、娘になんちゅう下品なこと教えてるのあの人!?」


 あの親父さん、以前も食事の席で酒に酔って下ネタを連発した前科がある。


 その場には娘の和音やウチの陽夜理もいたから、その現場を見た和音のお母さんに耳を引っ張られて連れていかれていたっけ。



「とにかく! やるしかないって」


「分かってるよ。今回は俺が海に出るわけじゃないし、取り敢えずは漁師さんから魚を仕入れられないか頑張ってみるさ」


 そう意気込んだ俺はさっそくその日のうちに港へ向かったのだが――。



「悪いが堂森さん、その提案には乗れねぇな」



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