第14話 金髪JK襲来
「はぁ~、結局一睡もできなかった」
華菜さんにハジメテを蹂躙されまくった夜が明け。俺は精魂が尽き果てた抜け殻の状態で、鶏小屋にいるシロミたちの世話をしていた。
「うぅ、腰が痛い」
エサ箱の前で中腰になるだけで、今まで筋肉痛になったことのない部分に痛みが走る。これまた初めての経験に、変な感慨深さが湧いてくる。
ちなみに普段は一緒にいる義妹の陽夜理は、今ここに居ない。彼女には砂霧親子の面倒を見てもらっているからだ。
さっき会った時には「お兄ちゃん、具合悪いの……?」と心配される一幕もあったが、夜中に兄がいかがわしい行為をしていたとはバレていない様子だった。
まぁ陽夜理はまだ小学生だしな。そういう知識も無いから察することもないだろう。
……美愛ちゃんだけは、俺と華菜さんの顔を見比べて首を傾げていたけど。
彼女に「なんか二人とも、一晩の間に仲良くなってない?」なんて言われたときは、さすがにヒヤヒヤした。
「それにしても昨晩のアレは……華菜さんなりの保険だったんだろうな」
お酒に酔ったとか、人肌寂しいとか色んな言葉で誘われたけれど。
俺が「やっぱり家から出て行ってください」とか言い出さないように、あの人は自分の体で繋ぎとめようとしたんだと思う。
「男は童貞を捧げた相手に情が湧く、ってコータが言っていたし」
正直に言ってしまえば、公太の言う通りだった。今さら追い出すなんてできないし、すでに身内同然に考えている自分がいる。
自分でも単純で馬鹿な男だなぁと思う。でも自分なりに考えた上で、できる限りのことをしようと決めたのだ。
「そのためにも、海猫亭の営業を再開しなくっちゃだよな」
やるべきことはたくさんある。
今回は華菜さんという頼れる大人ができたってことだけでも、喜んでおこう。
そんな事を考えていると、香ばしい焼き魚の匂いが漂ってきた。
鳥小屋から顔を出すと、換気扇から薄灰色の煙がもくもくと流れている。どうやら朝食を作っているようだ。
「この匂いはシャケかな?」
この前の特売日に大量に買っておいたシャケが冷凍庫にあったはず。きっと陽夜理がそれを焼いているんだろう。
グゥ、と腹の虫が鳴った。
「うーん。予想外の運動があったせいか、腹が減ったな。さっさと世話を終えて、ご相伴にあずかるとするか」
ちょっと今は焼きシャケの匂いに逆らえそうにない。俺は気合を入れるように軽く両頬を叩き、鳥小屋を出る。
キッチンに行くと、エプロン姿の美愛ちゃんが忙しそうに動き回っていた。
料理中の彼女を横で支えるように、華菜さんが寄り添っている。さすが母親なだけあって見事な連携だ。
そばにいる陽夜理も2人にテキパキと調理器具の場所や使い方を教えている。
「……で? なんでお前が居るんだよ」
「あ! ソーゴ兄、お帰り!」
そして何故か居る4人目。
本来ならここに居ないはずの少女が、どういうわけか俺の席でムシャムシャとシャケを頬張っていた。
「え~? いいじゃん別にぃ、アタシだってココの住人みたいなモンでしょ?」
「いつから和音が堂森家の人間になったんだよ。お前には千羽って苗字があるだろうが」
まるで居て当然かのように振舞っているのは、我が海猫亭の隣にある家に住む千羽和音だ。
来音高校のセーラー服を身にまとい、金色に染めたロングヘアを左サイドでまとめた活発そうな少女。
歳は今年で17だったか……見た目は派手だが中身は人懐っこい子で、ウチの陽夜理とは昔から仲良くしてもらっている。
あとはまぁ、ひと言でいうとアホの子だ。学校のテストで赤点を取り、俺に勉強を教えてくれと泣きついてくることもしばしば。
最近は少し大人びてきたと思っていたんだけど、どうやらそれは気のせいだったらしい。
捨てられた仔犬みたいな顔で甘えてくるので、ついつい甘やかしてしまう俺も悪いのだが……。
「お兄ちゃん、和音お姉ちゃんにお野菜を貰ったの」
「ん、そうなのかヒヨリ」
「アタシのママが二人に持ってけって。そしたら知らない人たちが居たからビックリ! お兄、やっと海猫亭を再開したんだね!」
……え?
まだ営業の再開はしていないが??
あぁ、和音は砂霧親子が民宿の客だと勘違いしているのか。しまったな、どう説明しよう……。
「うふふ、朝から賑やかで良いわね相護くん」
「華菜さん……」
調理が終わったのか様子を見に来た華菜さんは、手を拭きながら話し掛けてきた。
ちなみに華菜さんもエプロンに身を包んでいた。それは彼女が今着ている他の服と同じく、ウチの母さんが生前に使っていたものなのだが……やっぱり丈が合っておらず。
エレベストのような胸の膨らみが今日もまたエロいです。ご馳走様です。
「……?? ……ちょっと陽夜理? あの2人、なんとなく距離が近くない?」
「え? そうかな?」
「うん。変な匂いがする。パパとママがイチャイチャするときみたいな……なんとなくあやしい雰囲気」
あ、ヤバい。
妙に嗅覚の鋭い和音が、俺と華菜さんの距離の近さを嗅ぎ分けたみたいだ。
「おい和音。いきなり変なことを言うな」
「んー、それもそうだよね。こんな綺麗な人が、バカなお兄を好きになるわけ無いもん!」
「お前にだけは馬鹿とか言われたくないわ!!」
いや、俺も時々自分でも自分の頭を心配になるときあるけどさ!
コイツに言われると釈然としないものがあるよね!!
「うふふ、綺麗って言われちゃった」
「もう! お母さんもちゃんと否定しなよ!」
「えぇ~? いいじゃないのぉ」
頬に手を添えて照れる華菜さんだが、その色っぽい横顔も大変素敵でございます。ありがとうございます。
シャケを食べながら様子を見ていた美愛ちゃんは、頬っぺたを膨らませて「む~っ」と俺を睨む。うっ、やっぱり警戒されているなぁ……。
「っと、そうだ。和音が居るなら丁度いい。お前に伝えておきたいことがあったんだ」




