第12話 月から光明が差す夜
「動物喫茶みたいに、この子たちと触れ合える宿があればいいのに!」
黒猫のボタンを抱き上げた美愛ちゃんの何気ない一言は、この民宿のオーナーである俺と妹の陽夜理に衝撃の雷を落とした。
「「そ、そんな発想が……」」
「え? まさか今まで思いつかな「ミア、ちょっと黙りましょうか」う、うん……」
いや、客寄せパンダの為に引き取った訳じゃないからぁ……。
陽夜理の方を見ると、俺と同じことを考えていたようで真顔でコクリ、と頷いた。
動物たちに一番心を救われてきたのは陽夜理だ。そういうお金稼ぎのために利用するような考えは、まず思い付かなかっただろう。
「ご、ごめんなさい。ボタンちゃんたちを利用するつもりじゃなくて……」
「ミアちゃん、大丈夫だよ! ヒヨもお兄ちゃんも、ただ思いつかなかっただけ。あとはこの子たちが嫌がらなければ、すっごく良いアイデアだよ!」
陽夜理はそう答えると、その場の全員の視線が自然と黒猫母娘に集まる。
『うにゃにゃ?』
『な~ご』
「あはは、コイツらはマイペースだから大丈夫そうだよ。でも確か、動物に負担をかけないような法律があった気がする。あとは資格か……」
猫カフェなんかも申請が必要だったはずだ。俺はスマホを取り出して、ネット検索で必要な情報を集めてみる。
「む。むむむー?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「うーん、なんだかいろいろと資格が要るらしい。これなんだけど……」
スマホの画面をずいっと陽夜理に見せてみる。つられて華菜さんと美愛ちゃんも俺の両サイドから覗いてきた。
「どーぶつとりあつかいぎょー?」
「あー。これ全部ですか……」
「えっ、大丈夫なの? もしかしてミア、余計なこと言っちゃった?」
差し出したスマホの画面には、運営上必要な資格や条件などがズラリと並んでいた。
美愛ちゃんは若干涙目になり、オロオロと俺を見つめてくる。
「大丈夫だよミアちゃん。今すぐには無理でも、そのうち俺が「これなら私ができますね。今度申請に行きましょう」――華菜さん?」
話に食い気味で割り込んできたのは、腕を組みながらドヤ顔を浮かべる華菜さんだった。そんなポーズをすれば、その大きな胸が――……。
「小さい頃の夢が、ペットショップの店員さんだったんです。実は会社を辞めたあと、一時期そのようなお店で働いたこともあったので……」
なにこの母娘。俺よりよっぽどハイスペックなんですけど。ていうか、ウチの民宿に居候しなくても簡単に第二の人生を歩めるんじゃないのか?
ジーッと華菜さんを睨んでみるが、彼女はしれっとした顔を崩さない。
「ま、まぁ華菜さんが責任者になってくれるのであれば、願ったり叶ったりですよ。でも、本当に良いんですか? 今日知り合ったばかりだというのに」
「それを言うなら相護さんもでしょう? さっそくお役に立てそうで嬉しいわぁ。ね、ミア?」
「うん! ミアも頑張ってみんなのお手伝いをするね!」
「よろしくね、ミアちゃん! ヒヨも頑張る!」
おぉ、どうやら上手く話がまとまったようだ。
まだ具体的なやり方は決まっていないし、クリアしなきゃいけない問題もある。でも今のように行き詰ったまま経営をしても、いずれは廃業させていただろう。
両親の形見でもある海猫亭を存続させるためにも、ここは勇気を出してやってみるとしますか。
「よし、じゃあ俺も父さんたちが遺した経営ノートを見ながら、華菜さんと相談して今後を決めていくとするよ。ミアちゃん、助かった。良いアイデアをありがとう!」
「うっ、うん。ミアも役に立てたのなら嬉しい……かな?」
えへへ、とはにかんで笑う美愛ちゃん。年相応の、中学生らしいリアクションだ。
時々ツンとしたところもあるが、根っこはお母さん想いの優しい子なんだよな。
方針が決まったところで、その後は和やかに4人で夕食の続きを楽しんだ。
それはまるで本当の家族の団らんのようで、今日が初対面だとは思えないほど笑顔にあふれた食卓だった。
後片付けを女性陣に任せた俺は、一番風呂ならぬ最後風呂から上がり、自分の部屋へと戻っていた。
残り湯? もちろん俺が入る前に、陽夜理が取り換えてありました。
同居するようになったとはいえ、さすがに美愛ちゃんはまだ中学生だしね。
「あの母娘に拾ってくれって言われたときは、一体どうなるかと思ったけど……結局助けられたのは、我が家の方だったかもなぁ」
部屋のライトを消し、ベッドの上に寝転がりながら、ペット触れ合い型の民宿についてスマホで調べてみる。
どうやら動物を扱った営業をするには資格の他にも、専門的な知識や実務経験などが必要だったらしい。
いくら華菜さんが資格を持っているとはいえ、本来のオーナーである俺が何もしないのでは格好がつかない。
さいわいにも今通っている大学で、資格に関することは学ぶことができる。そのうち生物学のアシュフィールド助教授辺りにでも相談してみよう。
方針が決まったところで、スマホをベッドの上に放り投げる。あぁ、寝る前に気分転換がてら一服しておこう。
身体を半分起こし、ベッドサイドにあるタバコに火をつけた。
窓から差し込む優しい月明りと、煙草の朱が部屋を薄暗く照らす。
「明日は砂霧母娘の生活に必要なものを揃えなきゃ。にしても、2人を追い出したクズは許せんな……ん?」
ギイイイ、という音と共に部屋の扉が開いた。
黒猫たちが隙間から入ってきたのか?とも考えたが、扉は俺がしっかり閉めてあったはず。だからアイツらは部屋には入ってこれないのだが……
「……来ちゃった」
――まさかの黒猫が襲来だ。




