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リストラ

作者: 長寿俊之介

「もう明日からはいいから」


 阪田京二さかた きょうじには理解ができなかった。

 上司は何を言っているのだろう?


「は?」


「端的に言えば、君はクビだ」


「・・・」


 いや、端的に言われなくてもクビってことだろう。

 阪田は勤続13年目にして、年下の上司に突然のクビを言い渡されたのである。


「ちょ、待ってください! 急にそんなこと言われても」


 阪田は驚いて反応した。

 倒産したわけでもない。

 ここが、今日、明日、どうなるというわけでもない。

 なのに、阪田がクビを宣告されるとは。


「説明してください!」


「君の居場所はもうここにはない」


「くっ」


 阪田は唇を噛み締めた。


「どういうことですか! 納得できませんよ!」


「私の力ではどうにもならんよ」


 嘘に決まっている。

 どうせリストラ候補の中から、この男が阪田を指名したに決まっている。


 当たり前だが、阪田は仕事を一生懸命やってきた。

 まずまずな仕事ぶりだと思っている。

 それなのに、リストラを食らう理由が見当たらない。


「これ以上、言わせるな」


「だから、納得がいきま・・・」


「うちにはもう必要ないってことだ!」


 ガツーンッ!


 阪田はバットで後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

 めまいがする。

 立っているのがやっとだ。

 意識が遠のいていく。

 致命的な一言。

 やまびこのように、耳の中でこだましている。


 必要ない、必要ない、必要ない・・・。


 これまで、すべて捧げてきたことを否定された。

 もうダメだ。

 こんなところ、こっちから願い下げだ。


「てめえ、この野郎!」


 そう言って、上司に掴みかかりたい衝動を抑えつつ、阪田はすごすごと、自席に戻っていった。

 周囲には同僚が5名ほどいたが、誰も何も言わない。

 巻き添えを食らうのはごめんだし、明日は我が身だからだ。


 誰しも自分がかわいい。

 もし、目の前に、ここを吹っ飛ばす爆弾のボタンがあったら、押しちゃうだろうな、などとバカなことを考えつつ、阪田は私物の整理をしはじめた。


 よくドラマなどで、リストラされた人間がダンボールを抱えて去っていくシーンを見かけたことがあるが、まさか自分がその身になるとはゆめゆめ思わなかった。


 阪田は13年分の私物をまとめていった。

 ウナギ屋の継ぎ足しタレのように、熟成していい塩梅に機能してきた阪田の私物も、今日をもって解散する。


 思わず、泣けてきた。

 だが、涙は流さない。

 こいつらの前で泣いてたまるか。

 いい見せ物になっちまう。

 どうせ、自分が去った後に、みんなで噂するんだろう。


 あいつ、泣いてたよって。


 いい笑い者だ。

 ただでさえ、リストラされて笑い者なのに、これ以上笑い者になってたまるか。

 阪田は涙をぐっとこらえた。


「お世話になりましたあ!」


 これでもか!

 というくらい大きな声で阪田は挨拶をして職場を後にした。

 もうこんなところに用はない。



 刑務所というところには。



 阪田は13年の刑期を終え、出所したのである。


 終


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