97.一度入ったら出られない!?
結局心結はラオに敵う訳もなく……。
先程の出来事を仕方なくだが、話すはめになっていた。
流石にエリゼちゃんとの事は伏せたけど。
「そんな横穴が存在していたのですね
神殿へと続く道ですか……」
ラオも初耳らしく驚きを隠せないようだ。
「そもそもどうして立ち入り禁止エリアなのですか?」
「あの部分は岩盤が脆くなっていて危ないのです。
それに……遥か昔に敵を誘い込む罠の名残で
中は幾つもの迷路のようになっています。
一度迷ったら出られませんよ……」
心結は顔を青ざめさせて声を震わせながら言った。
「ごめんなさい。
もう少し私がちゃんと危険だからと駄目だと言っていたら
こんな事にならなかったかも知れません」
「あなたのせいではありません
教えてくれてありがとうございます」
そんな折に数人のコウモリ獣人の男性が入ってきた。
「ラオ様……」
「どうしました?」
「先ほどの件なのですが……」
そう言いながら、心結をチラチラみて言い淀んでいるようだ。
「ラオさん、私その辺を散歩してきてもいいでしょうか」
「いいですが、くれぐれも遠くにいかないでください」
「はい……」
そう言いながら心結はそっとリュックサックを持って出た。
ラオはすでに何やら深刻に男たちと話こみ始めているようだ。
心結は扉を出て、歩き始めた。
(立ち入り禁止エリアってどこだろう。
中に入らないまでも近くまで行く事はできないだろうか?
もしかしらたキールくんとフェリィちゃんが
ひょっこり帰ってきているかもしれない)
心結はとりあえず、人気のない細い道を選んで
奥へ奥へと入って行った。
「凄いな……。
本当に岩をくりぬいてできているんだな……」
『キュッ……キュキュキュ』
その時急にモンチラが騒ぎ出した。
「どうしたの?モンチラちゃん……
えっ?声が聞こえる?どこから?」
心結は辺りを見まわすが何も聞こえなかった。
するとピョンと心結の肩からモンチラが飛び降りて
奥の方へと駆け出した。
「ちょ………モンチラちゃん!!」
心結も慌てて追いかけた。
暫く走っただろうか、どんどん道が細くなり暗くなり
どうみても危険な場所に出た。
相変わらずモンチラは、こっちだと言わんばかり
走っては心結を振り返り、ついて来いと促す。
「はぁ……はぁ……モンチラちゃん
これ以上はやばいよ……
ラオさんに殺されちゃうよ……戻ろう」
心結は荒い息の中モンチラに告げるが……
モンチラの足は止まらない。
「すでに景色が鍾乳洞なんですけど!!」
(えぇ……!!この先に行くんかい!
もう地下水みたいなのが湧き出ていますけど……)
『キュッキュキュ!』
するとひときわ大きい声でモンチラが鳴いた。
すると先の暗闇の方から声が聞こえた。
「モンチラ?」
急いで声がする方へいってみると……
キールくんとフェリィちゃんが見えた。
「二人とも大丈夫!?」
駆け寄ると、足を怪我したキールくんと
泣き疲れたのだろう……
キールに寄り添って眠っているフェリィちゃんを見つけた。
「お姉さん!! どうして此処に」
「二人が帰ってこないから、村中大騒ぎだよ。
どうしてこんなところに?」
心結はキールの足の手当てをしながら訪ねた。
「あの後一回家に帰ったんです。
でも気が付いたらフェリィの姿がなくって……
お気に入りの鞄もなかったからきっとエリゼちゃんの所に
一人で勝手に向かったのだと思い追いかけました」
「フェリィちゃんが心配になったんだね?」
キールは黙って頷いた。
「そっか……」
「そうしたら……
途中で岩盤が崩れてきたので、二人で避けようとして
転んでしまい動けなくなりました」
そこまでいうと、耐え切れなくなったのだろう。
キールは心結にしがみつき泣き出した。
「……怖かった……っ……
死んでしまうかと思って……でも俺……お兄ちゃんだから」
我慢したんだね。
大人びて見えるけどまだ子供なんだよね……。
心結はぎゅっと抱きしめて頭を撫でた。
「えらかったね……よく頑張ったね
さすがお兄ちゃんだね!」
『キュッ!キュ』
「モンチラちゃんも“お前はりっぱな戦士だ”って
言っているよ」
「へへっ……
あのモンチラに認められたってあいつらに自慢します」
泣きながらもキールはドヤ顔をしていた。
そんな中……
騒がしかったのか、フェリィが目を覚ました。
「お姉さん……モンチラちゃん!?」
『キュッ!』
「どうしてここに?」
フェリィちゃんは嬉しそうにモンチラを撫でた。
「それはこちらのセリフですけど?
どうして一人でエリゼちゃんの元へ行こうとしたのかな?」
心結は少し呆れて怒ったように言った。
「…………ごめんなさい……」
その瞬間キールとフェリィのお腹の音が
鍾乳洞に響き渡った。
グゥゥウウウウウウ~!!
「フフ……凄い音がしたね」
二人は真っ赤になりながら俯いた。
「ちょっと待ってて、何かあったかな」
心結はリュックの中を覗いてみた。
(おぉ!いいのがあったぞ)
「二人にいいものあげる。手を出して」
素直に手を出す二人に、数枚のクッキーをのせた。
「うぁ~可愛い。
お魚さん達だぁ!ヒトデさんもある……」
「俺のはイカだ!カニもあるぞ~
サメのが一番かっこいい」
二人はシャークさんの作ったクッキーをみつめて
目をキラキラさせて喜んでいた。
(シャークさんの作ったアイシングクッキーは
見た目も味も天下一品だからね!)
「食べるのが勿体ないなぁ。
エリゼちゃんにもあげたい」
(フェリィちゃんは本当に優しい子だな)
「まだたくさんあるから大丈夫だよ。
ひとまず食べて!お腹すいていると帰れないよ」
「はい」
二人は大事そうに見つめていたが、食べ始めた。
「美味しい、ほっぺた落ちちゃうね」
「旨い……」
モンチラも美味しそうにフェリィの膝で
クッキーを齧っていた。
「ところで、岩盤が崩れたって言っていたけど
元来た道が通れないってことかな?」
「はい、通れなくなっていると思います。
逆にお姉さんはどうやってここまできたのですか?」
「私はモンチラちゃんの道案内で……」
といった瞬間……また大きな地鳴りがした。
(これはまずい……長居は禁物かも……)
「二人とも立てるかな?
擦りむいたところはもう痛くない?」
「はい」
「それじゃぁ、帰ろうか」
心結が来た道を戻ろうとした時だった。
またもや地鳴りが轟いたかと思ったら……
少し前の空間に岩盤が落ちてきて道を塞いだ。
「…………」
(噓でしょ!! 閉じ込められた)
三人と一匹は唖然とその光景をただただみていた。




