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94.女神のいない国

セレスト王国の王子様であったコウモリことラオさん。

まさかそんな壮絶な過去があったなんて驚きだ。


「現在はそのイヌワシ獣人達がこの国の王に?」


「そうです。

父を暗殺した息子を王として君臨させ……

陰から操っているのが、あなたの言うところの……

イヌワシ獣人のハゲオヤジです」


「フ……やめてよ。笑ってしまうじゃない!

人が真剣な話をしているのに」


心結はふくれながらも笑いが止まらないようだ。

ひとしきり笑って心結は真剣に切り出した。


「ねぇラオさん、この国は船団って所有している?」


「持っていますね。

しかも、ここ数年で規模を拡大しているみたいです。

何故そのようなことを聞くのですか?」


訝しむ様に片眉を顰めて心結をみた。


「いや……その……」


(どうしよう、マーくんの話はできないしな)


心結が困ったようにオロオロとしていると

ラオの方から言ってくれた。


「もしかして密漁船のことですか?

シレーヌ様から何か聞いたようですね」


「そうです!だからもしかして……

イヌワシ獣人のハゲオヤジのせいかなって」


「ククク……、もうすっかりその呼び方が定着して

しまっているではないですか。

悪い女だ……。

十中八九ハゲオヤジの仕業だと思います」


(やっぱりそうだったか……。

犯人はわかったけど、どうしたらやめさせられるかな

早くしないとマーくんが大暴れしちゃう)


「あの男は野心が強い男です。

世界にうって出たいのでしょう。

正直言ってこの国は、他の国より発展途上国ですからね」


「その為の足掛かりに資金がいるということですね

その為の海の密猟という訳ですか」


「そんなところです」


「しかし何故、そんな事をするのですか?

この国は山という資源が豊富にあるじゃないですか。

山の恵みって食べ物から鉱石、そして木材……

考えてみたら結構ありませんか?」


「そうですね、それはあくまで女神さまの力の恩恵を

受けていればの話です」


(あっ!大事なことを聞くのを忘れていた)


「ところでラオさん、この国の神様はどなたですか?」


「空の神“エリゼ”様です」


「空の女神さまか……」


心結は天使のような美しい羽根を持った姿を思い浮かべた。

そんな妄想に水を差すようにラウルは言った。


「しかしもうきっと不在だと思いますよ。

父が殺されたあの日以来……

いなくなったと聞いています」


「えっ?女神さまが不在なんて事あるのですか?」


心結は目を剝いた。


「ありますね。

女神さまが去ったからなのでしょう。

木々は枯れ、動物はいなくなり……

貴重な鉱石はただの石となりました。

そして……山は死の山と化しました」


(アナースタシア様!

女神さまのボイコットが起きていますよ!!

聞いていませんよ!そんな事!)


「原因はなんでしょうか?」


「人々の心が荒んだからではないですか?」


(確かに今までの女神様達を見ていても……

国民の皆さんの楽しい気持ちがエネルギー的なこと

言っていたもんなぁ)


心結は遠い目になった。


(どうやって呼び戻すことができるのだろう。

というかそもそも何処にいったの?)


「ちなみに神殿は何処にあるのでしょうか?」


「山の中腹辺りにありました。

ほら……あそこに白い建物がみえませんか?」


心結が目を凝らしてよく見ると、確かに城から少し離れた

山の中腹に白い石造りの建物の一部が見えた。


「はい、何となくですが……みえました。

ラオさんって、凄く目がいいですね」


「私の母はイヌワシ獣人です。

きっとその血がなせる業なのでしょう……」


また切なそうに城を見つめるラオ。


「ラオさん……聞いてもいいですか?」


「何でしょう……」


「お母様は……」


ラオの瞳が動揺に揺れた。

やがて小さな声でポツリと一言いった。


「わかりません……」


「そうですか、辛いことを聞いてしまいました。

ごめんなさい」


胸に込みあげてくるものを何とか抑え込んで

心結は真摯に謝った。


「いいえ、いいのですよ」


(もしかしたら、お母様の姿が見えるかもしれないと思って

この窓から城を眺めるのかな)


心結は寂しそうなラオの横顔を見つめてそう思った。


「しかし女神様不在はまずいですね……。

戻ってきてもらう方法はないのですか?」


「さぁ……どうでしょうか」


そんな時、カタンと扉の方から音がした。


「誰です!!」


ラオが新しい仮面をつけて素早く振り返ると

数人の子供たちがそっとこちらを覗いていた。


「あなたたちここで何をしているのです」


すると子供たちが……

お互いに身体を押し合い、何か揉めているようだった。


「お前が言えよ……」


「無理…………」


「やだよ、見たいって言ったのはお前じゃないか」


何やら数人で誰が言うか揉めているようだった。


ラオはそんな様子を見て静かな声で言った。


「ひとまず全員ここに来なさい」


ビクビクしながら4人のコウモリ獣人の子供たちが

二人の前にやってきた。


「どうしてあのようなところにいたのですか?

キール答えなさい」


ユーゴくんくらいの年齢だろうか……

比較的大きな子に説明を求めるようだ。


「ごめんなさい……ラオ様。

フェリィがどうしてもモンチラを触りたいっていうので」


一番ちいさい女の子のコウモリ獣人の事だろう。

泣きそうになりながら、キールの後ろに隠れている。


他の小さい男の子たちも、同様に泣きそうになりながら

ラオの顔色を伺っていた。


ラオはフェリィの元にいき、目線をあわせるようにかがんだ。

そして優しい声で言った。


「フェリィ、キールが言ったことは本当ですか?」


女の子は小さく頷いた。


「それならば、自分の口で狼獣人のお姉さんに頼みなさい」


「えっ……」


女の子は心結をみて青ざめた。

他種族の大人の獣人が怖いのだろう。


しかし同時に、心結の肩にいるモンチラをチラチラ

みながら気にしていた。


女の子は手をぎゅっと握って、震えながら言った。


「お姉さん……、モンチラを……触らせてください」


(すごい全身がプルプルしている。

可愛いな……いじらしいわ……

惜しいなこれでモフモフっ子だったら最高なんだけどな)


心結はそれでも感動していた。


「モンチラちゃんいいかな?」


『キュッ…………』


モンチラは渋々納得してくれたようだ。


心結はモンチラを両手にのせて、そっと女の子の前に出した。


「優しく触ってあげてね。

尻尾は嫌がるから、触らないでね」


「はい……」


フェリィちゃんは、目をキラキラさせながら

そっとモンチラの頭を撫でた。


「うぁ……ものすごいモフモフ」


『キュッ……ッ』


モンチラはフェリィの腕の中へと飛んだ。


「飛べるんだね!全身モフモフ……可愛い。

キール凄いモフモフだよ!」


興奮しながらも嬉しそうに報告をしていた。


「よかったな……」


キールも目を細めてその光景を見守っていた。


「他の皆はどうするのかな?」


「えっ?」


男子たちは顔を見合わせて固まった。


「モンチラは……」


やはりここでも怖いものだと教えられているようだ。


無理です、俺たち……。

と顔に書いてあった。


「フフ……可愛いよ。モフモフだよ」


心結はニヤリと笑ってすすめるが……


男の子達は無言で、拒否しますと言わんばかりに

首を横にふっていた。


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