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92.打ち捨てられた町

なんで私は……

あの変態コウモリ男と旅なんかしているのだろう。

心結は今更ながら、自分の行動を反省していた。


自分の名前を喉が裂けるのではないかと思えるほど

悲痛に叫んでいたラウルの手を……

あの時はどうしても取ることができなかった。


このまま元の世界に帰ることができればいい。

そうしたら、ラウルさんも私もきっとお互いに忘れて

平和に生きて行くのだろう。


近くに見える険しい山々の景色を見ながら

そんな事をぼんやりと考えていたら馬車が止まった。


(目的地に着いたのかな?)


荷馬車からそっと降りた。

そこは山の麓にある大きな洞窟の入り口の前だった。


「着きましたよ、聖女様」


コウモリ男は、近くの木に馬を繋ぐと心結を連れて

洞窟の入り口まで歩き出した。


「ここは何処ですか?」


「ここはセレスト王国です。

そしてこの場所は時が止まり打ち捨てられた……

ただの町とでもいいましょうか」


更に洞窟の奥に進むと、鉄でできた大きな柵が見えてきた。

そこにはコウモリ獣人と思われる男たちが立っていた。


「おかえりなさいませ、ラオ様」


男たちは嬉しそうにコウモリを迎え入れた。


(ラオって名前なんだ……

というか……何故みなさん仮面をつけているのだろう)


すると柵の中からたくさんの小さなコウモリ獣人の子供が

わらわらと出てきた。


「おかえりなさい、ラオ様」


「ラオ様、今度は何処の国に旅にいったの?

お話を聞かせてください」


「美味しいお菓子はあるのですか?」


みるみるうちにコウモリ男は子供たちに囲まれていた。


「お前たち、落ち着きなさい。

客人の前ですよ……」


少し恥ずかしそうに、コウモリ男は子供たちを窘めた。


すると一斉に子供たちと大人のコウモリ獣人は

心結達の存在に気が付いた。


「ヒッ!!」


すべての子供たちは怯えてコウモリ男の後ろに隠れた。

大人のコウモリ獣人も遠巻きで見ている。


「えっ…………と」


まさかの行動に心結とモンチラは困惑した。


(どういうことか説明してください!!)

と、心結は激しく目で訴えた。


「大丈夫ですよ。

この狼獣人のお姉さんは酷いことはしませんから」


そう優しく子供たちにコウモリ男は言った。


「本当に?噛まない?叩いたりしたりしない?」


心結はその言葉に衝撃を受けていた。

どういうこと?


「立ち話もなんですから、中へどうぞ」


コウモリことラオ様は、荷馬車の荷物を男たちに託し

心結を中へと案内した。


洞窟の中は想像していたよりかなり広く……

岩の中にちいさな町がすっぽり入ったようだった。

中はヒンヤリとして涼しいくらいだ。


天井をみあげると、一部分開いていて空がみえる。

そこから時より出入りしているコウモリ獣人の姿が……。


町の中心広場だろうか、噴水のような物もあった。


「凄いですね、まさかこんな風景が洞窟の中に

広がっているとは驚きです……」


心結は口をあんぐりさせながら辺りをみまわしていた。


ときよりコウモリ獣人をみかけるが……

みんな一様にビクビクしながら心結を遠巻きにみつめていた。


(なんか嫌だな……この感じ)


複雑な気持ちになりながらも、はぐれない様について行った。

やがて、奥まった場所にあるひときわ大きい扉の前にきた。


「わが家へようこそ、聖女様」

そう言って、コウモリ男は恭しく扉をあけた。


「わざと楽しんでいるでしょう……。

お招きありがとうございます、()()()


心結も負けじとニヤッと笑って言い返してやった。


中は派手ではないが、質のいいシンプルな調度品が

飾られた居間がみえた。


窓だろうか、岩をくりぬいた後にガラスがはめ込まれて

開閉できるようになっているようだ。


『キュッ……』


モンチラが心結の肩からおりて、窓の方へ向かった。


『キュッ、キュッ』


開けてくれと言わんばかり鳴いた。


「窓を開けることは可能ですか?」


心結はラオに聞いてみた。


「あぁ……かまわないですよ」


そう言ってお互いに窓を開けようとしたのが

いけなかったのだろうか。


心結とラオは同時に同じ方向に向かったので

激しくぶつかってしまった。


その拍子にラオの仮面が割れてはじき飛んだ。

その時に心結は初めてコウモリ男ことラオの素顔をみた。


「ラオさん…………!!」


額から血がと言おうと心結が近づこうとした時だった。


「見るな!! 来ないでくれ!!」


ラオは急に取り乱したように顔を両手で覆って叫んだ。


「だって額から血が……」


心結は背負っていたリュックからハンカチを取り出すと

ソファーの隅で小さくなっているラオの元へ駆け寄った。


「見ないでくれ……頼む……」


カタカタと震えて顔を覆ったまま俯くラオ。


〈あの時のような目をあなたにまで向けられたら

俺は……俺は……〉


尋常じゃないくらいラオは怯えていた。


しかし心結は何を勘違いしたのか……

傷の手当てを怖がっていると本気で思っていた。


「いい大人がごちゃごちゃいわない!!

痛くないから!しみないから!

黴菌が入った方が怖いんだからね」


心結はそう言うと、ピッチャーに入っている水で

ハンカチを濡らすとラオに近づいた。


「はい、手をどけて?大丈夫だから」


優しく言ってきかせた。


「…………」


少しの迷いの後……ラオは諦めたように手をどけて

心結を真正面からみた。


「たいした傷じゃないじゃない。

フフ……怖がるから、よっぽど酷いものかと思ったわ」


心結は何も変わらず微笑んでいた。

そう言いながら、てきぱきと血を拭って薬らしきものを塗った。


そして優しく傷の上に手を置いてこういった。


()()()()()()()()()()()()


流れるような一連の作業にラオは何故か爆笑していた。


「アハハハハハ…………

ククククク……ハハハハハ………」


〈この人型はそういう人でしたね。

見かけで人を判断するような輩と一緒にしたら失礼でした。

あんなにも怯えていた私がバカみたいだ……〉


急に壊れたように笑いだしたラオに首を傾げる心結。


「大丈夫?頭打った?」


「痛いの痛いの飛んでいけって

何の呪文ですか……ククククク」


目尻に涙までにじませて爆笑し続けていた。


「これは日ノ本ジャパンという国の呪文です。

怪我をしたときにこれを唱えると……

不思議なことに痛くなくなるのです」


心結はドヤ顔でそう言った。


「怪しげな呪文ですね……」


(一番怪しいお前が言うな!!)

心結は心でツッコミをいれていた。


暫く二人で笑ったあと……

ふとラオが呟いた。


「私のこの目をみて……なんとも思わないのですか?」


ラオの目は艶めいた乳白色をしていた。

黒目の部分が全くなかった。

いわゆる白目状態とでも言うのだろうか。


しかしとてもきれいな瞳をしていた。

ムーンストーンのような宝石が目に嵌っているようだった。


「白い宝石が嵌っているようで綺麗だなとは思うけど……

えっ?もしかしてその事を気にしていた感じ?」


ラオは乳白色の目を見張った後、安心したような笑顔をこぼした。


「全く……あなたにはかないませんね」


〈たいていの人はこの目に怯え……

異質なものとして排除するのですよ……〉


「何が?えっ?」


「ありがとうございます」

ラオは聞こえない様にそっと呟いた。



ラオはモンチラの為に窓を開けてやり、心結を手招きした。


「あそこに城があるのが見えますか?」


ラオが指さす方を見ると、険しい山頂付近にそれは見えた。

岩山を削って作られたであろう白亜の宮殿のようだ。


あのような精巧な城を作るのは、さぞかし技術がいったであろう。

まるで空に浮かぶ天空の城のように見えた。


「あれがかつてこの国の王が住んでいた城だ」


ラオの目に懐かしそうな色が浮かんだ。


「今は違うのですか?」


「昔の話です……」


ラオはギュッと窓の桟を握りしめると話し出した。



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