84.女神様なのかな?
心結はお詫びとモンチラちゃん達を迎えに行くために
シレーヌの執務室にむかっていた。
狼さんは、またどこかにふらりと消えて行ったみたい。
コンコン、豪華な扉をノックした。
「ミユウかい?入っていいぞ」
心結は扉をあけて中に入ると、開口一番頭を下げた。
「この度は、本当に色々とすみませんでした。
それとご心配をおかけいたしました」
そんな心結の行動に目を見開いて驚いていたシレーヌだったが
直ぐに心結をそのまま抱きしめた。
「ばかだね……。
謝る事なんか、何一つないさ。
いいんだよ、そんなに頑張らなくて。
あんたは自由に好きなように生きている姿が一番さ」
「シレーヌさん、ありがとうございます」
心結もギュッと背中に腕を回して抱きしめかえした。
『キュ……キュゥゥゥゥ』
そんな二人の間にモンチラも参加してきて……
暫くのあいだぎゅっと抱きしめあっていた。
幾分か落ち着いて、心結はモンチラと一緒に
桃風味の果実水を飲んでいた。
目の前には、貝の形をしたマドレーヌのような
焼き菓子もおいてあった。
しかもマドレーヌの上には真珠や蟹、珊瑚など
砂糖菓子飾りもついていて芸が細かい。
「焼き菓子といい……
この前のクッキーといい可愛いお菓子が多いですね」
心結は美味しそうに焼き菓子を食べていた。
「ん?これか、これは全部シャークが作ったものだ」
「えっ?シャークさんが」
心結は驚きのあまり食べる手が止まった。
(あの見かけで、こんな可愛いものを一人で
ちまちまつくっているのか!?)
「フフ……見かけによらず器用だろ。
我々魚人は甘いものが大好きなんだ。
特にシャークは好きみたいだな。
しかもあいつの作品は可愛いものが多い」
シレーヌは目を細めて笑みをこぼす。
(だからあんなにもゼリーに食いついていたのか)
そう思いながら、ふと部屋を見まわしていると
部屋の一角に祭壇のようなものを見つけた。
なぜか心結の作ったみかんのグミもどきが
お皿いっぱいに盛られ供えられている!
恐らくシャークさんがおこなったのだろう……
小魚や貝の形にくりぬかれて可愛い形に加工されて
供えられている。
(相変わらず抜かりはないな、シャークさん……
もうパーケージに入れたら販売できるレベルだよ)
祭壇には、珊瑚でできた像が祀られてあった。
恐らく神様であろう。
しかしそれは、サイドチェストのポーズをきめている
ムキムキマッチョな男性の像だった。
(ボディービル大会の優勝トロフィーか?
ってツッコミ入れたいくらいなんだけど……
神様の像だよね、きっと)
「シレーヌ様、あの方は海の神様ですか?」
「ん? あぁ……そうだ。
我が国が信仰する海洋神“マラハン”様だ」
(神様来たぁぁ!! 今回は女神さまじゃないのか)
「海の神様と言うと……
航海を安全にできるように祀っているのですか?」
「そうだな、海全般に関する願いをかけている
と言った方がいいかもしれん。
国民は大漁を願ったりもする事が多いな。
この船には、特別に“マラハン”様を祀っている部屋がある。
よかったら、祈りを捧げるか?」
「はい、是非お願いいたします。
モンチラちゃん達はどうする?」
『キュ…、キュキュ……キュ!』
「なんと言ったのだ?」
「お菓子を食べすぎたそうです。
だから眠いので、お留守番するとの事です」
「本当に通じ合っているのだな」
シレーヌは感心しながら、心結たちを見つめた。
よし、これでまた新たな神様に出会える!!
心結は喜び勇んでいた。
すぐさまシレーヌに連れてこられ……
黄金の錨のマークがついた扉の前にきた。
「ここが、“マラハン”様の部屋だ。
いつでも誰でも入れるようになっている」
そんな説明を受けながら、二人で部屋に入ろうとしていると
遠くから魚人が焦ったように走ってきた。
「姉御!探しましたよ。
至急確認して頂きたいことがあるのですが」
魚人はせっぱ詰まっているようだった。
「シレーヌさん、私一人で大丈夫ですから
いってください」
「すまない……。
部屋に帰るには、この道をまっすぐ行って3つ目の角を
左に曲がれば帰れるからね」
「はい、わかりました」
心結は一人部屋の中に入った。
そこには、先ほどの二倍の大きさがあるだろう祭壇があり
これまた更に大きな珊瑚で作られたマッチョが……
いや、海洋神“マラハン様”がお出迎えしてくれた。
(何度見てもムキムキのマッチョボディ……。
決めポーズをしないと駄目なの?これ……。
海の男だからなの?
ワイルドが売りなの?
それなのになぜピンク珊瑚仕様!!)
色々思うことはあったが……
いつもの如くひざまづき、祈りを捧げることにした。
(海洋神“マラハン”様……
いらっしゃいますでしょうか……)
間髪いれず声が聞こえてきた。
「あらん……かわいこちゃんひとりなの?」
祭壇からピンクのイルカが飛びだしてきた。
エクステですか?くらいの睫毛がバッサバサで
紫のラメアイシャドウばっちりのイルカだった。
「…………!!」
その姿と話し方に心結は絶句した。
「イケメン狼くんがお供にいるって聞いていたから
いつもよりおしゃれしてきたのに……
もう……い・け・ず」
そう言いながらピンクのイルカはくねくねしながら
ヒレをバタつかせていた。
(オネェの神様降臨しているのですが……
外見と中身のギャップがエグイ……)
「海洋神“マラハン”様でしょうか?」
努めて冷静を保って、心結は問いかけてみた。
「もう、そんな硬い呼び方は駄目よ。
マーくんって呼んでね」
そう言ってピンクのイルカはウィンクをした。
(呼びづらいわ!!
というか……呼べるかっ!)
ギラッと強い視線の圧が心結に降り注いだ。
マーくん以外は認めなくってよ。
可愛いイルカが一瞬にして海のハンターになった。
「マ……マーくん?」
心結は狼狽えながらも名前を呼ぶしかなかった……。
「は~い、あなたの事は、アナちゃんから聞いているわ。
無類の変態!じゃなくて……
モフモフスキーなんでしょ」
(アナースタシア様、どうしてまず皆さんの導入部分が
変態から入るのでしょうかね!?
悪意すら感じますけどぉ!)
「今回はモフモフ用意できなくてごめんなさいね。
海の生物って、モフモフ仕様なものがあまりないのよぉ」
申し訳なさそうにイルカはしょんぼりした。
「ワモンアザラシにしよかとも思ったのだけど
私の感性に合わなかったのよねぇ。
シロクマもベタすぎるでしょう……」
「はぁ…………」
(モフモフ申し送りいりませんけど!
もう皆さん通常運転の神様仕様で出てきてくださって
かまいませんけども)
「そうなると……あとはもうウミウシとか?
毛蟹とかになっちゃうのよね」
溜息をつくピンクイルカの海洋神……。
(毛蟹って……モフモフってそういう事じゃない。
選択肢の幅がおかしいから!!)
「オキモチダケデ、ケッコウデス」
心結は遠い目になった。
「だからイルカさんにしちゃった、きゃっ。
見た目も可愛いしね~。
モフモフではないけれど、ツルツルよ」
触って、触ってと言わんばかり、お腹を見せてきた。
「失礼します……。
トゥルトゥルですね……」
心結はそっと、イルカのお腹を撫でた。
(ナスだな……さわり心地はナスだわ……)
「喜んでくれて何よりだわ~」
そう言うとピンクイルカはくねくねしながら
心結の周りを飛び跳ねていた。




