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83.たまにはデレる事もあるのだね

その人と一匹は音もなく現れた。

その姿を見た瞬間、シャークを始め料理人達は

俺たち……終わった……と思った。


「何を騒いでいるんだい?」


シレーヌと狼のラウルが、心結たちの前にやってきた。

そこで屈強な男たちに囲まれている心結を見つけた。


「ミユウ……!

泣いているじゃないか、まさかお前たち……

泣かせるようなことをしたのかい?」


シレーヌと狼から只ならぬ殺気が立ち込めた。


全員高速で違いますといわんばかり首を横に振った。


「ぐす……、違うのです……。

皆さんの……せいでは……ない……です……っ」


心結は泣きじゃくりながらも、今までの経緯を説明した。

いかに皆が協力してくれて、頑張ったことも伝えた。


「そうだったのかい……」

話を聞いて感動したシレーヌは涙ぐんでいた。


〈心結……またお前が発信源か……

本当にお前はいつも誰かのために全力投球だな……〉


ラウルは半分呆れていたが、何故か愛おしさも込みあげていた。


「シレーヌさんに……

そして皆さんに美味しいゼリーを食べて……

貰いたかったんです……それなのに……ぐす……

こんな仕上がりに……っ。

私これくらいしか、お礼の方法がみつからないから」


ぽろりと、涙が溢れて頬を伝わった。


「その気持ちだけで十分さ。それに……」


シレーヌは、ひょいとグミ状のゼリーの塊を

一掴みするとそのままパクっと食べた。


「これは、これで不思議な食感で美味しい。

噛めば噛むほど味が出る!

これならば作業しながら食べられるな……」


そう聞くとシャークを始め、次々と料理人達も試食を始めた。


「おもいのほか、旨いですな」


副料理長も、モグモグさせながら頬張っていた。


「ミユウ……あんたやっぱりすごいよ。

これは海を渡るもの達にとって、画期的な商品になるよ」


シレーヌはそう言いながら、パクパクとみかんグミを食べた。


「…………っ……」


心結はもはや、嬉しいのか悲しのかもうごちゃまぜで

自分の気持ちのコントロールが付かなくなっていた。

もちろん涙の止め方もわからない……。


そんな心結の元に狼がそっと近寄って行った。

心結も自然に狼の元へ……


そして狼は、心結の目の淵に溜まった涙を

優しくついばむように舐めとった。

狼の鼻先で心結の鼻の先に優しくキスをしてから……

それから慰めるかのように何度も何度も、頬をすり寄せた。


「…………」


心結は心結でぎゅっと狼の首に抱き着いている。


「ほぅ…………」


〈見せつけてくれるじゃねぇか、オオカミの旦那〉


〈これが番の愛か!!〉


厨房内の料理人達はそんな二人の様子にあてられていた。


若い下働きの少年は、真っ赤になりながらも……

顔を覆う指の間から二人の様子を見つめていた。


「ミユウを少し休ませてやりな。

自分でも気が付かないうちに気を張っていたのだろう」


シレーヌはそう言うと、ラウルに目配せをした。


狼は心結のスカートの裾を引っ張ると、来いと促した。

二人はそのまま厨房を後にした。


幼体モンチラは流石に空気をよんだのか

そのまま厨房に残っていたのだが……。


そんな二匹を誰が相手をするのか?

問題が勃発していた。

イカツイおじさま魚人筆頭に、遠巻きにみていた。


〈モンチラどうするんだよ……〉


〈俺……無理っス〉


皆真っ青になりながら、首を横に振っていた。

そんなヤローどもを呆れたように見ていたシレーヌは


「あんたたち、私の部屋で甘い物でも食べるかい?」


そう声をかけると、モンチラは頷いた。


『キュゥ!』


モンチラだって、イカツイ魚人よりも奇麗なお姉様がいいのだ!

かくして厨房には平和な日々が戻ったのであった。



心結と狼のラウルは、シレーヌが用意してくれた

秘密の部屋で寛いでいた。


厨房を出たあと心結は泣き疲れて、ラウルの背中の上で

寝てしまったからである。


部屋の中に入るとラウルは獣体から獣人へと戻り

そのまま心結を横抱きにしてベッドへ寝かせた。


「無理すんな……」


自分も心結の横に添い寝するように横たわり

心結の涙の跡を拭うように、頬を撫でた。


いつでもどこでも元気だと思っていた心結だったが

よくよく見ると疲れた顔をしていた。

目の下にもうっすらだが隈のようなものも見える。


〈まったく手がかかる娘だ……〉


ラウルはしばらく心結の寝顔をみつめていた。

しかしらしくない自分の行動がだんだんと恥ずかしくなった。


その為に、心結を起こさないようにそっとベッドから

出ようとした時にそれは起こった……。

「いたっ…………っえ?」


〈おまえ……なんで俺の髪を握っているんだ!!

自分の方に引き寄せるな……う……っあ!

このままでは心結を押しつぶしてしまう!!〉




心結は夢を見ていた。


「……ラウルさん、どうしてここに……?」


何故か自分はベッドの上でラウルさんに組み敷かれていた。


(本当にこの人、黙っていれば息を飲むほど美しい人だ。

いつもなら冷徹で冷たい瞳なのに……

こんなに熱の籠った優しい瞳でみつめてくれる事もあるのね)


「心結……」


(初めてこんな優しく甘い声で名前を呼んでくれた……)


「……………!」


しかもバスローブの前がほどけて、チラッと覗く胸板……。

やだ、色気が凄すぎて鼻血がでそうだ……。


ボーナスステージ!?

これはボーナスステージなのか!?


もしや噂の“()()()()()()”ってやつなのかしら!!

ハッ……罠!? それとも罠なの!?


これ以上は無理!無理!無理!無理!

誰かぁぁぁぁぁ!!

この状況を説明してくれ!!



ガバっと飛び起きた。

どうやら船中の自分の部屋のベッドの上らしい……。


思わず辺りをキョロキョロと確認してしまう。

勿論ラウルさんは、いるはずもなく……。


お前どうした?いきなりなんだ?

と言わんばかりの狼さんが、向かいのソファーで

欠伸をしながら心結をみていた。


「夢か……」


(リアルすぎて、心臓止まるかと思ったよ

なんでセクシーモード炸裂のラウルさん……)


心結は思い出して、一人で真っ赤になって身もだえた。


(恥ずかしくて……死ねる)


そんな心結をみながら、冷静を装っていたラウルであった。

が、内心は生きた心地がしないほど動揺していた。


心結が夢だと思っていたことは、すべて現実に起こった事だった。


不可抗力での出来事だったのだが……。

あのような甘い恋人のひと時のような雰囲気になってしまった。


ラウルからすれば、途中で心結が目を覚ましてしまい

正体がばれたのではないかと大いに焦った。


しかしまた違う意味で、心結が気を失ってくれたので……

なんとか事なきを得たラウルだった。


〈夢だったと永遠に思ってくれ……

アノ時の俺はどうかしていたのだと思いたい……

記憶を抹消してください!!〉


ラウルは初めて必死に女神に祈った。



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