81.プルプル食感が命
朝食を食べ終わりふと横をみると……
狼さんはいつの間にか、いなくなっていた。
(また船の中の探検にでも行ったのかな?)
心結はさほど気にしていなかった。
きっとまた船のどこかで遭遇するだろうと思ったからだ。
心結がサンドイッチや果物を持って部屋に戻ると
幼体モンチラ達がベッドの上で仁王立ちをしていた。
「えっ!? どうしたの!?」
只ならぬ雰囲気に、どうしたものかと激しく困惑した。
幼体モンチラはジト目で心結を見上げて……
抗議の声を上げていた。
『ギュゥゥゥゥ……』
どうやらおいて行かれたことを怒っているらしい。
心結は持ってきた朝食をサイドボードに置いて
ベッドの端に座ると、ススッと二匹が寄ってきた。
そして威嚇音を出しながらではあったが……
二匹は心結のお腹に頭を擦り付けてきた。
寂しかったのか甘えているようだ。
(何この可愛いモフスベの行動は……
私をキュン死させるつもりかしらこの子達)
怒られているのにもかかわらず……
心結は嬉しくてつい顔が緩んでしまうのを止められなかった。
「ごめん……。
だって二人とも気持ちよさそうにぐっすり寝ていたから
起こすのが可哀そうかなって」
心結は二匹を優しく撫でながらそう言ったが
『ギュゥギュゥゥゥ』
今度やったら許さないと言わんばかり鳴いた。
「わかった、必ず声をかけるからね」
心結は優しく二匹を抱きしめて言った。
『キュッ!キュ』
どうやら機嫌をなおしてくれたようだ。
そして持ってきた朝食を美味しそうにペロリとたいらげた。
「よしっ!
今日はシャークさんに“天草”の事を聞いてみよう」
いつもの定位置!肩の上にモンチラ達を装備して
心結は厨房を目指して歩き出した。
そのころラウルはというと……
コンコン……前足で扉をノックした。
「来たか……」
そのまま手招きされて、狼はその部屋の中へと消えた。
「ふぅ…………」
部屋の奥の天蓋付きベッドの前に来ると
獣体から獣人へと変化した。
そしてそのままベッドに倒れこんだ。
「惜しげもなく肉体美をさらしてくれるのは
ありがたいが風邪をひくぞ。
これでも羽織ってから眠れ」
そう言って、バスローブを投げられる。
「ありがとうございます」
ラウルはモゾモゾと羽織ってまた倒れこんだ。
眠さと魔力切れで限界だった。
「この部屋は特別な魔法がかけてある。
私が許可したものしか入れない。
だから休みたい時にはここに来て安心して休むといい」
「ありがとうございます」
「では、また後でな」
そういうとシレーヌは部屋を出て行った。
〈不器用な男だ……
そんなにミユウが大事なら、堂々と守ればいいものを……〉
呆れながらも少し羨ましい気持ちにもなるのであった。
シャークがランチで使うじゃが芋を剝いていると
心結がひょっこり厨房に現れた。
「ミユウちゃん、どうした?
ディーナーの準備はまだ先だぞ?
それとも……もう腹へったのか?」
きらりと牙を光らせながら、揶揄うように笑った。
「シャークさん、忙しい時にごめんなさい。
ちょっと聞きたいことがあって」
そう言いながら、心結は籠いっぱいに積まれている
じゃが芋を取ると一緒になって剝き始めた。
「なんだ?」
そんな心結を微笑ましくみていたが……
ハッとなって後ろを振り返った。
(オオカミの旦那はいないようだな……)
シャークはホッとして胸を撫でおろした。
「“天草”って名前の海藻を知っていますか?」
「てんぐさ?
きいたことないな、どんな特徴があるものだ?」
「赤紫色のフサフサした見た目の海藻です。
その海藻を煮詰めて固めるとプルプルになるのが特徴です」
「煮詰めてプルプルなぁ……」
シャークは思案するように、顎に手をかけて考える。
「はい、ゼリーというデザートを作りたいのです。
それは果物の果肉や果汁をいれて固めた
プルプルッのとっても美味しいデザートなのです」
心結の熱の入ったプレゼンが繰り広げられていた。
シャークの目がカッと開いて喉がなった!!
ゴクリッ……
「それは旨いのか……」
「はい、甘くて冷たくて……プルップルッです!!
ジュレメデューズくらい透きとおっていてプルプルです!!」
「おぉぉぉぉ……」
いつのまにか、厨房中の料理人さん達が集まって
感嘆の声をあげていた。
「それをシレーヌさんに食べて貰いたいのです」
「姉御に……」
その発言をきいて更に料理人たちは感動した。
「お前たち知っているか、天草という海藻を」
「てんぐさ……」
みんなそれぞれ考えるが思い当たるものがなかった。
「…………」
(やはりこの世界にはないかな……)
心結たちが諦めようとしていた時だった。
下働きの魚人の少年が、思い出したように叫んだ。
「あっ! 俺……その海藻知っているかもしれません」
「なんだって!?」
そこにいたすべての者の視線が少年に注がれた。
「…………」
ビクッとなる少年!
シャークをはじめ、料理人達の早く言えと言う無言の圧力。
心結の期待したキラキラした瞳。
幼体モンチラの鋭い視線……。
「お……俺のばぁちゃんの家の近くで採れる海藻が
確かそんな色でした。
しかも、それを煮詰めた汁を固めて食べるという話を
聞いたことが……あります……」
最後の方は自信なさげに小さい声になってしまう少年だった。
「なんと言う名の海藻だ」
「確か……プラントゥとか言っていました」
「プラントゥ……
そのばぁちゃん家はどの海域の辺りだ」
シャークの鋭い目が光った。
「はい、マッカレサです」
「おぉ!! ここから近いな……
ならこの海域にも生えている可能性があるな。
だれか、今からこの海域の海藻を採取してくれるよう
甲板にひとっ走り行って頼んできてくれ」
心結が驚いている間に、話が決まったようだ。




