表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/168

79.欲しいものは何ですか?

ラウルはシレーヌの取引条件に困惑していた。


〈対価はお金で払えないとしたら、何があるのだろう。

あの言い方だともちろん宝石や武器などではないだろう。

むしろ物ではないのかもしれない……〉


恐ろしく美しい男が悩まし気に悩む様子を酒の肴にしながら

シレーヌはまじまじとラウルを観察していた。


〈近年まれにみる美丈夫な男だ……。

この色香、女を惹きつけてやまないであろう。

本当にただの一介の狼獣人だろうか……

纏うオーラや覇気がどうも普通ではない気がしてならない〉


獣人は王族や貴族のように……

上位種であればある程美しく生まれてくる。

他のものを惹きつけてやまない性質を持って

生まれてくるのだ。


それは上に立つ者に与えられるギフトとでもいうべきか。

まさに神に愛されているという証なのだろうか……


〈その恵まれた条件をどう生かすか殺すかは

自分次第なのだが、この男はどうだろうか……〉


「…………」


〈私は見目麗しい男は好きだ!

そして何よりもこの男はオーラも綺麗だ。

どれ、少しヒントをあげるとするかな〉


「悩んでいるようだな……フフ」


その言葉にハッと顔をあげるラウル。

思わず自分の世界に入って悩んでいたようだ。


「私は珍しいものが大好きだ。

それは形があってもなくてもいい。

私の好奇心を満たしてくれるものをくれたら……

お前の欲しい情報を渡そう」


「わかりました、少しお時間をください」


「港に着くまでにまだ時間がかかる。

せいぜい悩んでくれ」


その時だった、コンコンとノックの音がした。


「姉御、そろそろディナーの時間です。

本日はどちらで食事をなさいますか?」


扉の外からたずねる声がした。


「そうだな、今日は大食堂にする。

今から行くから用意しておいてくれ」


「イエッサー!!」


「という事らしいから、食べに行くか?」


そう言ってシレーヌがうしろを振り返ると

ラウルがまた狼に戻っていた。


「最初に言った約束をどうか守ってください」


「あぁ、約束する。ミユウには決して言わない」



二人が大食堂の扉を開くと大騒ぎになっていた。


「うめっぇぇぇ! ロメンパンもそうだが……

今日の食事いつもより旨くないか?」


荒くれ者の魚人達が、涙を流して感動していた。


「まさかあの噂のロメンパンを食べられるなんて

俺、頑張ってきてよかった」


イカツイいい年のおじさん魚人が咽び泣いていた。


「ユイットルの煮込み?

シチューとか言うらしいな、これも旨い!!」


「他のみたことないやつもすべて旨い」


「お代わり大盛りでくれ!」


若い魚人が列を成して、お代わりを貰おうと並んでいた。


「まだまだたくさんありますからね。

遠慮なくお代わりしてくださいね、はい、次の方」


心結が大きな寸胴鍋の前に立って、三角頭巾に

割烹着といういで立ちで、お玉片手に配膳をしていた。


(あいつ……何をしているんだ?

あの恰好はなんだ!?)


ラウルは驚きのあまり心結を二度見した。


その横では、幼体モンチラがロメンパンの見張りをしていた。

一人で10個近く持っていこうとする輩がでるからだ。


ロメンパンが積まれた籠の前には張り紙がしてあった。


“ロメンパンは、おひとり様3個まで!!

破った者は、次回調理予定のジャムパンの配布はなし!!“


シレーヌとラウルはポカンと口をあけてその様子をみていた。

驚きのあまり言葉が出なかった。


「姉御、オオカミの旦那もいらしていたんですね。

ささ、こちらへどうぞ」


一先ず促されたので、二人は中央のテーブルに座った。


するとすぐさま今日のディナーが運ばれてきた。

メニューはと言うと……


・焼き立てのロメンパン

・ユイットルのシチュー

・ふわふわの魚肉団子~甘酢あんかけ風~

・ユイットル(牡蠣みたい)のフライ

・海藻とクラブ(蟹かな?)のサラダ

・フィギュギュ(イチジクらしき果物)のコンポート


「今日はどうしたんだい、偉く豪華じゃないか」


目の前に並べられた見たこともない料理に

シレーヌは大きな目をぱちくりさせていた。


ラウルはわかっていた、これが誰の仕業なのかを……。


(本当にあの娘は一秒たりともジッとしていないな。

また何故こんなことになっている!?

料理人に混ざって違和感ないのが恐ろしいな……)


「フゥ…………」

何度目かわからないため息をついていた。


そこにシャークがやってきた。


「姉御、今日の料理はいかがですか?

お嬢ちゃん……じゃなくて、ミユウが考えた料理です。

さすが姉御の客人ですね!

本当に可愛くていい子だ……。

あいつらがこんなに嬉しそうに飯を食っていたことが

ありますか、今猛烈に感動しています」


そういってサメの魚人は嬉しそうに心結をみつめた。

が、その時背中から信じられないほどの殺気を感じた。


「グルルルル…………」


シャークがおそるおそる後ろを振り返ると……

鼻に皺を寄せて牙を見せている大型の狼と目が合った。


〈心結だと! 

あって一日も立たないお前が心結だと!!

馴れ馴れしい! 

俺だってそう呼ぶのをためらうくらいなのに〉


配膳などさせるな!!

こんな飢えた狼の巣窟のようなところに……

あの娘を放り込むなんて!

狂気の沙汰としか思えん!!


「…………」


サメVS狼の無言の戦いが始まった!?


最初はその殺気の籠った狼の視線に、困惑しながらも

心臓が縮み上がっていたシャークだった……。


が、同時に狼が心結を心配そうにチラチラと見ながら

気にしている様子を見て一瞬にして悟った。


〈正直なにかよくわからんが、すまん。

お嬢ちゃんはお前の番だったのだな。

今度から態度や呼び方には気を付けるから……

今回は許してくれ、オオカミの旦那〉


シャークは生暖かい目で狼をみると、何度もいい笑顔で頷いた。


「…………ワフ……!?」


〈この視線はなんだ……。

何かを激しく誤解をされている感じがする〉


「若いねぇ……」


そんなやり取りを横で見ていたシレーヌはひっそりと笑った。


次の日、厨房内では心結はオオカミの旦那の番だから

丁重に扱うようにと密かに料理人達にお達しがでた。


若い男たちは、かなりガッカリはしたが……

あの大型オオカミと争う気は一ミリも起きなかった。


〈勝てる気がしねぇ……〉

あるものはそう呟いたとか。


そんな番騒動だったが……

ラウルと心結は船を降りるまで“二人は番”という噂を

知らないまま皆に見守られて過ごすのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ