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8.”ソ”は貴重品

「ところで、ディーヤはここに何しにきたの?」


「はい、今週の日の曜日に、神殿で花の祭典が行われます。

その為に音階の花を、摘みに来ました」


「これの事だよね、どうして音階の花っていうの?」

そっと花に触れてみるが、特に音がなるわけでもない。


「音階の花は、その名の通り音がなるのですよ。

例えばこれは”ミ”です」

ディーヤは足元に咲く虹色のスズランの様な花を、一房摘んで前後に揺らした。


「ミー、ミー、ミー」

風鈴の音のような”ミ”の音が辺りに響いた。


「凄いよ、ディーヤ。本当に”ミ”の音階を奏でるんだね」


「はい、咲いているときには音はなりません。

しかし一旦摘み取ってしまうとその瞬間から花がクリスタル化現象をおこします。

そして、ガラス楽器のような状態になるのです。

それを手にもって花を揺らすと、音階を奏でることができると言われています」


「不思議だね。咲いているときには鳴らないんだね」


「咲いているときに鳴ってしまったら、風が吹いたときに大惨事になります」

「確かにうるさいね、きっと」

二人は音階の花を見ながら微笑みあった。


「音階というからには、“ド”とか“レ”とか”ファ”とか

それぞれ花によって音の違いがあるの?」


「はいありますよ。これは恐らく“ド”ですね」


心結が言われた花を摘み取って揺らしてみた。

確かに”ド”の音階を奏でた。


「ディーヤ、どうして”ド”だってわかったの!?」


「色味とかが微妙に違うのですよ。

七色に光るといっても”ミ”の音階の花は赤みが強いのです。

”ド”は青みが強いのです」

二つの花を目の前まで持ってきて見比べるが難しい。


「わかったような?わからないような?」


「”ド”と”レ”と”ミ”の音階の花は更に特徴があるのです。

何故か固まって生えてくる事が多いのですよ。

なので比較的簡単に手に入る音階なのです」

そう言いながら、摘んだ花を丁寧に籠に入れていくディーヤ。


「ちなみに”ソ”の音が、厄介なのです!

なかなか見つからないのが悩みなのです」


「えっ!?困るじゃないない。何故に”ソ”だけ?」


「わかりません。野生では、見つかることは非常に稀です。

なので、音階の花を専門に育てる業者に頼っているのが現状です。

それでも上手く育つのは、ほんの僅かだと聞いております」


「”ソ”を手に入れるのは、至難の業なんだね」


「はい、王家では”ソ”だけの為の育成専用の温室があるくらいです。

 公爵様も小規模ですがお持ちですよ」

「そんな貴重な花ならば、密採も絶えないね」

「だからこの森には、強力な防御壁が魔法でかけられているのです」


ディーヤの花摘みの邪魔をしないように、少し離れた所で音階の花を観賞する。


「因みに”ソ”の花の特徴ってどんな感じ?」


「”ソ”だけは少し特殊な見かけをしています。

一番下の房だけ花が二重になっているのが特徴です」


「えっとそれは……

花の中にまた更に小さい花が入っている感じ?」


「そうです」

気のせいかな、足元にある花の形状がまさにそれなのですが!!


「ディーヤ……もしかしてこれそうかな?」

「えっ!?見つけたのですか」

ディーヤが高速で目の前まで移動してきた。


(一瞬ディーヤが、狩人の目になったよ!野生に返った!)


「……。ミュー様!“ソ”ですよ、これ。

信じられない。原生の“ソ”を見られる日がくるなんて」


ディーヤのリス尻尾が左右に激しく揺れる。

若干目も潤んでいる。


(やっぱり嬉しいと尻尾が激しく揺れるのだな。

モフモフ可愛い。

鼻も艶々でお鬚ピンも可愛いなぁ)


お互い違う喜びを噛みしめているが、幸せなのでいいのである。

(早速特殊スキルが発動しちゃったな……。いいのかな)


遠い目になる心結を横目に、興奮冷めやらぬ様子のディーヤ。

「ミュー様、”ソ”はいくつか株ごと持ち帰りましょう」

さらにディーヤのリス尻尾が、高速で左右に振られている。


「研究とかに使うのかな?」


「はい、まだまだ音階の花は謎が多いのです。

しかも年々数を減らしていまして……

このままでは絶滅の一途をたどってしまいます」


「それは悲しいね。

じゃぁ……この辺りを少し頂きましょうか」


折ってしまわないように、そっと土ごと幾つかの株を

籠の端にいれた。


「それでは、公爵様のお屋敷に向かいましょう。

森を抜けたところに馬車を、待機させていますので参りましょう」

そのまま二人は、森をあとにした。


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