75.遠い国まで流されたようです……
どうやら小舟が流れ着いた場所は、無人島のようだった。
小さな島だったが、天然の要塞とでもいうのだろうか?
海底洞窟のようなものがいくつもみえる。
「ここは何処ですか?」
心結はキョロキョロ辺りを見まわしながら訪ねた。
「オンディーヌ諸島さ。
そしてここは、あたしの秘密の島さ」
そういってシレーヌは軽くウィンクをした。
「ふぉぉぉぉ!なんかワクワクする響きですね」
心結は期待に満ちた瞳で、シレーヌをみつめた。
『キュッ!キュッ!』
幼体モンチラもテンションが上がっているのか
心結の肩でピョンピョン飛び跳ねている。
「ミユウ……。
本当にテイマーじゃないのかい?
そのモンチラとは、どういう関係だい」
不思議そうに心結とモンチラを交互にみるシレーヌ。
「もはやもう一部?
一緒にいるのが当たり前みたいな感覚ですかね」
〈モンチラが一部って正気か、おまえ……〉
うしろを黙って歩くラウルは、人知れずごちる。
その発言を聞いて、シレーヌは目を丸くしていたが
ふと微笑んで言った。
「そうかい……大事な存在というやつかい」
「はい」
『キュッ!』
『キュキュ!』
一人と二匹が嬉しそうに返事をした。
「フフ……なんだか妬けるね。
ね、オオカミの旦那」
「…………グル……ッ」
急に自分に話題を振られ、狼狽えるラウルであった。
「ところで……
何故皆さん、そんなにモンチラに敏感なのですか?
危険な暗殺集団だという事は、私も理解しているのですが」
シレーヌは笑いながら言った。
「モンチラ一匹みたら、後ろに百匹いると思えって
小さいころから教えられるからね……
それほど危険な存在なのさ」
台所にでる、あの黒いGじゃあるまいし……。
一匹でもみかけたら、必ず退治しなさいよって!?
ひどい言われようだな、心結は苦笑した。
(じゃあ私の後ろには、二百匹のモフモフ部隊が!?
何それ、最高じゃないか!!)
相変わらず明後日の方向で喜ぶ心結であった。
〈こいつ、絶対また違う意味でニヤけているな〉
ラウルは生暖かい目で心結をみていた。
「さぁ、着いたよ」
心結たちの目の前に現れたのは、大型の帆船だった。
マストの先には人魚の絵が描かれている黒旗が靡いていた。
他にもいくつもの大砲が備え付けられているのが見える。
艦首にも回転式の船首カノン砲が……。
そんな軍艦のような船の甲板では
沢山の屈強な男たちが、出航の準備で大忙しだ。
「か……海賊船!?」
思わずポロリと口から出てしまった!
心結はしばらく面食らって固まっていた……。
(リアル海賊船あったぁぁぁ!!
シレーヌさん女海賊だったのか!
しかも頭領っていっていたよね!ボスだ!ボス!)
「アハハハ……、よく言われるよ。
まぁ……近からず遠からずというところだな」
「凄い……。
この船なら何処にでもいけそうですね。
私……ランベール王国に帰りたいのです。
もしご迷惑でなければ……
近くの港まで送ってくださいませんか?」
「ランベール王国の出身かい?
ライオン獣人の賢王が治めているいい国だったな」
「行ったことがあるのですか?」
「昔ちょっとな……」
シレーヌは意味深に微笑んだ。
「近くの港に送っていくのは構わないが……
そこからランベール王国に行くのは、かなり遠いぞ。
長旅になる事を覚悟した方がいい。
というよりか、ミユウ……
あんた何か身分を証明できるものを持っているかい?」
「あー、えっと……」
「身分証明書がないと旅券も買えない。
そもそも国と国との関所を越えることができない」
(そんなものないな!!
いきなりこの世界に落ちてきたのだもの)
ランベール王国→モンチラの隠れ里……
そしてシーブル王国→オンディーヌ諸島……
はっきり言ってすべて密入国者だったわ!!
というか……密入異世界者!?
心結は途方に暮れた。
が、閃いたようにシレーヌに言った。
「乗ってきた小舟があったじゃないですか!?
あれをもう一回依頼することは可能ですか?
この島に来ることができるのならば当然……
帰ることもできるのかなって?」
「無理だな」
即答だった。
「えっ!?」
「あれはコウモリがもつ特別な魔力があっての力技だ。
うちらの技術と使う者の魔力があってこその輸送手段だ
契約船とはそういうものだ」
そうきっぱりと言われてしまったら、諦めるしかない。
「そうですか……」
あからさまに心結はシュンとした。
「そう、落ち込むな。
本来ならば、海の藻屑になっていても不思議じゃない。
その魔力保持者が乗っていないにも関わらず無事に
目的地につけた事だけでも奇跡だ。
何か偶然の力が働いたのか……それとも……」
シレーヌは何か言いたそうに、狼を見つめたが黙っていた。
「かなりの裏技だったのですね。
この力もコウモリ獣人が恐れられる一つでしょうか?」
「そうだな、あいつは規格外だからな。
お得意様だから、こんなことを言うのはアレなのだが
色々な意味でかなりヤバい奴だ」
「激しく同感です」
二人は顔を見合わせて、笑った。
「先の事はこれから考えればいいさ。
一先ずこの国の一番大きな港に連れて行ってあげる」
「お世話になります」
心結は深々と頭を下げた。
「ようこそ“サーブル号”へ!
さあ乗り込んで出発だよ」
心結たちは船へ乗り込んだ。




