73.まさかの救世主現る!!
気がつけば、人質のまま桟橋の近くまで来ていた。
今回こそ本当の人質状態だ!!
(船にでも乗って逃げる気なのだろうか……まさかね)
相変わらず心結の首元には、刃物がチラついていた。
動くたびに若干刺さって痛い!!
乙女の柔肌に何てことしてくれるのだ!!
そんな事はお構いなしに、心結を盾にしてコウモリ獣人は
うしろ歩きで桟橋をめざしていた。
それを一定の距離でガレット達が追うという……
奇妙な追いかけっこが展開されていた。
ついに桟橋の端まできてしまった。
何故か先ほどまでなかったはずの船が一艘浮かんでいた。
(船……いつのまにかあるし……)
心結は軽く絶望した。
この変態と船旅はいやだな……。
「ククク……それではみなさん……
お別れの時間ですね!ごきげんよう……」
コウモリ獣人は楽しそうに笑いながら言った。
そしてそのまま心結共々その船に飛び乗ろうとした
ほんの一瞬手前の出来事だった。
「なっ……!!」
急にコウモリ獣人の視界が見えなくなった。
なぜならカモフラージュしていた幼体モンチラが
男の顔に張りついたからだ。
わずかな一瞬だが、男に隙ができた。
『ミユウ!!』
心結を奪還すべきガレットが飛びかかった。
呼ばれた心結自身も前に駆け出そうとしたが。
流石コウモリ獣人というべきか……
すぐさま幼体モンチラを引き剥がし、心結の手首を掴んだ。
「離して!!」
それに抵抗した為、心結はあろう事に桟橋から海に落ちた。
「えっ……」
身体に感じられる浮遊感と目の前に広がる青空。
景色がスローモーションのように見える……。
(これはこれでヤバイ……落ちる)
その時だった、目の前に大きな黒い影がみえた。
狼が飛び込んできて心結を空中でキャッチしたのだ。
そしてそのまま一緒に小船に落ちた。
「うっ…………」
狼が下敷きになってくれたお陰で、衝撃は少なかった。
「狼さん!!」
上で戦っていたモンチラ達とコウモリ獣人も
予想だにしない第三者の乱入には正直驚いていた。
〈あの時の狼!!〉
〈どこの馬の骨ですかね、横から獲物を搔っ攫うなんて〉
しかしお互いに力が拮抗している為に
心結の元に駆けつけることはできない状態だった。
一人と一匹?を乗せた小舟は重さを感じたせいだろうか
急に淡く光りだした。
「えっ?えぇ?何……どういうこと!?」
光はだんだんと大きな粒になり輝きを増していった。
最後には一つの光となって船は消えた。
「チッ、しかたがありませんね。
こうなったら止められません……出直しますか……」
苛立ちを隠しきれず、渾身の一撃をモンチラ達に放つと
コウモリ獣人はそのまま姿を消した。
『アレハ、ケイヤクセンカ……』
ガレットは消えた船を見つめて呟いた。




