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72.絶対の自信

遠い目になりながら……

両国のやり取りをぼんやりとみつめていた。


すると、急にフッと手首の戒めが緩んだ。


(えっ……!?)


そっと手をみると、見えない何者かによって

明らかに縄が徐々に解かれていっている。


モンチラの特殊能力、カモフラージュを知らなかったら

ただただホラーな現象だろう……。


(幼体モンチラちゃん!! ついてきていたの!?)


心結は周りに悟られないように、こっそり呟いた。


「ありがとう。でも見つからないように気をつけて」


微かに『キュッ』と聞こえた気がした。



相変わらず両者は押し問答をしていた。

興奮したのか、小太り大臣のローブの後ろが捲れていた。


(尻尾の形状からして、ブタの獣人か……。

フフ…しかも尻尾の巻き方がハート型……

顔に似合わず可愛い巻き方!!)


その時だった


「ハッ、いい加減にしてください!!

我が国の聖女とモンチラ如きを一緒にして

いただいては困ります。

価値が違うのですよ、価値が……

モンチラの事なんて取るに足らないのですよ」


「…………!!」


「一匹や二匹いなくなったとて

何を困ることがあるのでしょうか、馬鹿らしい

お話になりませんな……」


恐らく先ほど入ってきた……

ランベール王国側の上位獣人だろう。

鼻をならしながら、蔑むように言い放った。


「たとえコマの一つであっても

ただでは譲れないといっているのです。

誠意をみせてください」


シーブル王国側の大臣であろう獣人も息巻く。


(もう!許せない。我慢の限界だ……)


心結は黙って、その男の前につかつかと歩み寄ると

いきなり思いっきり胸倉を掴んだ。


あまりの事に、そこにいた男達は唖然として固まった。

コウモリ獣人でさえ固まったくらいだ。


「いい加減にするのはお前の方だ!!

さっきから黙って聞いていれば、何様なの?

モンチラ達に謝ってよ!! 失礼でしょ!!

()()()()()()()()()()()()()なのですかね!?」


この小さい身体のどこにこんな力があるのか?

くらい胸倉を掴んで揺さぶった。


今度は大臣の胸倉を締め上げて続ける。


「あんた達もだからね、我が国の大事なコマって。

コマとかじゃないから!!

みんなそれぞれ意思があって、大事な人がいて。

他人がどうこうしていい人なんて、一人もいないからね

最高級の素敵なモフモフ達なんだから!!

なんで大臣なのにそんな事もわからないわけ?」


心結はビシッと人差し指を、大臣の顔につきつけた。


『フ……』

思わず銀色のモンチラは笑ってしまった。


(ばかなのか?この人型聖女!?

最高級の素敵なモフモフってなんだよ……)


そう思いながらも、涙が出るほど嬉しかった。

だからだろうか、気がついたら身体が動いていた。


我に返った大臣の獣人は、心結の手を振り払った。

その勢いで心結は地面に叩きつけられるように転んだ。


「少々おいたがすぎるようですね。

かの方に渡す前に躾が必要なようだ」


そう言って、獣人は手に魔力の塊を作り出した。

心結を見下すその瞳には怒気と憎悪に濡れていた。


(あー典型的なプライドの塊の貴族さんか……

すぐに権力と暴力を振りかざすのはどうかと思うわ)


そういう意味では私……

聖女で最高上位種のはずですが!?


確実に立場は上ですよね!!

あなた風に言うと

“その態度は頂けませんな、無礼者”ってとこかしら


まぁ、そういう考え方は大嫌いですが!!

ここまでされるとそう言ってやりたくなるわ……。


などと怒り狂っている獣人を冷静にみながら

どうしたものかと考えあぐねていた。


しかし力いっぱい獣人に魔法攻撃されたら

人型である自分は一溜りもないだろう。


この距離じゃ、避けられないよね……。

痛いのは、いやだな……

防御スキル的なものあったかな?私……


心結の目の前に魔力の塊が迫るのが見えた。

覚悟をきめて目を瞑ろうとした時、何かが横切って飛んだ。


ガッッッッ!! バシィィィ!!


「チッ……邪魔するな、モンチラ如きが!!」


忌々し気に男は怒鳴った。


心結の代わりに、銀色のモンチラが壁に打ち付けられていた。


「モンチラさん!!」

心結は悲鳴のような声をあげて駆け寄った。


モンチラがかばってくれなかったら……

おそらく自分がこうなっていただろう。


『アンタ、ホントウニ……カワッテイルナ』


どこか体の骨が折れて肺に刺さっているのだろう……。

ヒューヒューと荒い息が聞こえる。


「なんでかばってくれたの?

それにあなたの実力ならよけられたでしょう」


涙をいっぱい浮かべながら心結は言った。

その間にもモンチラの身体からはどんどん血は流れていき

止めようと必死に患部を押えたが止まらない。


『ナゼダロウナ……』

モンチラは苦笑した。


〈あのまま攻撃したら、結局お前も巻き込んでしまうからな〉


とはいえない銀色モンチラであった。


それでもなお、気が済まないのだろう。

大臣の獣人はまだこちらに向かって歩いてくる。


コウモリ獣人とランベール王国の使者と思われる獣人達は

何故か静観してみているだけだった。


(条件を有利にするために、多少の犠牲はむしろ

かまわないと言うわけですか!

清々しいくらい悪党だな!!)


心結は、銀色のモンチラを庇うように抱きしめた。


『オレノコトハ……ステテ……イケ……。

オマエハナントシテモ、ココカラ……ダシュツスル……

コトヲ……カンガエロ……』


「いやよ、そんなことはできない」


心結はいやだと首を振り、さらにモンチラを優しく抱きしめる。


『モウ……ジュウブンダ。

オマエハ……オレガホシイモノヲ……クレタ……』


モンチラは、心結の腕の中から這い出すと前に出て構えた。


「ふん、死にぞこないが……くたばれ!!」


血走った目で叫び、大臣の獣人がまた魔法攻撃をしようと

攻撃態勢をとった時だった。


『オマエガナ!!』


上から大きな青紫色の塊が落ちてきた!!

その物体は容赦なく、大臣の顔をめがけて蹴りを食らわせていた。


「ぐえぇぇぇ……」

変な声をあげて、大臣の獣人は壁の隅に吹っ飛んだ。


『ヨウ!タノシソウナコトニナッテンナ』


ガレットは心結にドヤ顔で笑いかけた。


「ガレット!! 」

心結は嬉しそうに、ガレットに抱き着いた

しかしすぐに真顔になり……


「身を挺して助けてくれたの、モンチラさんが」


ガレットは虫の息の銀色モンチラの姿を見ると

厳しい顔になりながらも部下を呼んだ。


と、同時に後ろからパリンッッッと音がした。

その後にもたくさんのモンチラが窓からなだれ込んできた。


ローブの男たちは逃げまとい、現場は大騒ぎになっていた。


その時に落としたのだろう、床の隅に光るものをみつけた。

心結は、上位獣人の懐中時計と思われるものを

さっと拾って胸元に隠した。


床に這いつくばっていたので、油断したのだろう。


「動くな!!」

心結はコウモリ獣人に後ろから、首元にナイフを突きつけられていた。


『ミユウ!!』


ガレットが叫んだ。


コウモリ男はそのまま、心結を羽交い絞めにして

ジリジリと扉の方へ向かった。


「よくやった、引き上げるぞ!」


上位獣人の男は、部下を見捨てて先に扉から逃げて行った。

他の者たちは、ほとんどがモンチラに制圧されたようだ。


『ミユウヲハナセ!!

コノタテモノハ、オレタチガホウイシテイル』


(一昔前の刑事ドラマかっ!

心結はピンチにもかかわらず、心の中でツッコミをいれた)


しかし、コウモリ獣人は歯牙にもかけず鼻で笑った。


「おまえらが束でかかっても、俺にはかてませんよ」


絶対の自信からくる発言だった。


『クッ……』

確かに男に死角はなかった。


ガレットも部下モンチラも、ただじりじりと差を広げられるのを

黙ってみているしか手はなかった。


この男がコウモリと言われて恐れられている由縁。


もちろんコウモリの獣人であることも大きいが……

その特殊能力の高さからだった。


漆黒の翼で空を飛び、暗闇でも昼間と変わらず見える目。

その力を駆使して、大概の場所に侵入ができる事。


あともう一つ、なによりも厄介なのが……

360度どの方向からも攻撃を防ぐことができるという事。

つまり近づいて大打撃を与えることが難しいのだ。


「聖女に当たってもいいのなら、どうぞ攻撃してください

私にはどうせ届かないでしょうから」


愉快そうに口角をあげた。


(本当にヤバイな……こいつ……)


ずるずると引きずられながら心結は、心底ひいていた。


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