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71.黒幕の正体に迫る

細い道を降りた先は海岸へと繋がっていた。

その先には小さな桟橋も見える。

しかし今は船の姿は一隻もみえない。


(プライベートビーチなのかな……)


そんな事を思いながら、ただ黙々と男の後を歩いていた。


やがて古ぼけた倉庫のような建物が見えてきた。

倉庫の前には、トラの獣人が二人立っているのが見える。


「何か変わったことは、ありませんでしたか?」


「はっ!ありません」


(どうやら盗賊とかではないみたいだな。

恰好も小綺麗だし、受け答えもしっかりとしている)


心結は倉庫の前にたっていた、トラ獣人をそっと観察していた。


「あのお方はいらしていますか?

それとも客人のご一行の方が先ですかね……フフ」


「どちらともまだいらしておりません!」

トラ獣人は、キビキビと答えた。


(逆に盗賊とかの方がよかったかも。

おかしな言い方だけど、目的がお金とか単純そうだもの。

でもこの感じ、確実に偉い人達の仕業じゃん!!

国と国をまたぐヤバイ案件だよね……)


「私たちが一番のりですか。

それでは、中で待たせていただきましょうかね。

さ、どうぞお姫様」


男は扉をあけて、心結に入るように促した。

「………………」


心底イヤそうな顔をしながらも、心結は中へと入った。



中には大きな一枚板で作られた机と椅子がならんでいた。


壁にはこの国や周辺の国々の地図だろうか……。

沢山のマークやコマみたいなものが刺さっていた。

どうやら秘密の会合をする拠点らしい。


(悔しいけど、何がかいてあるかさっぱりなんだよね。

重要な秘密情報なんだろうな……。

こんな時に携帯があれば、こっそり撮影するのに)


心結は歯痒い気持ちになった。


「そんなところに突っ立っていないで

座ったらどうですか。

そう心配しなくても大丈夫……

もうすぐお家に帰してあげますよ」


無言の圧で座れと言われ、渋々ソファーに腰をおろした。


「愛しいお方が首をながくして待っているようですから」


(愛しいお方?誰のこと??)


心結の頭の中は、ハテナでいっぱいだった。

やがて何故かラウルの顔が過った。


(いやいやいやいや、ナイナイナイ!!)

一人で青くなったり、赤くなったり百面相をしていたようだ。


「フフフ……妬けるな……。

おしいな……あの方のものじゃなかったら。

俺が貰ったのに……」


そう言いながら、心結の頬を優しく撫でた。

男の瞳は熱を帯びていた。

しかしその瞳の奥に宿る残虐的な色に、心結の心が慄いた。


「やめて…………!!」


心結が拒絶の言葉をあげると、その男の手が止まった。


『オタワムレハ、ソノヘンニシテクダサイ

イラシタミタイデスヨ』


銀色のモンチラが、二人の間に割って入ってきた。


「フフフ……残念」

そう言いながら、男は客人を迎えるために扉の方へ向かった。


「あ……ありがとう」


心結は軽く震えていた。

自分の手を無意識にぎゅっと握りしめていた。

なんとか気分を落ち着かせようとしていたらしい。


『カンチガイスルナ。

タスケタワケジャナイ。

アノヘンタイヤロウガ、キニクワナイダケダ』


銀色モンチラは、淡々と答えた。


やがて扉の方が騒がしくなり、数人の男が入ってきた。

頭からローブを被り、口元も布に覆われていた。

種族はわからないが、地位のある獣人だろう。


心結の前までくると、舐めるように上から下までみた。


「ほう……、これがランベール王国の聖女か。

なかなか美しい人型だな。

返すのが惜しいくらいですな、ハハハハハッ」


声からして中年の獣人だろうか?

見た目は少し背が小さめの太った男だった。

動くたびに大きなお腹が豪快に揺れる。


「ご冗談を!! 

そんなことを承諾したら、私の首がとんでしまいます」


二人は談笑しているが、両者とも全く目がわらってない。


「今回の責任はどうなさるおつもりですか?

かの方は、今回の一件についてかなりご立腹ですよ」


目を細めながら、伺うようにコウモリ獣人は圧をかける。


「これは異なことをおっしゃる。

最初に手を出したのは、そちらではございませんか

こちらのあの方も黙ってはいませんぞ」


少し唸りながら、男は心外だとでもいうように語気を強めた。


「はて?なんのことでしょう?」


知りませんが?なにか?

というように首をかしげながら顎に手をあてた。


「モンチラの件ですよ。

あれでも、我が国の大事なコマのひとつでしてね。

幼体であろうが、勝手に連れだされては困りますな」


中年の獣人は、顔を顰めながら言った。


(何いってんだ、こいつ!

コマでもないし!!

そもそもあなたが決めることじゃないから!!)


心結はその発言に、怒りで身体が震えた。


一瞬銀色のモンチラが、ぴくっと動いたが……

表情を変えず黙って、二人のやり取りを傍で聞いていた。


「聞き捨てなりませんな……」


そういいながら、また新たに男がはいってきた。

その後に従者だろうか、二人の男が従っていた。

真っ白いローブを頭からかぶり、こちらも布で口元が覆われていた。


(あっ……今チラッとだけど……

薔薇の紋章の懐中時計がみえた!)


「随分と遅かったですね……どこで何をしていたのやら」

コウモリ獣人が鼻をならして、小馬鹿にするように言った。


「貴殿と違って、私はなかなかと忙しい身でね」

そんな嫌味も介さずに、男は笑った。


数人の男たちは、テーブルを挟んで睨みあっていた。


「返して頂けないとおっしゃるのなら

これまでのように、例の品物を王宮に送り続けるのは

難しくなりますぞ……。

かの方たってのお願いでお譲りしているのに……。

我が国でしか取れない()()()()()()()なのをお忘れか?」


(バニーユリリィとあの香木か!!)


心結は目が落ちるのではないかというくらいに驚いた。


「お喋りがすぎるのではないのですか、大臣」

コウモリ獣人は、窘めるように言った。


「ここで、素性を明かすような表現は控えてください!!」

太った獣人は叫ぶように、コウモリ獣人につめよった。


(この国の大臣だったか!あの小太り獣人!!)


心結は更に目を丸くした。


「そちらこそ……そんなことをしたら

我が国を敵にまわしますが、よろしいのですか?

作物の輸出が止まりますぞ」


(両者とも突きつけてくる条件がエグイな……

っていうか、私ほとんど関係なくない!?

巻き込まれ損なんだけど……。

確信に迫る発言連発で、身の危険すら感じるわ!!)


いつ終わるかわからない、このやり取りにうんざりするのだった。


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