70.それぞれの役目
「敵がそろそろ本腰で動き出したようだ。
心結さんの事は、お前に託す。
いいな、必ず無事に連れて帰ってくれ……」
悲痛な面持ちでイリスが言った。
勿論、ジェラールも同意したように力強く頷いた。
「は……、必ず」
ラウルはすぐさま狼の姿になって駆け出して行った。
これは数時間前のやりとりだ。
しかし今……銀色の大型オオカミは焦っていた。
まさかモンチラの元から心結が何者かに攫われるとは
思ってもみなかったからだ。
そのうえ、なかなか心結の行方が掴めない……。
「ウォォォォォーン」
獣体の狼たちに合図を送るが、返事が返ってこない。
各地に散らばせているが、何も手がかりをみつけられないのだろう。
(くそ……。俺が目を離したすきにこんなことに!
頼むから無事でいてくれ……)
その頃、ジェラールとリオネルも動き出していた。
「明日、僕がエーデル妃に顔を見せに行くよ。
香木のお礼を言いにいかないとね。
その時に何気なく、内部の様子を探ってみようと思う」
「くれぐれも無理は禁物ですよ。
何があっても深追いはしないと約束してください」
ジェラールは口をすっぱくして、リオネルに言った。
「わかっている。
僕だってもう子供じゃないんだから、任せておいて」
ニコニコしながら軽い口調であっけらかんと言う始末だ。
心配になり、後ろの従者二人に目配せする。
二人はジェラールの意図を読み取り、無言で頷いた。
〈私が……必ずリオネル様をあらゆるものから守ります!〉
〈俺が……必ずリオネル様をあらゆるものから守ります!〉
三人の男が無言で同盟を結んだ瞬間であった。
あの後ガレットは、ジェネルーと別れモンチラの里に
戻ってきていた。
何かできることがあったら、遠慮なく言ってくれと
励ましてくれたジェネルー。
しかも心結が帰ってきたときの為だと言って
貴重な大瓶のハチミツまで持たせてくれた。
これは友人へのプレゼントだ!
だから法律に反していないとまでいってくれた。
〈コウモリの行方は、掴めたか!?〉
苛立たし気にガレットは、部下たちに激をとばした。
〈まだ……掴めておりません……〉
項垂れるように頭をさげるモンチラ達……。
〈ミユウ……〉
その時いきなり幼体モンチラの事を思い出したガレット。
〈そう言えば、いつもミユウの傍に……
べったりとくっついていた、ちび共はどうした?〉
部下モンチラ達は、ざわついた。
それぞれ顔を見合わせたあと全員が首を傾げた。
〈さあ……?そう言えば、見ておりませんね〉
〈…………〉
(まさかあいつらまで、一緒に攫われたか!?)
最悪な事態を予想して、ガレットは目がしらが熱くなった。
〈勘弁してくれ……〉
その時だった。
黒モフモンチラちゃんが飛び込んできた。
〈ボス!! さっき村の門のところにボロボロになった
幼体モンチラちゃんが一匹帰ってきました〉
〈なんだと!!〉
飛び出すようにガレットは門の前に急いだ。
既に黒モフパパが保護しており、怪我の処置もされ
フワフワのベッドの上で休ませていた。
〈キュゥゥゥ……〉
ガレットの顔をみて、安心したのかよわよわしく鳴いた。
〈キュッ……キュゥゥゥ……、キュキュキュ〉
幼体モンチラは必死に心結の身に起こったことを
ガレットに一部始終聞かせた。
そして心結を救うため、一方はカモフラージュして
心結の傍に残り、自分は心結の居場所を知らせるために
自力で帰ってきたことを告げた。
大人でも厳しい状況下での判断、更に過酷な旅に
よくぞ無事にとはいいがたいが、戻ってきた幼体モンチラ。
周りにいた大人モンチラは、全員胸を熱くした。
〈よく帰ってきたな。偉いぞ!
お前は小さくても立派なモンチラの戦士だ!
後は俺たちに任せろ〉
ガレットは目を潤ませながら、優しく幼体モンチラを撫でた。
〈キュゥゥゥ……〉
それをきいて安心したのか、幼体モンチラは目を閉じた。
〈疲れがどっと出たのだろう。
このまま寝かせといてやってくれ〉
ガレットはすぐさま、精鋭部隊を編成した。
〈お前ら!行くぞ〉
モンチラ達が、次々に里から飛びたった。




