67.楽しいハチミツ採取
新鮮なハチミツってどうしてこんなにも美味しいのだろう。
というよりか……
このオーゥルアベイユのハチミツが特別なのかもしれない。
崖からとってきた星形の蜂の巣を、大型の鉈のようなもので
均等に奇麗に縦に割って開いた。
その瞬間……甘い芳醇な香りが部屋中に溢れた。
『オォ……イイカオリダ』
ガレットをはじめモンチラ達もうっとりしている。
その香りに魅了されているようだ。
ジェネルーが大型ナイフを取り出し……
ミツロウの蓋を奇麗にそぎ落とすと黄金のハチミツが姿を現した。
「黄金だけど、七色に光って見えるのは気のせいかな?」
「気のせいではないぞ。
七色に光るのがオーゥルアベイユのハチミツの特徴だ」
そう言いながら、星の先端を少し切って心結たちにくれた。
「そのまま食べてみろ。旨いぞ」
言われた通り巣ごと齧ってみた。
「…………!!」
美味しい……。
もうその一言につきる。
『キュッ!キュゥゥゥ』
あまりの美味しさに、幼体モンチラ達も悶絶している。
口に入れた瞬間、香りがフワッと抜けるようにひろがり
その後深い甘みが口全体にこれでもかって存在を示してくる。
それなのに、後味がすっきりしているというか……。
(旨く言えないけれど、いくらでも食べたくなるな)
ジェネルーを除くその場にいた者たち全員が虜に!
旨さにとろけまくっていた。
「それじゃぁ、絞っていくぞ」
星形の蜂の巣を遠心分離機の中にセットしてボタンをおした。
ぐるぐるぐるぐると回りだし、濾過機を通って下の注ぎ口から
ハチミツが出てきた。
みるみるうちに、大きなタンクのようなガラスの大瓶に
ハチミツが溜まっていく。
「うわぁ……七色に光って奇麗」
心結はその様子をうっとりと眺めていた。
『ナナイロハ、テンネンモノノアカシ!
コノハチミツニシカ、ダセナイモノダ』
ガレットも目を細めながら、ハチミツを見つめていた。
『ダカラヨク、ニセモノガデマワル。
ニセモノノハチミツハ、スグワカル』
「どうして偽物だってわかるの?」
『ヨウセイノコナガ、ツカワレルカラナ。
ムリヤリナナイロニ、ヒカラセラルカラ……
スグニハチミツノアジガ、レッカスル』
「どうしても偽物が横行するんだね」
「金になるからな……」
ジェネルーはため息をつきながら、複雑そうな表情を浮かべた。
『ダカラ、クニニメヲツケラレタンダ。
クニヲササエルシキンゲン二スル!!
トイウメイモクデナ』
ガレットは顔を顰めながら、吐き捨てるように言った。
「ヒグマ……じゃなくて、国王様の権力は絶大なのね」
『オマッ……ヒグマッテ。
カリニモアイテハ、コクオウダゾ……』
「フ……アハハハ、相変わらず正直だな。心結さんは」
二人に同時に爆笑され……
すこしふくれながらも、赤くなる心結であった。
「美味しいものは皆で分かち合うのが一番なのに
ヒグマが独り占めするから」
『オマエ、オモシロガッテイルダロウ』
ガレットは呆れながらも、心結の発言にニヤついていた。
「本当にそうだな
美味しいものはみんなで……か……」
未だに、手や口についたハチミツを嬉しそうに
一所懸命舐めとっている、幼体モンチラ達を見つめながら
ジェネルーはしみじみ思った。
そんな話をしていると、ハチミツが大瓶タンクにいっぱいになった。
「あとは、これを小瓶に詰めたら完了だ」
「結構な量取れましたね。ハチミツって一つの巣から
少量しか取れないと思っていました」
「そうか?他の蜂と比べたことはないが……
いつもこのくらいは余裕で採れるな」
そう言いながら、もくもくと小瓶にハチミツを詰め始める。
その横では、ガレットと部下モンチラ達がミツロウを
作るお手伝いを始めていた。
パン職人の黒モフパパたちのように、毛が入らないように
割烹着と三角頭巾という、あの伝説級に可愛い恰好のハズなのに
何故だろう全然可愛くない!
イカツイ野郎達の集まりだからか!?
着るモンチラが違うとこうも違うのか?
心結は心で泣いた。
どうか私に可愛いモフスベをください!!
ハチミツを小瓶に10個程詰め終わった頃だった。
ジェネルーが辺りを見まわしながら、キョロキョロしだした。
「どうかしましたか?」
「いや……
いつもそこに中瓶があるはずなのだが見当たらない。
おかしいな……。
この後は中瓶に詰めていくつもりだったのだが」
確かに棚に中瓶は見当たらない。
そこだけぽっかりと空間ができていた。
『ヨビハ、ナイノデスカ?』
「この建物の向かいにある建物に置いてある」
窓から覗くと少し離れているが、確かにロッジみたいな建物が見える。
「ジェネルー様、手が離せませんよね。
私が取ってきましょうか?」
心結は腕をまくりながら言った。
『オレガ、イコウカ?』
「大丈夫だよ。ガレット達も手が離せないでしょ
目と鼻の先だし!行ってくるね」
「すまない……助かる」
『オウ、キヲツケロヨ』
この判断を後からガレット達は、激しく後悔する。
あんな事件に発展するなんて夢にも思わなかったからである。




