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66.養蜂場ツアーにようこそ

何故かパン職人の日々を送っている今日この頃です。

ロメンパンに続き、ジャムパンも好調な売れ行きなので

そろそろ新作パンを出したいな。


ジャムも単品として売って欲しいとの要望もあるし……。

モンチラ村の食品部門を立ち上げようかな。


食の女神キュイジーヌ様も満足してくださっているし。

その中でも特にアブリゴのジャムパンがお気に入りのようだ。

アブリゴはアプリコットのような果実だ。


他にも目についた果物のジャムを一通り作ってみた。

徐々に商品化させていこうと思う。


そして今日は待ちに待った!!

“ジェネルー様の養蜂場に遊びにいっちゃうよツアー”

決行の日なのだ!!


社交辞令?そんなの知らない。

遊びに来いよと言われたので!

真に受けて行きますとも、ええ。



「よくきたな、いらっしゃい。今日は思う存分楽しんでくれ」


この養蜂場の主ジェネルー様は、熊耳をピコピコさせながら

にこやかに出迎えてくれた。


白いつなぎ姿で黒い網がついた麦わら帽子をかぶり

腕まである手袋を装着した姿で登場してきた。


本当にこの方貴族なのかな?

素朴な森のくまさん感が半端ないのだけど。


かく言う私もガレットも、以下部下モンチラ達も同じ格好だ。


(蜂に刺されたら怖いもんね、準備は大事!)



で、いま噂の養蜂場についたのですが……

思っていたのと違う。100%違う!!

どこからツッコんだらいいのだろう。


あくまでも私の勝手なイメージです。

蜂の養蜂って……

林や森の近くに蜂の巣箱がいくつも並んでいて

その周りに蜂がたくさん飛んでいる光景だと思ってた。

草原の花の蜜を集めてくるみたいな?


この状況はなに?

崖に巨大なハチの巣がいくつも張り付いているのだけど……。


「圧巻だろう、今年はいいハチミツが取れそうだ」


ジェネルー様はその景色を見ながら満足げに微笑んだ。


「あの……」

心結はおずおずと切り出してみた。


「どうした?」


「蜂のサイズですが、これが通常サイズですか?」


「そうだが?」


何が?くらいの顔をされた。

えっ?ええ?おかしくないか!?


一匹が私の握りこぶしくらいの大きさだよ!?


しかも女王蜂なのかな?

メロン……ここではロメンだった。

ロメン1個分くらいのでかさなんですけど。


はっきり言って怖い!

近くを飛ばれるとめちゃめちゃ怖い!!


それ以上に蜂の体の配色がおかしいから。

働き蜂というのかな?


メタリックな銀色ボディーに複眼が赤色。

首や胸元にクマバチのように黄色いモフモフ!?

うん……モフモフ装備がついている。


車の塗装ですか?くらいのメタリック感!

電池で動いているとかじゃないよね!?


女王蜂なんてもっと派手だからね!!

メタリックな金色ボディーに複眼が虹色。

首周りのモフモフも虹色に輝いてみえる。


そんなものがそこかしこに飛んでいるのだ。

どういうこと!?


心結はただただドン引きしていた。

異世界怖い……。

こんなの蜂じゃない……。


幼体モンチラ達も怖がって、心結の肩と背中に

ぎゅっとしがみついている。


「あと……巣の形ですが、なんで星形なのですか?」


「あぁ、今年は星形みたいだな。

去年はハート形だったぞ。

その前は確か……三日月型だったかな

ブームがあるみたいだ。

毎年だいたい各地で同じような形らしいぞ」


「そうですか……」


(あぁみえて女王蜂達、乙女かよっ!

ブームってなに!?

今年は思い切ってハート型にしちゃう?

いいねー可愛いじゃん……ってなるのか?)


ますます遠い目になる心結だった。


そんな心結を見かねたのだろうか……


『ヨウホウハ、ダレデモデキルワケデハナイゾ。

マズハ、ジョオウ二ミトメラレナクテハ……

ナラナイカラナ』


ガレットが尊敬するように、ジェネルーをみながら言った。


「どうやって?」


『ソレハ……イマニミテレバワカル』


ガザガサガザ!!

崖の上から大きな音がした。


「きたか」

忌々しそうにジェネルーは崖の上をみた。


そこにいたのは、二匹の大型のトカゲだった。

1m以上はあるだろうか!

毒々しい赤に黒のドット柄をしていた。

どうやら蜂の巣を狙っているようだ。


兵隊蜂と思われる十匹程度の蜂が出てきた。

巣を守るように威嚇して羽音を鳴らしている!

全員お尻の針をトカゲに向けてやる気満々だ。


しばらく両者とも出方を伺っていたが

トカゲの一匹が巣をめがけて大きく飛んできた。


その瞬間……

ヒュンっと心結の顔の傍を大きな風が通りぬけていった。


「なっ……?」


気が付いた時には、崖の下にバラバラになったトカゲの残骸が……。

それをみたもう一匹のトカゲは逃げるように消えた。


『イマノガコタエダ。

アノオオガタトカゲヲ、イチゲキデタオセルモノハスクナイ』


「もしかしてジェネルー様が退治なさったのですか?」


目をまるくしてジェネルーを見上げた。


「あぁ、それが女王との約束だからな」


「天敵から守ってもらう代わりに、ハチミツをもらうという事ですか?」


「まぁ、結果的にはそうなるかな」


困ったように目尻を下げ、妙に歯切れの悪い答え方だった。


「と、いいますと?」


「この蜂は、オーゥルアベイユという種類だ。

どちらかというと魔物にちかいものだ」


(魔物なのか……だからこのビジュアル!?)


「そのハチミツは格別な美味しさだ。

食べたものをすべて虜にすると言われているくらいだ。

貴重なもので、なかなか手に入らないがゆえに

高額で取引されてきた歴史がある」


一所懸命花粉を運んでくる蜂たちを

見ながら表情を曇らせた。


「この蜂相手に、ハチミツ欲しさに巣を攻撃するのは

かなり至難の技ですよね。

でもそれを凌駕するほど魅力的な食材なのですね」


「かといって、大人しく飼われるようなものでもない。

そもそも誇り高い蜂だ。

人目につかないところにひっそりといる事が多いのだが……。

それが何故か、うちの領地内に巣を作ったのだ」


「環境がよかったのでしょうか?」


「わからん。

最初は小さな巣だった。

刺激しないようにそっと見守っていたのだが……。

ある日、女王蜂が大トカゲに食われそうになっていてな。

つい助けてしまったのだ」


そう言ってジェネルーは、ばつの悪そうな顔をした。


「あー」


「自然の摂理を壊すのは、どうかと思ったのだが……

もうすでに愛着が湧いてしまっていたからな。

気がついたら大トカゲを成敗していた……。

それを恩義に感じたのか、いつからかハチミツをくれる

ようになったのだ」


今度は愛おしそうに、せっせと働く蜂たちをみつめていた。


「以外に義理堅い魔物ですね」


(そうやって聞くと、ちょっと可愛く見えてきた)


「そうだな」


すると女王蜂が近づいてきた。

そしてジェネルーの周りを八の字を書く様に三回飛んだ。


「これが巣をとっていいぞの合図だ」


ジェネルーは、比較的小さい星形の巣を崖から剥がした。


「よし、帰って新鮮なハチミツを絞ろう」


皆でハチミツ工房へと戻った。


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