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65.王太子の決意

その男は相変わらず執務室で、書類とにらめっこをしていた。

読めば読むほど眉間に皺がよっていっていた。


「やはり……ここが怪しいか。

しかし近づくのは難関エリアだ。どーすっかな……」


皮張りの椅子に背中を預けて、くるくる回りながら思案する。

と、コンコン……ノックの音が聞こえてきた。


「あいてるぜ」


「失礼いたします」

執事姿のラウルがワゴンでお茶を運んできた。


「おっ!ラウル帰っていたのか」


「はい、一度戻って情報を整理しようかと思って一時帰国です。

しかし、近日中にまた戻ろうとは思っていますが……」


「その間の心結ちゃんの安全は大丈夫なのか?」


「あいつはモンチラのお姫様と化していますから大丈夫でしょう」

片眉をあげちょっと不満そうに呟いた。


そんな中でも優雅にコーヒーをカップに注いで……

お土産で買ったであろう、ロメンパンとジャムパンを

お茶請けとして一緒にだした。


あの後も心結は精力的に新作パンをうちだしていた。

主にモンチラファーマーたちが作った果物でジャムを作り

数種類のジャムパンを販売していた。


比較的安い値段設定にし、たくさんの人にいきわたるようにした。

その結果ますますシーブル王国を活気づけていた。



「これが噂のパンたちか、どれどれ」

ジェラールは興味津々で手に取り、思いっきり噛りついた。


「うまいな……これなら何個でもいける。

流石うちの心結ちゃん」


ご機嫌に尻尾をふりながら、更に二個目を頬張っていた。


「何をしに行っているのやら、本来なら人質ですよ。

理解に苦しみます」


「そんなに心配なら、今度お前が攫って連れて帰って来いよ」


三個目を頬張りながら、意地悪そうにニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「何を馬鹿なことを……。

国際問題に発展しますよ、そんなことをしたら」

呆れながら、パンを皿に追加するラウルであった。


「もう、とっくに国際問題だ……。

幼体モンチラの居場所が分かった。

なんと、我が国の後宮にいるとの情報が入った」


ラウルは、にわかに信じられない様子で思わず絶句した。


「…………!! 本当に我が国のバカがやらかしたのですね」


「そうだな。

これでかなり中央に近いものが暗躍していることが

間違いなくなったな」


「後宮ですか……我々がもっとも関与できない場所ですね」


万事休す……二人して無言のまま立ち尽くしていると

急にディーヤが飛び込んできた。


「失礼いたします。ジェラール様大変なことに!

あっ!ラウル様もこちらにいらっしゃいましたか」


「どうしましたディーヤ!?」


りすば犬侍女のディーヤが息を切らせながら慌てていた。


「リオネル王太子様がお見えです」


二人は顔を見合わせた。

「なんだって!?」

「…………!!」


「今、イリス様が応接室でご対応なさっています」


慌てて執務室をとびだし、ジェラールは応接室にむかった。


こんなに家の廊下を本気でダッシュしたことはないだろう

というくらい走った!

そのまま、息もつかずに応接室の扉を開いた。


「はぁ……はぁ……お……またせいたしました、リオネル様」

肩でゼイゼイ息をきらしながら、ジェラールは一礼した。


中ではイリスとリオネルが、お茶と共にシーブル王国の

ロメンパンを食べて優雅に寛いでいた。


「ごめんね、先ぶれも出さずに訪ねてしまって」

相変わらずふにゃっとした柔らかい笑顔で王太子は微笑んだ。


「それは、構いませんが何か急なことでも?」


そのまま、イリスの隣に座ろうとした時、リオネルの後ろに

控えて立っている人物が目に留まった。


「おまえ!帰ってきていたのか?」


そのままその狼獣人のところまで行くと、思いっきり抱きしめて

肩をバシバシと叩いた。


「ちょ……おまっ……むさくるしいオッサンに抱きつかれても

嬉しくねーんだよ、離せオッサン」


無理やりジェラールを剝がそうとしながらも

口調は嬉しそうだった。


「リオネル様、申し訳ございません。

久しぶりに顔を見たものですから、つい……。

よくアルテュール様が、許してくれましたね」


「ジェラールと心結さんと君の執事のお陰だよ。

あれから言われたとおりにすべてやめたら……

信じられないほど身体が回復してね。

やはりあれは君たちが言っていた通り毒だったんだね」


「……………」


「しかも香木は父上にも送られていたんだ。

だから真実を突きつけたよ、今回ばかりはもう許せない」


「国王までにも害は及んでいたのか」


ジェラールは驚きが隠しきれず返す言葉を見失った。


「とても驚いていたよ。

まさか病気を治すための薬だと思っていたものこそが

自分を害する現況の一端を担っていたなんてね。

君たちの協力がなかったら、とても信じては貰えなかっただろう」


ジェラールの家に運ばれた、バニーユリリィと香木は

国立研究所のトップ研究チームの立ち合いのもと

秘密裏に分析が行われた。


特別な魔法陣により、不正ができない仕組みになっている。

そこで出た分析結果は、国のお墨付きとして記録されて

誠の真実として認められるのだ。


「だから僕も覚悟を決めた。

戦うと決めたよ……。

今朝もセラフィンに揺さぶりをかけてきた。

だからジェラール、真実の解明に協力して欲しい」


そう言ったリオネルは、決意の籠った瞳をしていた。

しかしその反面ちょっと寂しそうだった。


〈そこまで覚悟を決めたのなら、もう何も言うことはねぇな。

俺も決着をつける時が来たかな……〉


「リオネル様……どうぞ、このジェラール=レオポルドに

何なりとご用命ください」

ジェラールは片膝をついて敬意を表した。


「やだな……ジェラール叔父さん。

叔父さんだけは臣下ではなく、普通に接して欲しい」


懇願するように、ジェラールの手をとった。


「わかりました。

では近しいものとして協力させてください」


「フフ……頼りにしているよ」


今度は飛びきりの笑顔でリオネルは、微笑んだ。


「それでは、作戦会議と行きますか。

お互いの持っている情報を共有しましょう」


幼体モンチラおよび心結奪回の為の作戦チームが動き出した。


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