61.一つめの欠片
ひとけのない公園の隅までくると、フードの男は切り株に座った。
そこでフードをおもむろに脱いだ。
狼獣耳が現れ、次に碧眼の怜悧な美貌の男が現れた。
日の光に照らされて、狼の獣耳が銀色と黄金色にキラキラ輝いていた。
〈メロメロパン……まさかこの世界で再び食べられるとはな。
あの娘が考案したのだろう……〉
感慨深げにパンを見つめると、がぶりと一口食べた。
「…………。旨い……」
〈あの時食べた味と一緒だ……
いや……あの時の方がもっと旨かったな、きっと〉
遠い記憶に思いを馳せて目を閉じる。
あれからずっと食べたかった……
いや心の奥底にしまって封印していた思い出の味とでもいうのか。
それが今、目の前にある!
更に一口……もう一口、一口と食べ進めていく。
「………………、兄貴……」
自分でも気がつかないうちに涙が溢れていた。
(俺は泣いているのか……!?)
その涙が一粒、頬を伝って流れ落ちた。
流した本人は気が付かなかっただろう……
その涙は何故か膝には落ちず、そのまま空中で消えた。
カランッ
その涙はピンク色をした一粒の宝石に姿を変えた。
それはモンチラの村の祭壇へと姿を現した。
「肉球の欠片となりましたか……」
食の女神キュイジーヌは、人知れず呟いた。




