59.過去に思いを馳せて……
気がついたら見知らぬ場所だった。
見たこともない大きな建物、大きい音で走る何か。
耳に痛いほど色々な音が流れ込んでくる。
それよりも一番驚いたのは、信じられないくらい
たくさんいる人型!!
むかし曾祖父が話してくれた憧れの人型。
我が国にたくさんの知識を与え発展させてくれた人型。
優しくて思慮深い人だったという。
まさかこの目で見られる日がくるなんて!!
嬉しくて近くにいた若い男と女の人型に近づこうとした時
無残にもその憧れは、一瞬にして見事に打ち砕かれた。
「いやっ!何この汚い子犬!!
来ないでよ、スカートが汚れるじゃない」
「きったねーな、シッシッ、あっちいけ」
思いもよらない罵声を浴びせられ、
あまつさえ若い男に蹴られそうになった。
〈えっ……なんで?汚いとは俺の事か……〉
確かに逃げまどったからだろうか、毛並みもボロボロで
傷だらけだった。
他にも親子連れの人型だろうか、前から歩いてくる。
「わんわん……」
子供が触ろうと近寄ってきたが、母親が素早く子供を
抱きかかえて凄い剣幕で言った。
「駄目よ、汚いじゃない。
何か病気があったらどうするの!!」
蔑んだ目で俺をみながら、足早で避けて言った。
〈どういうことだ、聞いていた話とは全く違う。
人型とはこんなにも怖いものだったのか!?〉
その後も石を投げられそうになったり
あからさまに避けるように歩かれたりした。
〈何故だ……どうしてこんなにも視線が冷たいんだ〉
困惑した。
怖くなり歩けなくなり、大きな茂みの中でただ震えていた。
体も痛いし……お腹も減った。
でも自分ではどうすることもできない……。
せっかく逃げてここまで来たのにこの仕打ち……。
ただただ途方にくれていた。
その時だった……
音もなく自分の目の前にそいつは現れた。
『お前どこから来た、この辺じゃ見かけない顔だな』
それは一匹の若いオス猫だった。
『飼い犬……か?迷い犬か……?』
何と答えていいか困惑していると
『まぁいい、ついてきな、腹減っているんだろ』
そう言ってオス猫はついてくるように目で促した。
俺はそのままその猫についていった。
案内されたのは、あばら家だった。
中には他にも数匹の動物の気配がする……。
『遠慮するなよ、みんな気のいい奴らばかりだ』
中に入っていくと、壊れたボロボロのソファーに
猫2匹と犬が3匹寛いでいた。
『ここは……』
『まぁ、溜まり場だな』
猫は大きな袋のような物の前に来ると言った。
『ドッグフードだ、好きなだけ食え』
袋から茶色い固形物のようなものが零れ出ているのが見える。
〈ドックフードだと……〉
どう見ても食べ物とは思えない塊に顔を顰める。
匂いを嗅いでみるが、あまり美味しそうな匂いはしない。
とりあえず二~三粒食べてみたが、はっきり言って不味い。
『お前……どこの箱入りだよ。
ドックフードは食えないってか』
横目でボリボリとドックフードを食べながら
猫は苦笑した。
『すまない……』
しゅんとして猫に謝った。
『しかたねぇな、明日天気がよかったら公園に行くか。
もしかしたら、旨いものありつけるかもしれないからな』
言っていることがよくわからないが、頷いておいた。
『今日はここで休め。
明日からお前の飼い主の事も聞き込みしてやる。
心配するな』
そういってソファーに飛び乗ると丸くなって寝てしまった。
〈随分面倒見のいい猫だな〉
俺は感動しつつ、でも少しの間辺りを警戒していたが
やがて疲れと緊張でウトウトし始めた。
気がついたらそのままそこで一夜を明かしていた。




