番外編~七夕祭り開催INレオポルド邸~
一家揃ってお茶を飲みながらまったりしていた時の事だった。
唐突に心結がポツリと言った。
「今日って……7月7日ですよね」
「暦の事か?確かにななの月の7日だが……
それがどうかしたのか?」
イリスが不思議そうに目を細めた。
「七夕祭り開催しましょう!!」
握りこぶしを天に突き上げながら、心結は叫んで立ち上がった。
レオポルドファミリーと、ラウルとディーヤが
揃って首を傾げた。
(可愛いな…獣耳が忙しなくピクピク動いているし
全員が揃って首を傾げてる姿はレアだな)
心結は驚きに固まる皆の顔を、見まわしながら微笑んだ。
「七夕祭りってなんだ?」
いち早く我に返ったのはジェラールだった。
心結の提案に対し、かなり戸惑いながらも確認してきた。
「黄金の国、ジャッポーネの伝統的行事です」
その発言を聞いた、ラウルとディーヤはビクついた。
〈デジャブ!!
また変な事言い出すんじゃねーだろうなこいつ。
ジパングじゃなかったのかよ!ジャッポーネだと!?
一体こいつの出身地はどこなんだ?あん?〉
変なツッコミを心の中で入れるラウルがいた。
〈ミュー様の悪い癖が、また出てしまいましたか!?〉
若干オロオロするディーヤ。
そんな二人をよそめに、話を続ける心結。
「七夕伝説とは……ざっくり言うとね。
昔、神様のために機織りをしていた織姫と
牛飼いの彦星がいたの。
働き者だった為、神様は2人を引き合わせてあげたの。
やがて二人は結婚した。
だけど遊んでばかりで、働かなくなってしまったの。
そのことに怒った神様は、2人を天の川の両岸へと
引き離してしまった」
「自業自得だな……」
ラウルが鼻で笑った。
「ラウル!!」
レオポルド一家とディーヤがジト目で睨む。
「し……失礼いたしました」
続きを話せと目で訴えられる心結。
「でね……あまりにも二人が嘆くから
一生懸命働けば1年に1回会うことを許されたの。
で、2人は働き者に戻り、1年に1度七夕の夜に
天の川を渡って会うようになりましたとさ。
という伝説が元になった行事です」
「一年にたった一度だけか!! 俺だったら死んでしまう」
ジェラールの尻尾が優しく、イリスの腰に巻きついた。
イリスまでもちょっと目がウルウルしている。
「可哀そうです……」
「ミュー……」
ユーゴくんとディーくんの尻尾と耳が悲し気に
ぺしょっと後ろに倒れた。
「それがどうして祭りにつながるのですか?」
一人冷静なラウルがツッコミを入れた。
「諸説あるみたい……。
昔は、織姫にあやかって機織りの技術や裁縫が上達しますように
とか、穢れを払う為など色々だったみたいだね」
「で、今はどんなことをするのだ?」
イリスが尻尾を振りながら、目を輝かせながら聞いてきた。
「再会できた二人のように願いが叶いますように……って
みんなそれぞれ自分の好きな願い事を短冊に書いて、
笹の葉に吊るすの!
そうすると神様が叶えてくれるって信じているんだよ」
「フッ…………」
「あーラウルさん、信じてないでしょ」
ムッとした顔でラウルに詰め寄った。
「子供だましだな……」
ちょっと小馬鹿にしたように、口角をあげて微笑した。
「夢がないな……。もう」
「いいじゃねえか、やろうぜ。祭りは楽しいものだからな」
ジェラールが親指をたてて、ニッと笑った。
「やったぁ!私お屋敷の方達すべての短冊用意しますね」
心結は飛び上がって喜んだ。
「僕も手伝うよ」
ユーゴくんとディーくんも一緒に、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「心結さん、笹の葉とはどんなものだ?」
「笹の葉はですね……」
心結は紙に笹の葉を書いて、イリスにみせた。
「このような植物はないな……」
(この世界には笹はないか……。どうしようかな)
「それでは、庭に大きな木はありませんか?
笹のかわりに、その枝に短冊を結ぶのはどうですか?」
皆で庭を見渡してみた。
すると、ちょうど窓から見える位置に小ぶりだが
緑に生い茂った木が目に入ってきた。
「イリス様、あれにしましょう。
ここからもよくみえるし、大きさも丁度いい感じです
大人なら手も届きそうですし」
「ウルーズの木か……。
あれは幸運の木と呼ばれているものだ」
「いいですね。願い事が叶いそうですね」
二人は見つめあって微笑んだ。
それからというもの、急ピッチで準備が進められ
“七夕祭りIN レオポルド邸の宴”が無事に開催された。
ちょっとしたプチガーデンパーティーだ。
心結監修のもと、すべての料理に星形や月型が使われ
サンドイッチやクッキー、フルーツパンチなどが
使用人達に振舞われた。
今日ばかりは、公爵家のすべてのものが仕事を休み
謎の七夕祭り?を楽しんだ。
わいわい言いながら、みんながそれぞれの短冊を
木に吊るしてくれている。
「みんな楽しそうでよかった」
そんな様子をガーデンテラスに座り
クッキーを頬張りながらニコニコ顔で見ている
心結の元にジェラールとイリスがやってきた。
「俺たちからもお礼を言うぜ心結ちゃん、ありがとうな」
「ジェラール様、イリス様。
私こそこんな我儘を叶えてくださり、ありがとうございます。
あ、お二人には、この特別な短冊です」
皆とは違う、金の紙でできたハート型の短冊を渡した。
「おっ!ありがとな。
さっそく願い事とやらを書くかな」
二人は仲良く嬉しそうに、短冊に何かを書き始めた。
木の下では、ユーゴくんが一生懸命手を伸ばして
ディーくんの短冊を木の枝に結んであげているのがみえる。
(お兄ちゃんしているな……可愛い)
しかし、心結は人知れずそっとため息をついた。
手の中にある銀色の短冊のせいだった。
(ラウルさん、受け取ってくれなかったな)
「……ちゃん、心結ちゃん……、どうした?ん?」
思いっきり自分の世界に入っていたらしい。
心配顔のジェラールが目の前にいた。
思わず、さっと銀色の短冊を後ろでに隠した。
が、尻尾でひょいっとそれをあっという間に取られた。
「ジェラール様!!」
「受け取ってもらえなかったのか……」
やれやれというように、ため息をついた。
「はい、秒で断られました」
苦笑いしか出てこない心結だった。
ウィンクと共に優しくポンポンと頭を撫でられた
「これは、俺があずかっておくぜ」
ジェラールは銀色の短冊をヒラヒラさせらなら、どこかに消えた。
祭りも無事に終わり、心結も部屋に帰って休んでいた。
今夜は満月らしくウルーズの木にちょうど光が注ぎ
ライトアップされているみたいだった。
心結も部屋から月明かりを楽しみながら夜空をみていた。
その時、ガザッと物音がして、短冊がゆれる音がした。
(何事!! まさか短冊に何かあった!?)
心結は心配になり、カーディガンをはおり外に出て
ウルーズの木にむかった。
幸いの事に何事もなく、みんなの書いた短冊が
風で優しく揺れていた。
よかった……と思って空を見上げるとそれはあった。
かなり高い枝に結ばれているが、間違いなく銀の短冊だった。
そこだけがスポットライトを当てたように、キラキラと
光って存在を示していた。
(ラウルさん……書いてくれたんだ!!)
高くて何が書いてあるかは、はっきりと見えないが
少しだけ読むことができた。
もう一度………会えます……ようにと書かれていた。
その後にラウルのサインもしっかり入っているのが見える。
間違いない!!
ジェラール様が後押してしてくれたのかな……。
〈仕方ねぇ……、今夜だけは特別だ〉
上から目線で、眉をひそめながら書いている
ラウルさんが想像できる……。
(誰だかわからないけど、ラウルさんが会いたい人にどうか
もう一度会えるようにお願いいたします!)
心結はお星さまに祈った。
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どうか……皆様の願いも叶いますように!!




