45.真相はどこにある?
我ながら不思議な光景だと思う。
昔の自分がみていたら、すかさずツッコミを入れていたはず。
テーブルをはさんで、凶悪顔のボスモンチラのガレットと
朝食を取りながら真剣な話し合いだよ!
動物と喋りたいと常日頃から思っていたけれど……
違う!違う!こういうのじゃない!!
心結はちょっぴり遠い目になった。
だが、気を取り直してガレットに聞いてみた。
「素朴な疑問なのだけど、幼体モンチラちゃん達は
どこで誘拐されたの?」
『ジュウジンノマチマデ、ギョウショウニイッタトキダ』
「えっ?行商とかしているの。暗殺が本業じゃないの?」
思いもよらない回答に心結は驚いた。
(以外にも地道な方法でお金を稼いでいるのだな)
『ソレハアクマデモ、オレタチノイチブデシカナイ。
コノムラノハチワリハ、フツウノモンチラダ。
オモニノウギョウヤショウバイデ
セイケイヲタテテイル』
「あーだからあんなにも畑が広がっていたんだね。
主に何を栽培しているの?」
「“ブレ”ダ。
パンヲツクルトキノ、ゲンリョウニナル。
コノクニノ、シュショクニナルサクモツダ」
(小麦のことかな?おそらく。
だから水車小屋で何か作物を挽いていたのか!
粉にして……小麦粉を生産していたのね。納得)
「ごめん、話が逸れちゃったね。
誘拐された時の状況を、もう少し詳しく聞かせて。
何かいつもと違っていたことはある?」
『ソウイエバ……。
イマオモエバ、アノヒハ、ナニモカモガオカシカッタ。
イライモ、キュウキョハイッタモノダッタ』
「それなのに何で受けたの?」
暗殺部隊のボスとあろうものが、飛び込みの依頼なんて
簡単に受けるだろうか?
にわかに信じがたい行動に、心結は首を傾げた。
『ナガネントリヒキシテイタ、アイテダッタカラダ。
オレタチハ、キホンキマッタアイテトシカ
トリヒキハシナイ』
「それだけで信用したの?」
その一言にガレットの表情が険しくなった。
心なし部屋の温度も2~3度下がったかのようなピリついた
空気が流れたので、心結は内心ドキドキしていた。
(言いすぎちゃったかな……。
もともと凶悪顔なのに、更に凄みに拍車がかかっちゃったよ!)
そんな心結をチラ見しながら、ため息交じりに言った。
『アイテハコノクニノ、オウケニツラナルモノダ……。
サスガノオレタチデモ、テキニマワシタクナイアイテダ』
「あー、この国の王家筋が依頼者か……」
心結はセラフィン殿下やそのまわりの王族の顔が脳裏に浮かんだ。
(王家はどこも厄介だな。なんかいやな予感してきた)
「行商に行くメンバーって決まっているの?
その日もいつもと変わらないメンバーだったの?」
『キホン、ギョウショウニイクノハ、オレタチノヨウナ
ジュウジントイシソツウデキルモノ。
アトハ、スウニンノショウニンモンチラダ』
「その中に幼体モンチラは含まれるの?」
『ソノヒハ、ショウニンモンチラノナカニ、スウヒキイタ』
「商売の才能があるものは、経験をつませるために
幼体でも連れていくって感じ?」
『ソウダ。ジッセンニマサルモノハナイカラナ』
(しっかりとした制度の上に、成りなっているのだな。
モンチラは獣体の中でも、かなり賢い種族とみた)
「それで何故そんな事に?
ガレット達がいるなら、相手もそんな馬鹿な真似するとは
思えないんだけど……」
それを聞いたガレットは、大きな体を揺らして
苦虫を嚙みつぶしたような顔をしながら言った。
『オオキナアンサツイライガ、ドウジニハイッタ』
「えっ!?」
『オレタチセイエイブタイノホトンドガ……
ソノイライニデムイタ』
「ということは、行商チームは戦力的に低かったって事ね。
その依頼二つが重なったのはわざとなのか。
それとも本当にただの偶然だったのか?
というところか。
何故戦力を分けなかったの?」
『………………』
急にガレットが口を噤んだ。何やら悩んでいるようだ。
周りにいた数匹のモンチラが微かにビクッとして目を逸らした。
(これは何かよろしくない空気が流れているな……)
「ねぇ、ガレット。
さっき畑の横に珍しい果物がなっていたでしょ。
あれが見たい!だから今から案内してくれる?
難しい話ばかりだと、疲れちゃう」
心結はわざとこの話は飽きた、というように話を切り出した。
幼体モンチラ達も飛び跳ねながら……
行きたい!行きたい!とキュウキュウ鳴いた。
『シカタネエナ……』
呆れたように笑うと行くぞ!と目で合図してきた。
心結たちが部屋を出ると同時に数匹のモンチラが動いた。
密かに裏の扉からそっと姿を消したのだ。
心結とガレットWith幼体モンチラは、畑道を仲良く歩いていた。
「天気がいいね。今日はお洗濯日和だね~」
『……………』
相変わらず難しい顔をして、ガレットはただ黙っている。
しばらくそのまま歩いていると、目的の果物の木の下についた。
何も言わずガレットが木の下に座ったので……
心結も横に座った。
しばらくの間、遠くに見えるモンチラ達の農作業の様子や
流れる雲などを黙ってみていた。
風が気持ちいい。
ふいに……ガレットが呟いた。
『キカナイノカ』
心結は地面の草をむしりながら、横目でガレットをチラ見して言った。
「聞いて欲しいの?言える話なの?」
『ビミョウナトコロダナ、イヤ……アウトダナ』
そのまま大きな体を倒して、草の上に仰向けになって目を閉じた。
『イマカライウコトハ、ヒトリゴトダ』
心結も真似をして、草の上に大の字になった。




