40.危険なモフモフ
ただいま私の乗っている馬車が、敵!?に囲まれ中です!!
お屋敷に帰る途中にある、森の中でのできごとです。
あと5キロほどでお屋敷という安全地帯のハズなのですけど。
この仕打ち!どういうこと!?
ディーヤと和やかに歓談していたら、いきなり馬車が急停車!
と、同時に何かが争うような声と音が響き渡りました。
「何ごと!!」
扉をあけて確かめようとしましたが、ディーヤに止められました。
「駄目です!ミュー様。危険です!!
護衛騎士二人の指示を待ちましょう」
(何故?危険回避スキルは発動していないのに……)
カリカリカリ……窓の方から微かな音がする。
ん?馬車の窓から可愛いものが数匹覗いているではないかぁ。
「ディーヤ……」
「はい?」
「外に天使がいるよ!!何この可愛いやつ」
「へっ?」
ディーヤが窓を見ると声にならない叫びをあげた。
「ヒィィ!!まさか……モンチラ」
「ん?モンチラっていうんだ。
そういえばチンチラっぽいね。この子達」
両手を腕の前でくんで、ディーヤはカタカタ震えだした。
「どうしたのディーヤ?」
声を震わせながらも説明してくれた。
「あれは……とても凶暴な獣体です……。
あのような可愛い見かけをしていますが
油断してはいけません。
常に群れで行動し統率力が高く、長距離を飛ぶこともできます。
とある国では暗殺部隊として重宝されているとか……」
「えぇ!!あんなにモフモフで可愛いのに。
裏切り行為でしょう。
なんで暗殺仕様なんかにするのよ」
心結は心の底から憤った。
(モフモフへの冒涜でしょうが!!)
そのとき急に、馬車の扉がひらいた。
二人は驚き馬車の奥へと飛びのいたが、目の前にいたのは
ハスキー獣人の護衛騎士だった。
「心結様、申し訳ございません。
身の安全は保障いたしますから……
外に出てきていただけませんか
もうどうしようもなくて」
獣耳をぺたんと後ろにさげて、申し訳なさそうに呟いた。
「ミュー様」
ディーヤが心結のスカートの端をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫!いってくる」
馬車の外に出たら想像を絶する光景が広がっていた。
「えぇ…………!! うそでしょ」
モンチラたちにこれでもか!
というくらい四方八方隙間なく、取り囲まれていた。
周りの木々から、馬車の上まで……至る所がモンチラで
びっしりと溢れかえっていた。
それらのすべての視線が、心結に集まった。
「どこからこの数集まったのよ。一体何が目的なの?」
目を剝いた!あんぐりと口を開けて周りを見渡してしまった。
「それが俺達にはよくわからなくて。
何かを訴えているのはわかるのですが、言葉がわかりません。
攻撃してくる様子はありません。
しかしなんせこの数なので」
(傍でみたらモンチラでかいな。50㎝くらいあるし
色々な毛色の個体がいるんだな)
相手の出方も要求もわからないので、立ち尽くしていると
斜め前の木から、ひときわ大きいモンチラが
心結に向かって飛んできた。
70センチくらいある大型サイズだ。
青紫色の毛色でお腹の色は白く、ちょっぴり太め。
目を引くのが、右目から頬に大きな斜め傷が二本ある
凶暴顔のいかついモンチラだった。
(おおきな座布団が飛んできたかと思ったわ!!
この群れのボスかな、迫力あるな!全身モフモフだけど)
あぁ!モモンガみたいに飛べる被膜がついているのね。
だからモンチラなのか。
一人で納得しているとそのいかついモンチラが話しかけてきた。
『コドモタチヲカエシテクレ』
「えっ?」
『オマエタチノ、クニノモノガサラッタ』
「ちょっと待って、何を言っているかわからないんだけど」
モンチラは更に威嚇すように牙をむいた。
『セイジョノモトニ、アツメルトイッテイタ!
ヒトガタノセイジョヨ!モウイチドイウ。
コドモタチヲカエセ』
その場にいたすべてのモンチラが威嚇行動をとった。
激しい殺気にあてられて、肌がピリピリする。
「子供たちが攫われたらしい。
返してほしいって訴えているみたいだけど、どうしようか……」
心結はなす術がなく、困惑しながら護衛騎士の方を見た。
「なんだって!モンチラの子供を攫うなんて自殺行為だ」
ゴールデンレトリバーの獣人は頭を抱えている。
馬車の中で聞いていたディーヤも顔が青ざめている。
『カエサナイノナラ、オマエヲサラッテイクマデ。
コドモタチトコウカンダ』
「本当に私たちは知らないの!」
『イチドケイコクハシタ。ニドメハナイ。
コバムノナラ……』
「わかった!どこにでも連れて行けばいい。
でもディーヤ達には指一本触れないで」
「心結様!!」
「心結様!!」
「ミュー様何を!!」
三人の悲痛な叫びが響き渡った。
「今の時点ではこれしか方法はないみたい。
とにかく早く帰ってジェラール様に伝えて」
それでも護衛騎士たちが応戦しようと武器を構えると
モンチラも構え、一触即発の事態になりそうなった。
「駄目よ!モフモフ同志争うことは許さない。
大丈夫だから皆の事信じているから。
必ず助けにきてよね!」
心結は努めて冷静を装って言った。
本当は泣きそうだったけど、奥歯をかみしめて微笑んだ。
こうして心結は、モンチラたちに連れ去られていった。




