4.ムチャぶりにも程がある
思いっきり泣いたお陰なのか、幾分冷静さを
取り戻すことができた。
「ごめんなさい……
子供のように泣きじゃくってしまいました」
「かまいませんよ。
こちらこそ不安にさせてしまいましたね」
傍から見ると、湖の畔の花畑に美少女と黄金の梟。
絵になる情景である。
しかし状況はとてつもなく深刻であった。
「こちらでも早急に原因を追求いたします。
お詫びと言ってはなんですが、
幾つかのスキルやオプションを、私から授けます。
ですからどうか勝手なお願いですが、あなた自身でも
この世界を巡って、手がかりを掴んでくれませんか」
「そんなムチャぶりな」
スナチべみたいな顔になる心結であったが……
黄金の梟は、かまわず話を止めない。
「私を含めてリンデナザールには7人の神様がいます。
そのすべての方々を巡って話を聞いて頂ければ、
何かがわかるかもしれません」
「丸投げ感が半端ないのですが」
頭を抱え込む心結。
「神様なんて……
そう簡単に会える方ではないじゃないですか」
「そこは特殊スキルなどでいけるかと、おそらく。
それぞれの神を祭る神殿もありますから、
訪れてみるといいでしょう。
感謝祭などのイベントも各地で、頻繁に
開催されていますし」
可愛く首を傾げる梟。
「可愛い仕草でも絆されませんよ。
身分もお金も武器もないのに」
「その為の美少女仕上げですよ」
ホッホゥホと満足そうに梟は鳴いた。
「この仕様にしたの!
アナースタシア様だったのですか!?」
心結は改めて、自分自身を上から下まで見た。
確かにとんでもないSSR級の外見だけれども!!
そういう問題じゃない……。
「あなたの言うところの異世界転生の定番
美少女ですよ、ウフフ」
嬉しそうに羽をバッと開いてドヤ顔をきめる梟。
「もう一度青春を謳歌すればいいのですよ。
長期の夏休み的なものです」
(何を言っちゃってくれてんだ!この梟)
ますます無表情になり、死んだ魚の目のようになる心結であった。
「アナースタシア様……。
本当に私は原因不明でこちらにいるのですか?
今までのお話をきくと、かなり具体的な計画があって
呼ばれた感がぬぐえないのですが」
心結はなおも食い下がり、梟にズイっとつめより
伺うようにその瞳をじぃーと見つめた。
「…………」
梟は動揺したようにバサッと1回翼を軽く広げ
心結から一瞬目をそらし、申し訳なさそうに呟いた。
「本当にわからないのですよ。
私はリンデナザールの一角を、担っているにすぎません。
ですから全てを把握できるわけではないのです」
シュンとして少し小さくなる梟が目の前にいた。
(あぁ、シュンとしている梟、可哀そ可愛い。
身体が半分くらいに細くなってるよ!!)
心結は心が痛んだ。
「あっ!リンデナザールは、モフモフパラダイスですよ!
旅をすれば、色々なモフモフにあえますよ」
勢いを取り戻したのだろうか……
黄金の梟は再びドヤッとばかり胸を張る。
「獣人もいますし、もうそれは凛々しいですよ」
ダメ押しとばかりまくしたてる。
「特に獣人の幼獣体は、
フワフワのおめめウッルウルのモッフモフですよ」
これでどうだ!
と言わんばかりの鼻息の荒い梟が降臨いたしました。
「上下左右、東西南北!
あらゆる方向がもっふもっふですよ!」
上下左右って……
どんな誘い文句なんですか。
もうこうなったら笑うしかなかった。
女神様の売り込みが凄い!
しかも弱いところをついてくるのがまたズルいのよね。
「モフモフ三昧の日々を過ごしませんか?」
心結の脳裏に、たくさんのモフモフに埋もれて
幸せそうに蕩けている自分の姿が浮かんだ。
「なにそのご褒美。
最高じゃないのぉおぉ!!
うぅ、モフモフ万歳!」
思わず手をあげて天を見上げて叫んでいた。
(負けた!これはやるしかない)
心結はこぶしを握りしめて誓った。
この世界のモフモフを全制覇すると!
そして原因を突き止めて、無事に家に帰るぞ!