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34.それぞれの王子様

「心結ちゃん、毎日贈り物の嵐らしいなぁ」

揶揄いが含まれた軽妙な声のジェラールに迎え入れられた。

尻尾は楽しそうに、ゆらゆらと揺れているのが見える。


心結は執務室の扉を閉めながら、ため息交じりに言った。

「ジェラール様、楽しんでいらっしゃいますね」

「まぁな」

ますます目を細めて、にやりと笑った。


目で座るように促されたので、フカフカのソファーに座り

クッションを抱き込む。


そこにラウルが、フルーツが入った紅茶のような飲み物と

数種類のチョコレートをワゴンにのせて運んできた。

てきぱきと二人にサーブしたのちに、ジェラールの後ろに

当たり前のように控えた。


こくりと一口飲んで、心を落ち着かせてから切り出した。

「セラフィン殿下の意図が全く読めません」


「女子としては、憧れなんじゃねぇの?

あんな熱いプレゼント攻撃!

心結ちゃんが可愛いから一目惚れしたんじゃねぇか?

答える気持ちはあるのか?ん?」


「それはないですね」

心結は表情を変えずに、さらりと固い声できっぱりと言った。


「どうしてだ?あの方に見初められれば、将来安泰だぞ」

今度はジェラールの纏う空気が変わり、真剣な声とまなざしが

心結にそそがれた。



少し困惑して視線をさまよわせながら、深いため息をついた。

そして、心結は言葉を選びながら言った。


「正直最初は、あの王子様笑顔のキラキラに私もときめきました。

でも殿下と握手して……正面からあの方の目を見たとき……。

上手く言えないのですが……。

そこはかとなく怖さを感じたというか。

肉食獣に狙われた小動物のような気分になりました」


「…………」

その発言に驚き、ジェラールとラウルは顔をみあわせた。


「確実に恋愛とかではなく……。

もっと何か仄暗い炎みたいな感情が流れてきたのです。

桐嶋心結という個人ではなく、ただ人型としての価値を

欲しているというのでしょうか」


「そうか……」

思案するように顎に手をあてて、少し困った表情で続けた。


「心結ちゃんの気持ちはわかった。

だけど今すぐ殿下の事をどうにかできる手立てはない。

あれでもこの国の王子だ」


「ですよね……。せめてプレゼント攻撃はお断りできませんか」


「そうだな、アルテュールにくぎでも刺してもらうか……」


「アルテュールって、国王様にですか?お恐れ多いです。

というか、随分親し気ですが、ジェラール様と国王様って」


「ん?いとこ同士で幼馴染の腐れ縁ってやつ」

「えっぇぇ!!」


(なんだって!

ジェラール様、かなりの血統血筋じゃないですか!!)


「じゃぁ、王太子のリオネルにしよう!

ラウル、至急連絡をとってくれ。

それからお茶のお代わりも頼む」

「はっ!」

ラウルは一礼をすると、素早く部屋を出て行った。


「さて、ちょっと込み入った話をしようか。

どうして花の祭典の行事に来たのが、寵姫のエーデル様と

第三王子なのかって思わなかったか?」


「はい、何か事情があるのだろうとは思っていましたけど」


「まず、アルテュールには正妃と二人の側妃がいる。

いたと言った方がいいか。」


「正妃様は鬼籍に?」


「そうだ、かなり若い時に亡くなっている。

正妃様はヴィオレット様というライオン獣人の方だ。

その間にできた方が、第一王子のリオネル様だ。

リオネル様は生まれつき体が弱くてな、今は離宮で静養なさっている」


「その流れでいくともしかして……。

第一側妃様も鬼籍なのですか?」


ジェラールは痛ましそうに顔を歪めながら、苦しそうに答えた。


「そうだ、ルイーズといって、俺たちと幼馴染だった令嬢だ。

俺とアルテュールの初恋はルイーズだ。

気が強いがいい女だったよ。

身分がちょっと釣り合わなかったのだが、アルテュールが

どうしても妃に迎えたいといってな。

あれが最初で最後の我儘だったのかもな」


少し懐かしそうに、ジェラールは寂しく微笑んだ。


「そのルイーズもアルテュールを狙った暗殺者から、

身を挺して庇った為に命を散らしたよ。

幼い息子を残してな」


「その方が第二王子様なのですね。その方は今どこに?」


「第二王子は行方不明だ。もうかれこれ20年以上になるな」


「だからですか。りすば犬のメイドさん達が、

第一王子様と第三王子様の噂をしているのはききましたが、

不自然なくらい誰も第二王子様の事は、決して口にしません」


「俺達もあらゆる手を尽くしたが、未だに未解決だ」


「で、結局残ったのがエーデル様ってことだ。

立場はいまだに側妃だがな。

野心の強いお方だ、このままでは黙っていないだろう」


(あのきつめ美人のトラ獣人の寵姫さまかぁ)


「実質王妃のようなふるまいだと言われている。

そのせいなのか、セラフィン殿下までとんでもない夢を

みるようになっちまったのかねぇ」

忌々し気にジェラールは顔を顰めた。


そこにラウルが戻ってきた。


「王太子リオネル様との謁見が整いました。

明日の午後にお時間が取れるそうです。」


「よし、会いにいこうぜ。心結ちゃん。

リオネルはいいやつだぞ。頭も切れるし、性格もいい。

ラウルにも引けをとらないイケメンだぞ」


心結は思わず、まじまじとラウルを見つめてしまった。


「なんですか?」


「別に……。いいじゃない。減るものじゃないし」


「いえ……。あなたにみつめられると。

ゴリゴリと何かが削られる気がしますので!

ご遠慮いただけるとありがたいのですが」


「ブハッ、なんだよゴリゴリ削られるって!

心結ちゃん、どんどん削ってやんな」


「はい、ゴリッゴリッに削ってやりたいと思います!」







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