33.プレゼント攻撃
「ミュー様、今日はこちらが届きましたがどうしましょう」
ディーヤが両手で抱えきれないほどの、ヒマワリのような
花束を部屋に運んできた。
部屋で本を読んでいた心結はそれをみて、またか、と呟くと
うんざりする様なため息をついた。
「はぁぁぁ……毎日毎日、いったいどういうつもりなの!?」
「ミュー様の気を惹きたいのではないでしょうか?」
「まさか……」
「この太陽の花ヘリオスの花言葉は
”私の目はあなただけを見つめている”
よく殿方が意中の方に贈られる定番ですね。ええ……」
ディーヤの顔は笑顔だが、声に怒気が含まれているのは
気のせいじゃないはず。
(やだちょっと怖い!! 何!?その花言葉!!)
神殿でお会いした次の日から、第三王子のセラフィン殿下
からの贈り物攻撃が止まらない。
毎日様々な物が送られてくるのだ!!
しかもそんなに高価な物じゃないから、あからさまに
無下に断れなくて逆に面倒くさい。
本当に面倒くさい。大事なことだから二回言う!!
他のりすば犬のメイドさん達は、連日殿下から
送られてくるプレゼント攻撃に本人そっちのけで、
キャアキャア言ってもう浮き足立っちゃっているし。
〈これは今一番王国で、人気のお店のチョコレートですよ。
並んでも手に入らないものです!〉
〈羨ましいですわ!
セラフィン殿下は女子にとても人気ある方なのですよ〉
〈セラフィン殿下に私も、こんなに情熱的に愛されたい〉
などなど……凄く人気あるんだよね、あの方!!
噂によると、第一王子派と第三王子派に二分
しているらしい。
魅了魔法スキルでも持っているのか!?
くらい、いい噂しか聞かないよ……。
心結が遠い目になり、脳内会議をまたもや開いていたら
隣から尋常じゃない殺気と唸り声が響いてきた。
「グルルルルル……王家になんて行かせません」
ディーヤが鼻にめちゃめちゃ皺を寄せている!
それだけではなく牙を全部みせて唸っていた。
(ヒィィイィッィ……ディーヤが怖すぎる!!
柴犬の本気の威嚇顔ダメ!!
自主規制案件だから。
心のモザイクフィルターかけちゃうから!!
可愛い癒し系のディーヤがこんな顔しちゃダメ)
「王家なんていかないから!!ここにいるから!!」
ディーヤに抱き着き、心ゆくまでリス尻尾に
顔を埋めてモフモフしながら心結は
心の底から叫んだ。
「ミュー様……キューン」
ディーヤもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「相変わらずディーヤに、変態行為をしているのか……。
尻尾や耳を気安く触るなといっているだろう」
呆れた声が扉の方から聞こえてきた。
「……。心の癒しタイムですけど。
本人の許可取りは頂いていますけどぉ?何か!?」
〈いいえ……。一度も許可は出してはいませんけど。
もはや諦めの境地です〉
とは言えないディーヤであった。
「…………」
「何か御用ですか?」
「ジェラール様がお呼びだ。今後の事で話があるらしい」
「……!?」
不安そうにギュッと更にディーヤの尻尾を抱きしめる。
「大丈夫だ。ジェラール様はお前を悪いようにはしない」
「ん……」
「それからバカ王子……ではなくて、殿下からの贈り物の
お礼状だが今回もこちらで出しておく。
だから全く気にしなくていい」
(またバカ王子って言ったよこの人……)
何故か毎回ラウルがお礼状を代筆しているらしい。
「どうせお前に碌な手紙は書けまい。
ジェラール様が恥をかかぬよう、俺が書いて
おくから気にするな。
それから貰った食べ物は必ずこちらに回せ。
確認してから少しだけ食わせてやる」
との言葉を頂きました。
(冷徹執事様は、おかん属性まで手に入れたようです。
殿下、男子には人気ないのだろうか)
そんなラウルと心結のやり取りを、レオポルド夫妻と
ディーヤが生暖かい目で見守っていたことを
二人は知らない。
後日、殿下の元には、それは厭味ったらしく丁寧な
お礼状が届いたとか!?届かなかったとか!?
因みに、セラフィン殿下から頂いて
心結が食べきれなかったものについてですが……。
安全を確認後、ラウルの采配により、
お屋敷のスタッフおよび敷地内で飼われている
様々な動植物によって美味しく頂きました!!




