30.ついにご対面
ラウルさんと一時休戦協定を結べて、すこしホッコリ
したのも束の間、ついにこの時が来てしまった。
で、只今……神殿の貴賓室のソファーに鎮座しております。
王族ご一家に謁見するために待機タイムに突入です。
国民に挨拶する前に、少しお時間をもらっているらしい。
(あー、もう、口から心臓でちゃう!!)
心結の緊張はマックスに達していた。
すると横の豪華な扉が鈍い音を立てて開き、
ヤギ獣人の大神官が入ってきた。
「レオポルド夫妻および異世界人様、こちらへどうぞ」
心結達は促されるまま、中に入った。
「陛下。お目にかかれて光栄に存じます。
桐嶋心結ともうします」
「よく来た、異世界人、桐嶋心結よ。
この国の国王、アルテュール=ランベールだ」
深く一礼をして、顔を上げた。
まず目に飛び込んできたのは、眩しいくらいの黄金の塊だった。
まばゆい金髪にあの獣耳!!尻尾も先だけモフモフ!
(王様、ライオン獣人だ!!鬣はないけれど……。
やっぱり王といったらライオンよね!!)
何よりも目を惹くのが
右目が黄金、左が碧色と左右の瞳の色が違う事だった。
いわゆるオッドアイと呼ばれる瞳をしていた。
(ジェラール様とはまた違う種類のイケオジ獣人!!
美しい瞳……神秘的……。
オッドアイって、幸運の瞳って呼ばれているんだよね)
でも……陛下は、想像していた印象よりも老けて見える。
若い頃はさぞかし凛々しい王であったであろう面影はあるが
頬も軽くこけ、顔色が悪く、目の下にうっすらとクマも出ていた。
何よりも気になるのが、胸のところに赤黒い靄のような
ものが視えることだ。
思わずこっそり二度見をしたくらいだ。
(王様はご病気でいらっしゃるのだろうか?)
ふとキツイ視線が自分に注がれているのを感じて、
その方向へ視線をやった。
国王の横には、銀色の髪に赤目の瞳をした、
きつめな印象のトラ獣人の美女が座っていた。
「余の寵姫のエーデルだ」
心結を上から下までしげしげと眺め、冷ややかな口調で言った。
「エーデル=ランベールよ。可愛らしい方ね。よろしく」
(あぁ……これはよろしくではない、よろしくだわ。
明らかに値踏みされている視線だわ……)
心結は返す言葉の正解がわからなかった。
困惑を極力顔に出さないようにしながら、こっそり
ジェラールに目で助けを訴えた。
〈心結ちゃん!とりあえずにっこり微笑んで頷いておけ〉
とジェラールの心の声が聞こえた気がした。
意を決して頷こうとした時、心結が先ほど入ってきた扉が
再び大きく開かれた。
「遅くなって申し訳ございません。」
一人の若いライオン獣人の青年が、護衛を従えて入ってきた。
「セラフィン」
「遅いぞ、セラフィン」
二人の態度からして、どうやら息子さんらしい。
という事は王子様か!
王様より優しい雰囲気だけど顔が似ている。
金髪のふわふわ短髪に、端正な顔だち……
王族って美形が多いよね。
しかも瞳の色は、王様と同じ色のオッドアイだ!!
ややつり目がちなのは、エーデル様似なのかな。
(わぁ……目が合った!ひゃぁぁぁぁ!!
微笑んでくれた。
礼儀正しく優し気な王子様だ!)
長いマントを身に着け、正装をしたライオン獣人が
目の前まで歩いてきた。
「こんにちは。第三王子のセラフィン=ランベールだ。
本当に完全な人型なんだね。
噂通り、可愛らしい方だし会えて嬉しいな。
ようこそ、ランベール王国へ」
蕩ける様な笑顔を振りまきながら、セラフィンが
右手を差し出してくる。
(ふぁぁぁぁ、眩しいモフモフ生物いた!!
正統派王子様の威力危険だな!)
そのまま王子の右手を、自分の両手でそっと包み込んで
握手をかわした。
その瞬間、背筋がゾクッと震えた!!
なぜか心結の直感が警鐘を鳴らしていた。
セラフィンの瞳の奥が、冷えた仄暗い色を宿しているのを
無意識に感じたからだ。
同時に心結の頭の中に、様々な動物たちの唸り声が響いた。
どうやら危険回避スキルが、初めて発動したらしい。
(なんだろう、うまく言えないけど……この人凄く怖い。
心の奥底で、何かが燻っているような気がする)
「……殿下、お会いできて光栄です」
(驚いて振り払わなくてよかった!
手は震えてないだろうか……)
心結は動揺を隠しながら……
やんわりとセラフィンから手を外すと、
そのままジェラール達の元へと戻った。
そんな心結の様子をさして気にする訳でもなく、
当たり前のように話を勝手に進めていく。
「今後はどうするつもり?
やはりジェラールのところよりも、王家が後ろ盾に
なった方がいいよね?安全だし……。
この国の為にもそうするべきだし……。
そうですよね、父上」
「えっ?」
(無理!100%無理!怖いよこの人!!)
「はい?」
〈うちの心結ちゃんに何するつもりだ!このバカ王子!〉
「あ?」
〈王子じゃなかったら一発腹にいっているところだな〉
心結とジェラールとイリスの心からの拒否の態度が炸裂した。
しかも同時に発動したらしい。
そんな三人の様子に、苦笑しながら王は言った。
「まぁ待てセラフィン、今日あったばかりではないか。
事を急ぎすぎるのがお前の悪い癖だ。
その話はまた今度ゆっくりとな」
言葉は静かだが、有無を言わせない圧がそこにはあった。
「残念……。わかりました」
セラフィンは渋々頷いた。
そこにちょうどよく大神官さんが、国民へのあいさつの時間が
来たことを告げに来て、王家一家との謁見は終わった。
(はぁぁぁぁ、やっと帰れる国王一家キャラ濃すぎるよ……)
ジェラール達と帰ろうとしていたら、意味深に微笑みながら
セラフィンが近づいてきた。
「また近いうちに会おうね。心結さん」
あまりにも自然に髪を一房とられて、その髪に口づけられていた。
「…………っ!?」
普通ならば、誰もが蕩けてしまう王子様の微笑みなのだろう。
しかし、その目は逃がさないよと言われているようだった。
〈頭のてっぺんから小指の先まで、全身拒否を発動いたします!〉
本当にそういうのいりません!丁寧にお断りしたいと思います。




