29.一時休戦いたしましょう
はっきり言って、最高でした。
女神様に奉納する曲も荘厳でした!その一言につきる。
美しい旋律が奏でられ聴き惚れてました。
音階の花、半端ない。
でも、それ以上に最高なのが!!
演奏するピチピチの貴族獣人の子息子女が
モフモフすぎる件!!
(いやーいいもの見せて頂きました。
皆可愛すぎ!
あぁぁぁぁ……選べないわ!モフモフパラダイス!!
まぁ、ユーゴくんが一番なのは揺るぎないけど)
そのユーゴくんとレオポルド夫妻はというと……
今まさに貴族専用の礼拝堂で、女神様の加護を
受けているところです。
ディーくん達……幼獣体チームは、専用別室にて
護衛騎士さん達に見守られお昼寝タイムです。
(そこにも潜入して寝顔見たかったな。
モフモフいっぱいだろうな。
と思ったが!そこは……うん。
命がけのミッションになりそうなので、涙をのんで堪えた。
だって、護衛騎士さん達……
いかつい2m越えのクマ獣人さんだったから)
どんな加護を受けたかは、基本的には司祭様と
本人と家族しかわからないようになっているらしい。
(どんな世界でも個人保護法大事!!)
なので、私はここでお留守番をしております。
心結が余韻に浸り、一人貴族席の長椅子の上で、
両手で顔を覆い身悶えしていると、呆れたような声が
上から降ってきた。
「妄想は終わったか」
少し気まずそうな顔をした、冷徹狼執事が立っていた。
(妄想タイム見られていた!!ハズイわ!!
あーまた、お説教タイムが始まるのかなぁ)
心結は顔を引きつらせまくった。
しかし、思いもよらない言葉が……
ラウルの口からもたらされた。
「先ほどは……、すまなかった」
若干獣耳も後ろにペタンと下がっている。
戸惑いながらも、謝ろうという気持ちは伝わってくる。
彼にも一応人の心があるらしい。
不思議な思いでラウルを見つめていると、ふと昔の事が
心結の胸を過った。
出会った頃のトラ吉を思い出すな。
最初はいつもこんな感じだったな……。
懐いたかと思ったら、直ぐに牙をむいて
プイッといなくなる。
そうか!ラウル様は、人嫌いの野良狼という事か!
そう思ったら、なんだかちょっと楽しくなってきた。
でもだからと言って、簡単には許しません!
「嫌です。許しません」
思いっきり睨んでやる。
「なっ!!」
断られるとは思ってもみなかったのだろう。
衝撃をうけた顔になり、ますます獣耳を後ろに
へにゃっと倒して狼狽えた。
そんな様子を横目でチラッと見て、コホンと咳払いをした。
「私とディーくんに、美味しそうな出店のお菓子を全部
買ってくれたら許してあげなくもないんですけど……」
わざとそっぽを向いてそっけなく呟く。
子供っぽい事を言っている自覚はある。
が、少しこの冷徹狼執事を困らせたい。
ラウルはその言葉を聞いて、唖然としていた。
しかし直ぐにニヤリと笑って見せるといつもの調子に戻り、
少し上から目線口調で楽し気に言った。
「フッ……そんなことでいいのか。おこちゃまだな」
「…………!!」
(ドストライクのイケメンの笑顔は、心臓にわるい!!)
自分で仕掛けておきながら、顔が真っ赤になるのを
抑えきれなかった。
「全部だからね!破産しちゃっても知らないからね」
「それは困るな……」
全然困っていない揶揄い口調と優しい視線で
冷徹狼執事が対応してくる。
「ヒャァーニャー!!」
もはや言葉なのか何かわからない奇声を発していた。
心結は激しくたじろいだ。
嫌悪対象の人型なのに、なぜか心結のそんな態度をみて
精一杯威嚇してくるリスの様だなと思っていた。
密かに可愛いとさえ思った自分に戸惑っていた
ラウルであった。




