28.ええっ!?人違いですか
神殿は、大きかったよ。
某古代ギリシャのあの神殿を彷彿させるものだったよ!
石造りの円柱が何本も周囲を取り囲むように
立っていて大迫力!
中はとてつもなく広い空間が広がり、最奥に石で
彫刻された女神像が
バァァァァァンと鎮座しておりました。
(これが、アナースタシア様かな?もしかして?)
神殿前広場は、お祭り屋台のような出店が
所狭しと並んでいて、とても活気にあふれていた。
花の祭典というだけあって、至る所に花が飾られており
道行く獣人さんの頭にも、花の冠や花のコサージュが
見られる。
恋人同士かな、お揃いの花をつけていて微笑ましい。
う……羨ましくなんか……ないもんね……。
出店は気になったが、人込みを抜け、祭典の関係者だろうか
正装した狐の獣人に案内され、神殿の奥へと進んだ。
ユーゴとラウルは、この後に行われる、
女神に奉納する曲を演奏する準備の為に、
控室へと案内されていった。
一方心結達は、神殿内の女神像の前にある
特設ステージらしきスペースの来賓席で
待機をしていた。
フカフカの猫脚つきの長椅子だ。
(流石貴族席!優雅すぎる……。)
ジェラールは、ディーノが迷子にならないように、
自分の尻尾であやしながら捕獲しつつ、寛いでいた。
イリスは、他の貴族の奥様とにこやかに歓談中だ。
「華やかですね」
「花の祭典は、年に一度の特別な祭典だからなぁ」
「特別とはどういう事ですか?」
「10歳を迎えた獣人は、成人の仲間入りを果たした
ってことで女神様に加護の力を授けて貰うんだ。
その為の儀式を行うのが、この花の祭典ってわけだ」
「あっ!確かユーゴくん10歳になったっていってましたね」
「但し、この大神殿で儀式を行えるのは貴族のみだがな」
「えっ!?」
ジェラールは少しきまり悪そうに、頭をかきながら話を続けた。
「いや、平民は平民でちゃんと近くの小さな神殿で、
加護を貰えるからな。
そもそも人数も多いし……
この神殿にすべて収まりきれねぇしな。
あと、やはり元々の要素なのか、
平民で加護持ちが現れるのは、極めて少ないのも現実なんだ。
だから必然として貴族のみになっていったのかも
知れねぇな……」
「あ…………」
心結は言葉に困った。前にディーヤからきいた
種族のしがらみや、力の結びつきの話を思い出した。
どう受け止めていいのか……
わからない顔をしていたのだろう。
「成人を迎える子供をもつ親にとっては、
大事な儀式が行われるという意味あいもある。
若いものにとっては出会いの場でもあるし。
まぁ、どんな身分だろうと、皆がとにかく祭りを
楽しんでくれればいいんだけどな、俺としては」
ジェラールは心結を気遣うように、いつものように
いたずらっぽく笑った。
「そうですよね。お祭りは楽しいものですから」
「王族を間近に見られる少ない機会でもあるしな」
「そのこと忘れてました!!」
ちょっぴりブルーになる心結であった。
「ところで、この神殿に祭られているのは、
知識・知恵の女神”アナースタシア様”ですよね?」
「ん?違うぞ」
「へ?」
「大地の女神”ソルテール”様だぞ」
(なんですとぉぉぉ!!
アナースタシア様じゃなかったんかいっ!!
一体あなたはどこの所属ですかぁぁぁぁ!!)
まさかの事実を告げられて、心結はげんなりした。




