27.過去の記憶の片鱗
〈あぁ……寒い凍えそうだ……。
それに身体も鉛のように重いし、至る所が痛くて動けない……。
俺はこのままここで死ぬのか……。母様……会いたい……。
もはやこれまでか……目まで霞んできた……〉
「…………っ!!……し………から……。…………って」
〈なんだ……!?誰か何か言っているのか……
でも……もう……ほとんど聞こえない……〉
その時、何か大きなものが、身体に触れてきそうな気配がした。
〈やめろ!!俺に触れるな……!!〉
最後の力を振り絞って抵抗を試みるが、あっさりと捕まった。
〈逃げ切れなかったか…………〉
でもそれは予想していたものとは違い、温かく優しい香りのするものだった。
「…………さん!!…………ってば!!」
誰かが自分の肩を揺さぶっている。
「俺に触れるな!人型!!」
ラウルが目を開けて、一番最初に飛び込んできたのは
驚きと困惑と悲しみが入り混じった心結の顔だった。
〈俺はいつの間にか寝ていたのか!!
しかも久しく見てなかった、あの悪夢をまた見るなんて……〉
「…………っ」
夢と現実の狭間の延長線上で、またもや心結を傷つけることを
言ってしまった。
ラウルの胸の中は、自己嫌悪で荒れ狂っていた。
「ごめんなさい、随分とうなされていたから……
いきなり触れたりして、嫌だったよね。
神殿についたから、先に降りるね」
ジト目でラウルを無言で責めるディーノを抱き、ラウルの顔をみないまま
精一杯の笑顔で心結は、馬車を降りていった。
「あ…………」
一人残されたラウルは、やり場のない感情をどうしていいか途方に暮れていた。
「ガォォォォ!!グル!グル!」
ディーノはラウルに対して怒っていた。
なぜ心結だけに、冷たいのかが理解できなかった。
「ふふ、私の代わりに怒ってくれてありがと。ディーくん」
「グルゥグルゥ……」
慰めるように、心結の頬に自分の頬をスリスリする。
「怒っていないかって?
ん……怒っていないっていったら嘘になるけど
ラウルさん、うなされながら”母様……”って
何度も切なそうに呟いてた。
きっと何かつらい思い出があるんだと思う」
(そこに人型というか人間が、かかわってくるのかな……)
「だからと言って、あの仕打ちは許さんけどね。
後で美味しいものいっぱい奢らせちゃる!ねっ!ディーくん」
「ガオ!ガオォ!」
ニッとディーノとお互いちょっと悪い顔になって、右手と前足を
あわせてパン!と叩きあった。




