24.確信犯ですかっ!?
なんやかんやで、花の祭典当日になりました。
お屋敷の中は、朝早くから至る所で、準備に追われ
大変な事になっております。
かくいう私も、また朝一でディーヤに全裸に剥かれ……
デジャブ!?
抵抗する間もなくお風呂に直行コース……。
黒柴のりすば犬メイドさん達に身体の隅々まで
磨かれました。
そして今……大きな鏡の前で、メイクやら髪のセットやら、
ディーヤの指揮の元、粛々と準備が行われております。
「綺麗です……ミュー様」
「碧色のドレスにがよくお似合いですわ」
りすば犬メイド達は、キャッキャ言いながら
心結を完璧に仕上げていく。
「………………」
(使用前、使用後の落差が凄い!!誰よこれ!
美少女仕様ハンパないわ)
「心結さん、用意はできたか?」
イリス様が支度部屋に入ってきた。
「ほう……美しいな。やはり碧色のドレスを選んだのは
間違いなかったな」
そういうイリスは、黄金のマーメイドドレスを身に纏い、
胸元には、ルビーのネックレスが燦然と輝いていた。
「はぅぅぅぅ、イリス様も素敵かっこいいです!」
(はっ!イリス様に見惚れている場合じゃなかった!
やっぱり私のこのドレスの色、ヤバくないか?
色々な意味で……)
「イリス様、やっぱりこのドレスの色……」
「ん?可愛いぞ!」
心結の言いたいことはわかっているのに、
意味深に目を細めて微笑んだ。
「仕上げにこれを」
心結の胸元に、緻密な百合の花の細工を施した
シルバーのネックレスを、耳にはネックレスと
同じデザインのイヤリングをつけてくれた。
「……………!!」
(もうこれで確信犯じゃないですか!?
いますぐ全部脱ぎ捨てたいんですけどぉ!
だから当日まで仕上がりを……
教えてくれなかったのですね!)
「イリス様……」
無理です!と言おうとした時に……
ノックと共に、ジェラールとユーゴが部屋に入ってきた。
「おぉ……二人とも綺麗だ!!
流石俺の嫁と心結ちゃん!!」
ジェラールが満面の笑みで、二人を褒めたおした。
顔がデレデレで残念な事になっていたのは……
よしとしよう。
ユーゴも頬を染めて呟いた。
「心結さん、き……綺麗です」
恥ずかしいのか、獣耳もソワソワ動かし、
尻尾もピンと立っている。
「ありがとう。ユーゴくんもかっこいいよ!」
ユーゴのそんな初々しさに心結は、心臓を鷲掴みされた。
(可愛い……。嬉しい……)
「ユーゴ、心結さんに見惚れるのはいいが、
母様にはないのか?」
息子のそんな様子に、イリヤはニヤニヤと微笑みながら
揶揄った。
「もちろん母様も美しいです」
キリッと顔を引き締め、いつものユーゴくんに戻った。
が、問題はこの人だった!!
「ジェラール様、馬車の手配の件ですが……」
いつもの執事仕様とは違う、正装のラウルが
部屋に入ってきた。
長い黒いロングコート仕様の上着を
さらりと着こなしていた。
腕と背面の裾に銀糸でさりげなく、狼と三日月と蔦のような
シルエットが刺繍されている!!
背面には切込みとタックが入っているので、
その間から見える銀色のフカフカ尻尾が
これまた美しい!!
さりげなく、百合の紋章のような透かし彫りの細工が美しい
金の懐中時計が、腰からチラッと見えるのもいい!!
コートの前が短く……
ひざ下パンツに編み上げロングブーツ!!
正解!!足の長さが際立つわ……。
(やばい……凄くカッコイイ!!
なにこの正装モード!!
悔しいけれど外見だけは、
もうドストライクなんだよね……)
「おぉ!いい所にきたラウル、どうだ心結ちゃん綺麗だろ」
ジェラールがズイっとラウルの前に心結を出す。
「えっ?」
「はい?」
二人の視線が絡み合い……
ほんの僅かな時間だが、時が止まったかのように感じた。
「…………………………」
ラウルは心結の姿を見て一瞬驚いたように目を見開いたが、
直ぐにいつものように、冷徹な表情に戻って一言言った。
「フッ……馬子にも衣装ですね」
「なっ!」
「クスッ……失礼いたしました。
正直なたちでして、口が滑りました……。
それではまだ準備がありますので」
一礼をして、心結に背をむけて急ぎ足で部屋を出て行った。
(くぅぅぅぅ!相変わらず陰険執事だな、こいつ!
顔がいいから反論できないのが、また更にイラっとくるわ。
一言でいいから……。ナイナイ言う訳ないよね)
すっかりふくれっ面な心結を見て、
困ったようにジェラールは、獣耳をペタンとさげた。
「ほら!そんなに頬を膨らましてると
可愛いリスになっちまうぞ。
ほんとに素直じゃねぇな、あいつは。
安心しな、今日の心結ちゃんはとびきり可愛いぜ」
そう言って綺麗なウィンクを心結に投げた。
その奥で、イリスとユーゴも強くうなずいてくれている。
「ありがとうございます」
皆の優しさに癒されつつも、どこかラウルにも
褒めて欲しかった自分がいた事に驚愕していた。




