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18.怒れる執事

何故かラウル様が、無言で部屋まで送ってくださいました。

怒っているのだろう、ぞっとするほど表情は冷たい。


「…………」

部屋に入るなり、軽くため息をついた後、怒りを込めた目で心結を射抜いた。


「お前は馬鹿か!獣人の尻尾は、簡単に触れられるものではない。

家族かもしくは、恋人にしか本来は触れさせないものだ。

それなのにイリス様にあのような事を!」


苛立ち気に前髪をかきあげながら、直も怒りの言葉をぶつける。

「だから人型は嫌いなんだ。自分勝手でこちらの事などまるで考えてない。

愛玩動物とでも、俺たちの事を思っているのか!

聖女か何か知らないが、これ以上かき乱さないでくれ」


心結は目を見開き、唇を嚙みしめていた。

「……………」


「どんなに人型が上位種でも、俺はお前を認めない……!!」

忌々し気に吐き捨てて、ラウルは部屋を出て行った。



ぽすん…と、ベッドに腰を掛ける。

「……………」

驚きすぎて声が出ないって、こういう状況だろうか。


ラウルの憎悪の籠った目が忘れられない。


「人型、人型って……なんなのよ……。あんなに一方的に絶縁宣言!?

尻尾の件は、知らなかった私が悪かったけど……。

あんな言い方しなくても……」


この世界の事は、何もわからないんだもの……。

私が住んでいたところじゃないんだもの。ここ……。

モフモフスキーってそんなにいけないことなのかな……。


(あぁ……私は本当に遠い世界に来てしまったのだなぁ

本当に独りぼっちなんだなぁ)

急にどうしよもないほど、孤独と悲しみに襲われた。


「っ……。トラ吉……、家に……帰りたいよう……っ、帰りたい」


とたん、喉の奥から熱い塊が上がってくるような……

たまらない衝動が湧き上がってきた。

さらにその気持ちが、涙となって溢れてくる。

一度実感してしまうと、止める術がわからない。

ポロポロとポロポロと零れ、とめどなく頬を伝わった。



一方、ラウルの心は揺れていた。

怒りにまかせて、キツイ言葉を浴びせてしまった。

腹を立てていたのは事実だが、最後の方はただの八つ当たりの様な事を

言ってしまったな……。

心結は驚きと戸惑いの表情を浮かべ、ただ黙ってラウルの言葉に耐えていた。

俺が心無い言葉を投げかけても、一言も反論しなかった……。


〈なぜあの娘の傷ついた顔が、頭から離れないんだ〉


無知で能天気で、非常識な娘。

”帰りたい”なんてしおらしいことを言っていたが、俺は騙されない。

きっと最後にはあの時のように……。

ラウルは自分の迷いを打ち消すように、頭を振った。


〈人型なんて俺は認めない……。認めるものか、そうしなければ俺は!〉


二人のそれぞれの思いをのせて、夜は静かに更けていった。



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