17.カッコ綺麗なお姉さまは好きですか?
ラウル様と一戦交えたその後……
ジェラール様のご家族と楽しいディナーを頂きました。
元の世界でいう、フランス料理のフルコースのようなもの
(但しあっさり味)でした。
美味しかったです。ご飯が美味しい転移先でよかった!
ジェラール様の奥様は、同じくジャガーの獣人でした。
目元が涼やかな男装の麗人と呼ぶのが相応しい
キリッとしたカッコ綺麗な方でした。
お名前は、イリス様と仰るそうです。
現役の時は、王妃様をお守りする女性だけの
近衛隊隊長さんだったらしい。
その凛々しさに惚れたジェラール様が猛アタックのすえ
3回目のプロポーズでやっと結婚を承諾されたそうです。
長男のユーゴくんは、イリス様そっくりの利発そうなお子さんでした。
つい最近10歳になり、大人の仲間入りを果たしたそうです。
口数は少ないけれど、一緒懸命受け答えをしてくれる姿に
キュンときました。
(将来が楽しみなモフモフ……)
次男のディーノくん3歳は……
まだ獣体にしかなれないとの事で会えなかった。
(むしろ獣体大好物なんだけどなぁ……)
ディナーの後に……
サロンで大人だけでお茶をどうかと誘われました。
和やかな空間の一角に、そぐわないものがあって
若干……いや、かなり気になります。
えぇ、鋭い視線の狼執事様がいらっしゃいます。
が、置物としてカウントすることにいたします。
お茶をサーブしてくれるのは、ディーヤです。
(モフモフリス尻尾は、私の安定剤です)
デザートに出てきたタルトタタン
(しかし材料がりんごなのか不明!?)
が絶品なのでお言葉に甘えて、お代わりを頂いていると
「先ほどは、家の者が失礼した」
イリス様が、深々と頭を下げてきた。
「………!?」
何の事だがわからず首を傾げていると
顔が青ざめて尻尾が悲しげに下がっている
ジェラール様と目があった。
「心結さんにおいたを働いたそうで。
可愛い娘をみるとちょっかいをかけずにいられない
病気なんだ、あれは」
目を細めてにやつきながらジェラールを見る。
「イリス……誤解だから。
心結ちゃんの緊張を和ませようと、そのな……」
涙目のジェラール様が、必死に縋っていた。
どうやら先ほどの”顎クイ事件”を、めちゃくちゃに怒られたらしい。
心結は何かあったっけな?と思考を巡らせてから数十秒。
「あっ!特に何かされた訳では……
というかむしろ何かしたのは私の方です。
ついモフモフ欲に目が眩んで、ジェラール様に失礼を……」
「ほう……
全く心結さんには響いていないようだな……。
残念だったな、ジェラール」
イリスは更に楽しそうに笑った。
「ジャガーの尻尾って、本当にかっこいいですよね!!
今は、イリス様の尻尾にくぎづけです!!
三角お耳も美しい!!
出来れば、モ……モフりたいです」
とびきり爽やかな笑顔で言い切った。
「「「えっ…………!?」」」
三方向から驚きの声が同時に聞こえた。
〈心結ちゃん!?
俺の奥さんにまでアプローチするのかよっ!〉
ハラハラしながら二人の様子を伺うジェラール。
〈はっ?バカなのかあの娘!?〉
許されるなら、心結に教育的指導をかましたい怒り心頭のラウル。
〈ミュー様!?何を言い出すのですか!?〉
お母さん的気持ちで心配するディーヤ。
三者三様ある意味、心結の爆弾発言にプチパニック状態であった。
緊張した空気が張り詰め……
イリスはしばらく無言で心結を見つめていた。
だが耐えきれないと言わんばかり、突如笑い出した。
「ククククッ……アハハハハハ!!
モフりたいって……アハハハ……」
目尻に涙までにじませて爆笑し、楽しそうに言った。
〈面白い娘だ!〉
悪意も媚もなく、ただ純粋に尻尾をモフりたい
と願う澄んだ瞳にやられた。
「潔くて気に入った。特別に許可する」
自分の尻尾を持って心結に差し出した。
ぱぁぁぁぁぁ…
と効果音が聞こえてきそうなくらいの嬉しさを滲みだして
心結がイリスの尻尾に触れようとした時だった。
横からサッと何かが飛び出した。
「いくら心結ちゃんでも、それだけはダメだ……」
ジェラールの尻尾が、イリスの尻尾をぎゅっと
自分の元に引き寄せていた。
「イリスの全ては俺だけのものだ」
それをきいたイリスは、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めた。
「なっ……。相変わらず恥ずかしい奴だな」
耐えきれないとプイッっとそっぽを向くが
相変わらず二人は尻尾を絡めたままだった。
「もちろん俺の全ても、イリスのものだ」
(はうっっっっっ、尊いものをみせてもらった。
ジェラール様は、以外に焼きもち焼き!
イリス様はツンデレ!)
心結は身悶えて、うっとりと二人のやり取りを堪能していた。
〈あぁ……
また残念なミュー様が出てしまってらっしゃるわ〉
ディーヤは残念な子を見るような気持で
心結を見守っていた。
ラウルは流石に色々な意味で耐えきれなくなったのか
固い声だが努めて穏やかに言った。
「心結様、そろそろ時間も遅いようですし……
お休みになられてはいかがでしょうか?」
ハイと言え!ハイ以外の答えはないからな!
と言わんばかりの邪悪な微笑みを浮かべる執事に
「……………」
恐怖のあまり、首が取れるんじゃないかというくらい
カクカクと頷くしかなかった。




