166.番外編~まさかここで使うとは!~
希少な宝石“ブラックダイアモンド”
セレスト王国で手に入れることはできるのだろうか。
心結は途方にくれていた。
残念だけど、オニキスにしようかな……。
そんながっかりした表情が出ていたのだろうか……。
「モフモフスキーごめんね。
私も流石に今すぐに“ブラックダイアモンド”を
作ることはできないの」
空の神“エリゼ”様ことカワセミは、嘴から顔半分を
生クリームまみれになりながらシュンとした。
「いいえ……お気になさらずに」
「でもね、もし長い年月をかけてこの国のどこかに
存在しているならば、あなたは見つけられるよ」
そう言って鳥胸を羽でドンと叩いた。
「どういう事ですか?」
心結は首を傾げた。
「だって、モフモフスキーは……
レア鉱石を探し当てる Lv.15を持っているよね」
「ん?まだそのチート能力って継続されているのですか?」
「ガッツリ使えるよ。
まぁ、残念ながら変態レベル以外はあがらないけど」
「やったぁ!?
って……ん?えぇぇぇぇ!!
変態レベルは、まだレベルがあがるのですか!?」
持ち上げられて一気に谷底まで落ちた気分だった。
後ろでラオさんが肩を震わせて笑いをこらえているのも
なんか腹立たしい!!
「美味しいしゅうくりーむを供えてくれたから
お礼にざっくりだけど場所を教えてあげる」
エリゼはそう言うと、空中にセレスト王国の地図を
光の線で浮かび上がらせた。
そこに……エイッ!!
と可愛い掛け声と共に鳥の足跡をつけた。
「ここら辺にありそうなきがする」
本当にざっくり情報ありがとうございます……。
「ラオさん、どの辺かわかりますか?」
ラオは地図上の足跡の箇所をじっくりとみた。
「これはこれは……。
運がいいですね心結さん……。
それにやはり私とあなたは縁があるようですね」
そういって熱っぽい視線で心結を見つめた。
「…………」
激しく嫌な予感がする。
予感じゃないな、もうこれは確信だわ。
「私の持っているプライベートな山です。
まだほとんど誰も手をつけてないところですよ」
「そう……ですか」
心結は言葉につまった。
「どうしますか、心結さん」
心結にはラオがいかに楽しんでいるかが分かった。
これはやっかいだぞ……。
「そこに入らせて頂く為には何を対価にすれば
いいのでしょうか?」
心結は顔を引きつらせながら聞いてみた。
「そうですね……」
そう言ってラオは心結の耳元で何かを囁いた。
(マジか!!
この変態コウモリ!!)
心結はその内容に羞恥を堪えるようにまつげをふせた。
「どうしますか?」
ラオはそんな心結の顔をみてますます楽し気に目を細めた。
「うぅぅぅ……」
心結は右に左にと視線をさまよわせてから肩を落とした。
当の本人は、ウェルカム状態だ。
「……おねがいします」
「はい、商談は成立いたしました。
それでは早速まいりましょうか」
そう言って、ラオは心結を横抱きにして空へ飛んだ。
「い……今からですか?」
「善は急げっていうでしょう?」
『ミユウ!?』
下にいるモンチラ達はあっけにとられていた。
「エリゼ様、ありがとございました。
それからモンチラちゃん、イリス様に伝えて!
夕飯に少し遅れますって」
そんな声が空から降ってくる。
「モフモフスキーまったね~」
『ミユウ~!!
コウモリ!! ミユウヲカエセ!!』
モンチラ達は追いかけようと膜を広げるが
それを心結が制止した。
「大丈夫だから、よろしくね~」
心結はどんどん小さくなって見えなくなっていった。
それから日が暮れるまでラオさんとその山を歩いた。
その結果……。
“ブラックダイアモンド”見つかりました!
そして“アメシスト”はお店で何度も吟味して
最高の一品を購入しました。
あとはセレスト王国でも1.2を争う……
トビネズミの職人さんに加工を依頼したので
仕上がってくるのを待つばかりです。
で、今日はラオさんとの約束を果たす日です……。
ラオさんが望んだ対価は……
“一日だけ新婚気分を味わいたい”というものだった……。
ラウルさんには流石に内緒にはできなくて……
やんわりとデートをするとだけ言って出てきたのだが。
昨日からずっと拗ねっぱなしで、甘えてきていた。
狼姿になって……
本当に行くのか?というくらいキューンキューン鳴いて
つい数分前までずっと離してくれなかった。
モフモフに弱い私に対してあれは確信犯だな、うん。
そんな態度をみかねて、ジェラールさまが無理やり
引きはがしてくれた。
今日もガッツリ仕事をあたえて見張ってくれるそうだ。
そこで、ディナーを食べ終わったら、迎えに来てくれる
という事でなんとか折り合いがついた。
ほっと一安心だ……。
私も後ろ髪ひかれる思いで屋敷を出た。
一時はどうなるかとは思ったけれど、約束は約束だ。
指定されたラオさんの屋敷にいくと……
いきなりメイドさんがやってきて、浴場に案内され
上から下まで磨きあげられた。
なんで?
ラオさんがすべて揃えたという洋服を着てから
寝室にラオさんを起こしに行くところから始まった。
すべてって下着から靴までも含まれるのか?
って、サイズがぴったりなのが末恐ろしい……。
見たことないよね?なんでわかるのよ。
一応ノックして部屋に入ってみる。
ベッドに近づくと穏やかな寝息が聞こえる。
相変わらず寝るときも仮面つけているのね。
「ラオさん、おはようございます。
朝ですよ、起きてください」
そう言って声をかけてみた。
「…………」
返事はない。
もう一度言ってみる、なんなら少し肩を揺すってみた。
「やりなおしです。
愛しい妻が夫を起こすのですよ、そんな硬い挨拶でしょうか」
(タヌキ寝入りだったんかい!)
心結はちょっとイラッとしたが、やらなければ始まらない。
こうなったら完璧にやりますよ、えぇ。
「あなた……起・き・て!
起きてくれないと……ちゅーしちゃうぞ」
と言いながら、ラオさんの頬をつついてみた。
「フフフ……
ギリギリ合格というところでしょうか」
と、ぐいっとそのまま腕を掴まれて
そのまま胸の中へ閉じ込められてしまった。
(よかった……狼の匂いがしない。
それにすべて私が選んだものを身につけてくれているのも
グッときますねぇ……)
「ちょ……ラオさん……!!」
「これ以上は何もしませんから、しばらくこのままで
いさせてください……」
切なそうに瞳を揺らしながら……
そういってぎゅっと心結を抱きしめた。
「ラオさん……」
そんなラオに対して心結は
ラオの頬に手をかけて甘く見つめ……
蕩けるような顔だが心底冷える声で言った。
「寝言は寝てから言え!
永久に布団に沈めますよ……」
心結がそのまま大人しく抱かれるわけもなく……。
直ぐにするっとラオの腕の中から逃れた。
「うちの奥さんは朝から過激だな……」
そんなつれない心結に対して嬉しそうにラオは微笑んだ。
リクエスト通り心結の焼いたパンを
朝食に食べ、そのまま恋人繋ぎをしながら庭を散歩。
その後に街へと繰り出し、お店巡りをしたり
出店でアイスクリームを食べたり……。
本当に普通の恋人同士のようなデートを楽しんだ。
街でのデートを終えて、再びラオの屋敷に戻り……
3時のお茶を楽しんでいる時だった。
どうしてもラオが対応しないといけない出来事が
発生してしまった。
「こんな時に無粋ですね。
夫婦の時間を邪魔するなんて……
あぁ……そいつを闇に葬ってしまいそうだ……
直ぐに戻りますから、待っていてください」
物騒な事をいいつつ、ラオは出かけて行った。