165.番外編~お返しをしたい!~
心結は自分の右手の薬指に填まっている指輪をみて
かなり残念な顔になりながらニヤついていた。
嬉しいな……デザインもとっても素敵。
土台の指輪がレースのような透かし模様なのもいい。
そこにさりげなく狼の模様が入っているのも
ラウルさんらしいわ。
それ以上にラウルさんの愛が詰まっている感じが最高。
胸の奥からこみあげてくる喜びに……
顔がにやけるばかりだった。
「心結ちゃん……。
顔が蕩けてるぜぇ。ラウルから貰った指輪だろう」
ジェラールはにやにやした笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ジェラール様……。
見ていたのですか……」
そんな一人百面相を見られていたと知り
心結は恥ずかしそうに顔を両手で覆った。
「ラウルがえらく頑張った愛の証だぜ。
なんせあのコウモリに頭を下げて作ったくらいだからな」
「コウモリってラオさんにですか?」
その見返りに何を渡したのだろう。
考えただけで恐ろしい。
「あぁ……死にそうな顔になりながら頼んでいたぜ」
思い出したのか、たいそう悪い顔でにやついていた。
「セレスト王国の鉱山は……
そんなにもいい宝石が採れるのですか?」
「あぁ、最高級品の産地だ。
その中でもコウモリが所有している山があってな。
詳しい詳細や場所は秘密なのだが、最高品が採れるって
もっぱらの噂だぜ」
私もお返しに指輪を送りたいな……。
「それに、デゼール王国の一件でトビネズミの職人達が
かなりセレスト王国に流れたからな……。
宝飾品の技術も格段に上がったそうだ。
今後ますます、あの国は発展するだろうな」
心結は唐突に思った、某CMのように……
そうだ、セレスト王国に行こう。
心結はモンチラちゃん達と共に出かけることにした。
イリス様と保養地にいくという名目で
ジェラール夫妻には共犯になってもらった。
心結と離れることをえらく渋ったラウルだったが
ジェラール様にたっぷりと仕事を与えられ
身動きできない状態にしてもらった。
「心結……」
捨てられた子犬のような目で見つめられて
気持ちが揺らぎそうになったが、心を鬼にした。
「ではな、行ってくる」
「行ってきます、2~3日で帰りますから。
お仕事頑張ってくださいね」
イリスと共に馬車に乗り込んだ。
「久しぶりにセレスト王国に来ましたが……
雰囲気が明るくなりましたね」
心結は辺りをキョロキョロと見まわしながら
めざましい街の発展に感動していた。
「今の女王がやりてらしい。
というか陰でささえているコウモリのお陰だろうな」
イリス様も興味津々で……
珍しい商品が陳列されている出店などを眺めていた。
今では街行く人達のなかに、普通にコウモリ獣人達もいて
平和になったのだと改めて感じていた。
二人はそれぞれの目的の為に、別行動を取ることにした。
「それでは、気を付けて行ってくるのだぞ。
お前たち、心結を頼むぞ」
そう言ってイリスはモンチラ達の頭を優しく撫でた。
『マカセロ!ミユウハオレタチガマモル』
二匹はドヤ顔をしながら頷いた。
「ノワール、ブラン。
空の神“エリゼ”様に会いに行こうか」
『シンデンダナ、カミサマ!』
(相変わらず生クリーム大好きなのかしら)
その道すがら、所々のお店の宝石や石をチラ見する。
色や形……そして値段も様々だった。
たくさんの種類があるのだな。
私もラウルさんに自分の色を纏って欲しい……。
本来の自分の瞳の色である“黒”。
そしてこちらの世界での瞳の色だった“紫”。
この二色の宝石で、ラウルさんに贈る指輪を作りたい。
紫色の宝石はいくつかあった。
一番初めに思い浮かんだのは“アメシスト”だった。
それから……“紫水晶”に“ヴァイオレットサファイア”
他にも何種類かあるみたい。
しかし何故か黒い宝石が見つからない。
黒い宝石……。
やはりあまり採れないのかなぁ……。
“オニキス”とか“ブラックスピネル”とかしか浮かばないけど。
そんな事を考えながら歩いていると神殿についた。
今では溢れんばかりに祭壇は、花やお菓子で飾られており
とても大事にされている事がわかる。
(エリゼ様、お久しぶりです。お元気ですか?)
心結がそう心の中で祈りを捧げると……
女神像がキラキラと輝きだし、カワセミが飛び出てきた。
「モフモフスキー!! 久しぶり。
元気だった?今日は何しにきたの?
生クリームはある?」
矢継ぎ早の質問を投げかけながら嬉しそうに
心結の周りを飛び回っていた。
私の名前はモフモフスキーで固定されてしまったのか。
心結は苦笑した。
「そうおっしゃると思って……
シュークリームというものをお持ちしました」
心結は箱をそっと祭壇に捧げた。
「おぉぉっぉぉ!新しい白いやつ」
またもやエリゼ様ことカワセミは頭を突っ込んで
生クリームを堪能し始めた。
「何回食べても美味しいぃぃぃ」
(よかった、喜んでいるみたい)
「エリゼ様、この国の鉱山で黒い宝石は採れますか?」
「ん?モフモフスキーは宝石を採りに来たの?」
嘴いっぱいにクリームをつけてカワセミは首を傾げた。
「はい、大事な人に渡す指輪を作りたいのです」
ハニカミながらそう答えると、衝撃的な答えが返ってきた。
「いよいよコウモリと番の?」
「へぅ?」
あまりの事に一瞬返事に困った。
「いえ……その……」
「そこは可愛らしく“はい”と言って欲しいのですが」
後ろから楽しそうなそんな声が聞こえた。
「ラオさん!?」
噂をすれば影というのだろうか、そのコウモリ本人が現れた。
「どうしてここに?」
「それは私の台詞です。
セレスト王国に遊びに来ているのなら……
なぜ連絡をくれないのですか。
相変わらずつれない方ですね」
そう言って目を細めながら、心結の手の甲にキスをした。
(あなたのそう言う所です!!
相変わらず喰えない感じが何とも言えないわ)
「コウモリじゃないのか……。
それで、モフモフスキーは何か探しているものがあるの?」
「実は黒い宝石が欲しいのですが、何かご存じですか?」
「黒い宝石ね……」
カワセミは祭壇を行ったり来たりしていた。
「ほう……あなたも宝石を求めにきたのですか。
狼といい、あなたといい……やけますね」
そう言ってラオは楽しそうに口角をあげた。
「…………」
この男がこういう顔をしている時は碌な事を考えてないから。
「一つ心あたりがあるのですが……」
「やはりあれか?」
エリゼ様が興奮したようにラオに言った。
「はい、あれです」
そして二人で声を揃えていった。
「ブラックダイアモンド」
かなり希少な宝石らしい……。
黒いダイアモンドか……。
「しかし……
本物の天然石に出会えるのは非常に少ない。
果たしてみつかるでしょうか」
ますます悪い顔をしたラオがいた。
「因みにラオさんは所有していたりしますか?」
心結はびくびくしながら聞いてみた。
「えぇ、持ってますよ」
「うそ……」
「といっても王家の王冠の一つに飾られているものです。
まぁ、正確には持っていたと言ったほうがいいでしょうか」
「王家の王冠……」
なるほど、それならば納得。
王家に献上されるくらいの代物か……。
「それ以外のものは見たことはありません」
そんなに珍しいものなのか……。
心結はちょっぴり心が折れた。




