164.番外編~愛の証を送りたい……ラウル編~
ラウルは地図とにらめっこをしていた……。
「やはりここが一番か……」
恨めしそうに地図上にある一点を見つめていた。
そこにジェラールがやってきた。
「ラウル、早かったな。
もう帰って来たのか……まさかお前また心結ちゃんと」
ジェラールは心配そうに眉を顰めた。
「違います。
喧嘩などはしていません、ただ……」
ラウルは簡潔に今の状況をジェラールに話した。
「なるほど……。
それは早いうちに悪い目は摘んでおく必要があるな。
で、何を悩んでいるんだ」
「質のいい宝石が欲しいのですが……」
地図をみながらラウルはため息をつく。
「ははーん、お前嫌なんだろう」
ジェラールは悪戯っ子のように目を輝かせてラウルをみた。
「…………」
「この中で一番いい宝石が採れるのは……
セレスト王国だからな。
心結ちゃんのおかげで、女神さまも戻ったようだし
きっと今なら最高級のものが手にはいるんじゃねぇか」
「わかってはいるのですが……」
ラウルは苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「あの男の国の物で心結ちゃんに贈り物をするのがいやか」
図星であった。
未だに心結を諦めていないあの男の国のものなど……。
しかし残念ながら我が国は平地が多く、あまり宝石が採れない。
心結に捧げる愛の証だ。
妥協はしたくない……。
「私に何か御用ですか……」
そんなあいつの声が聞こえてしまう程……
俺は追い詰められているのか?
「無視とは相変わらずいい度胸をしていますね」
目の前にコウモリが立っていた。
「なんでお前がここに?」
コウモリは辺りをキョロキョロしながら更に話を続けた。
「心結はどうしたのですか?」
「心結は来ていない」
ムッとしながらも律儀に答えるラウルであった。
この男は心結と共に帰国する度に
どこかからそれを嗅ぎつけて心結に会いに来るのだ。
「そうですか、ならばまたの機会に……」
そう言って闇の中に消えそうになった時に
ラウルが意を決して言った。
「コウモリ……頼みがある……」
「はい?」
驚きのあまりコウモリは体が半分消えかかったまま固まった。
「今なんとおっしゃいましたか?」
流石のコウモリも天敵であるラウルが言うはずがない
言葉がきこえ狼狽えているようだった。
「…………」
そのままなんとも言えない沈黙が流れた。
が、ラウルはふり絞るように言った。
「お前の国の宝石鉱山に入る許可をくれないか」
「……ほう……」
男は目を細めて愉快そうに口角をあげた。
それから半年後……。
心結は久しぶりにランベール王国に来ていた。
いつもの如く、ジェラール一家とお茶をしたり
モンチラ達と戯れたり……フェネックまみれになったり
一通りのモフモフ三昧を味わった。
今日はラウルと二人っきりのデートだ。
何故かラウルさんは貴族が正式な時に着る礼服を着ている。
私は私で……
朝起きるといい顔のディーヤが部屋におしかけてきて
問答無用で上から下までピカピカに磨き上げられた。
そのあとにイリス様厳選のドレスを着せられ
今、ラウルさんにエスコートされて馬車に乗っています。
「ラウルさん……これは一体?」
「着けばわかる」
そう言ったラウルさんは緊張からなのか言葉少なめだ。
そのまま馬車を走らせてついたのは何故か王宮だった。
「王様にご挨拶?」
「いや……」
ラウルは無言のまま、心結の手を繋ぎながら
王宮の奥へと進んでいく。
そして……こぢんまりとした中庭のような所についた。
色とりどりの花が咲き乱れ……
中央には噴水があった。
その噴水の中央にはさらに大きな大木がそびえ立っていた。
神々しい美しい木だった。
その木の前には、クリスタルだろうか……
複雑な模様が描いてあるとても美しい床があった。
ラウルはその床のところまで心結をつれてくると
そこでひざまづいた。
「心結……」
「は……はひっ……」
あまりのことで心結はへんな返事になってしまった。
「ここは王族が代々結婚を先祖に報告する場所だ。
まだ正式ではないが、俺は心結以外には考えられない」
「ラウルさん……」
「心結さん、愛しています。
俺と結婚の約束を交わしてください」
そう言ってラウルはビロードのケースに入った
指輪を心結の前に差し出した。
「はい……」
心結は目を潤ませながら何度も頷いた。
「もしかして……これは婚約指輪?」
「心結の国では、結婚の約束の証に指輪を送る風習が
あるのだときいた」
「…………」
「だから最高級の宝石を自ら採ってきて指輪を作った」
「えっ?宝石から採りにいってくれたの?」
心結は驚きのあまり目を見開いた。
ラウルが差し出した指輪には碧色の宝石と黄金の宝石が
二つ付いておりキラキラと輝いていた。
「ラウルさんの瞳の色の宝石なのね……。
嬉しい……。
離れていてもこれがあればいつも一緒だね」
そう言って心結は破顔した。
「手を……。
今はまだこっちだが、近いうちにこっちにも……」
そう言って、心結の右手の薬指に指輪をはめた後
左手のくすり指にキスを落とした。
無事に心結に愛の証を送れたラウルなのであった。
そのおかげかどうかわからないが……
その後心結に思いを寄せる男が
ぱったりいなくなったとか……。
例の常連の男もある日を境に来なくなった。
なぜならば、飼い犬が怯えてカフェに近づけなくなったからだ。
ライウルドカフェは、動物同伴でないと入れないシステムだ。
心結はそこの拘りはなかったのだが、ラウルがそう決めた。
心結は気がついていないが……
実はあの指輪には強力な威嚇フェロモンが宿っていて
不埒な心をもったオスが近づくと噛み殺すと警告がされるのだ。
それを飼い犬が悟った為なのか……
心結目当ての男は心結の知らないところで
すべて排除されたのであった。
お前本当にえげつないな。
トラ吉こと兄貴はそう遠い目で語ったとか……。
心結の為なら何でもする男……。
それが“ライウルド=ランベール”なのだ。




