16.お呼びでしょうか異世界人様
「………………」
「私をお呼びでしょうか、異世界人様」
数十分後、心結の目の前に口調は努めて穏やかだが
凍てつくブリザードを背後に纏った美形の狼執事が立っていた。
「…………」
お呼びした記憶は一切ございませんが……何か?
(ディーヤァァァァァ!!いらんゆうたやろうがぁ!)
恐る恐るラウルの顔をチラ見してみる……。
この忙しいときに……
なに貴様ごときが呼び出してくれてんだって
顔してるよこの人。
「ええっと、とりあえず座ります?」
「いえ……このままで、この後も立て込んでおりますので」
私と話している暇などはないと!
一秒たりとも惜しいと言う訳ですか。
ここまでされると、もはや清々しい境地になるわ。
「では、単刀直入にお聞きします。
私より前にこの国にやってきた異世界人について
知りたいのですが、手立てはありますか?
できれば物語とかではなく……
詳細な真実の記録を知りたいのですが」
「…………!?」
ラウルは一瞬目を見開いた!
が、すぐに訝しげな表情に変わった。
「そのような事を知ってどうするのですか。
この国で何をするつもりですか?」
「えっ?」
「過去の異世界人のように!
我が物顔でこの世界とやらを変えるつもりですか。
その為に過去の叡智を、知りたいとでもいうのですか?」
(なんか急にスケールの大きい話になった!
過去の人達何したの!?)
「いや、そういう目的では……。
情報はいくらあっても困らないですし……。
そもそも、過去の事実を知りたいって思うことは
そんなに難しい事ですが?」
その発言に、また一段とラウルの冷気が下がった気がする。
「なっ…………!」
怒りのせいなのか……
尻尾の毛が膨らみ逆立っている!
しかも獣耳もいつも以上にピンとはりつめて
ピコピコとせわしくなく動いている。
「えぇ、難しい事です。
国家の機密にかかわることですから……。
そのような事を軽々しくおっしゃられても迷惑です。
申し訳ございませんが、お力にはなれません」
完全拒否ですか……。
どんだけ異世界人嫌いなんだよ。
何かされたのか?
と聞かざる得ないレベルですよ、旦那。
若く見えて実は……
ジェラール様より年上で何百年も生きている
獣人とかじゃないよね?
前の異世界人さんと一悶着ありました?
「…………」
二人の間に気まずい沈黙がながれた。
が、心結を一瞥した後に無慈悲に告げた。
「話はそれだけですか?ならば失礼いたします」
ラウルは踵を返して部屋を出ていこうとしていた。
心結はため息をつきながらそんなラウルの背中に
聞こえるかわからないくらいの声でボソッと呟いた。
「元の世界に帰る手立てが……
ただ知りたいだけなのに……
なんでわかってくれないかな……」
その微かな呟きが聞こえたのかギョッとして
振り返り心結の瞳をまっすぐ見つめた。
「今なんと……」
此処を逃してはいけないと、本能が告げる。
「帰りたいの!元の世界に帰りたいの!
ただそれだけだから!!
だから過去に帰った人が、いたかどうか知りたかったの!」
心結は一気にまくしたてる。
「申し訳ないけど……
この世界をどうこうしたいとか一ミリも興味ないの。
自分でもよくわかないうちにこっちに来ているし!
一番困惑しているの私だからね!
モフモフ達がいなかったら、発狂しているところだよ!」
ラウルは目を丸くして驚いて固まった。
いままで借りてきた猫のように大人しくしていた
心結がここまで感情を爆発させるとは思わなかったからだ。
しかし、心結はもはやもうとまらない。
今までの不満を一気にブチまけていた。
「本気でなんなの、ラウルさん。
初対面から態度が冷たすぎ!
なんで人が嫌いなのかしらないけど……
一括りで人を悪みたいに扱うのはやめて欲しい!!
私はみんなと仲良く、モフモフライフを送りたい!!
もちろん、その中にラウルさんも含まれているからね!
拒否権とかないから!!」
そういっきに言い終えると
ビシッと顔先に指を突きつけてやった!
丁寧語とかすっ飛んじゃってるけど、構うもんか。
私の魂の叫び、ききやがれ!!
「はぁ…………」
面食らってぽかんとする美形を見たことある?
拝めることはそうそうないだろう。
今まさにその瞬間に立ち会っております私。
「だから何か手立てがあったら
教えて欲しいのですが、執事様」
にやりと笑いながら、わざと丁寧に頼んでみる。
「……。直ぐにお答えすることは難しいですが
心にはとめておきます」
「これからはもう少しお互いに歩み寄ろうね、ラウル様!」
とどめとばかりに、とびっきりの笑顔で言い放ってやった。
「……。善処いたします」
珍しく狼狽えた様子で、ヨロヨロとラウルは部屋を出て行った。
今回の勝利者:桐嶋心結!!