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151.縁が繋いだもの

墓地を出て、心結達はそのまま公爵邸に戻ってきた。

事が事なので……

ジェラールとイリスも呼んだ。


厳重な人払いがされ……

その一帯には、ジェラールの結界も張られた。


そして急遽中庭のガゼボで秘密のお茶会が催された。


「このロメンパンうまいな」


黄金のリスは、自分の体と同じくらいのパンに

盛大に噛り付いていた。


まさかの訪問者にジェラール達も釘付けだった。


「神をこの目で見る日が来るとは思わなかったぞ……」


ジェラールは目をぱちくりさせてウールをみつめていた。


「可愛らしいな……」


イリスも目を細めてその様子を見ていた。


きっとこの二人も心結と出会っていなかったら

この黄金のリスが、時を司る神だと言っても信じなかっただろう。



思う存分味わったのだろう。

ウールは両手で毛づくろいをし終わると心結達をみまわした。


「僕は、時を司る神“ウール”だよ。

今はこの仮の姿でみんなの前に降臨している」


「ウール様、ジェラール=レオポルドでございます。

そしてこちらが妻のイリスです」


二人は丁寧にお辞儀をした。


「紅の魂をもつ二人だね。

いままで二人を守ってくれてありがとう」


まさかの神様のお礼にジェラール達は感極まった。


「もったいないお言葉でございます」


目を潤ませながらジェラール達は微笑みあった。




「まずは桐嶋心結がこの世界に落ちてきた理由だ」


心結は緊張のあまりラウルの手をぎゅっと握った。

そんな心結を安心させるようにラウルも握り返した。


「アナースタシア様も言っていたように……。

本当に意図はないんだ。

偶然がいくつも重なった結果とでも言うのが正解かな」


結局そこに落ち着くんだ……。

心結はなんともいえない気持ちになった。


(でもそれってすごい確立じゃない?

なんだろその途方もない確立に当たる私って一体……。

ある意味、宝くじの1等が当たったくらいの勢いか?)


「でも“縁”があったからこそのものなんだよ。

そういう意味では、この世界に呼ばれたと言ってもいいのかな」


「誰との縁ですか?」


思いがけないウールの発言にラウルは不思議そうに問うた。


「フフ……。

ラウル……君に決まっているだろう」


ウールは笑って言った。


「俺ですか!?」


ラウルはあからさまに目を泳がせていた。


「君と心結とあともう一人が繋がった結果だよ。

その三人の思いが今回の事態を引き起こした事がわかった。

その思いを認識するために、心結はこの世界で旅をして

様々な人々と交流する事になった」


「あともう一人ですか?」


心結は思い当たる人物が浮かばなくて首を傾げた。

ラウルも同じように思案している。


「そうだよ。

それは黄金のコンパクトを開いた時にわかるよ」


ウールはいたずらっ子のような微笑みを浮かべていた。


「それに今回は心結がこの世界に来た事が

偶然にいい方向に作用した。

そうじゃなければ、きっと君は時空の狭間に迷うか

よくて……元の世界のどこかの時代に戻れるか

どうかの瀬戸際だったと思うよ」


(怖っ!怖すぎる!!

よかった……無事にモフモフ達と過ごせて)


「君はモフモフと戯れて旅をして心を通わせた。

お陰でリンデナザールはある意味浄化された。

その代わりに君はこの世界にいることが許されたんだ。

そういう意味では……

君は正真正銘の“聖女”に今なったんだよ」


「聖女ですか……。

実感はまったくないのですが」


(モフモフにまみれた旅だったなくらいしか

思いつかないな)


「確かに心結ちゃんが来てくれたおかげで……

どの国も闇が払われた感はあるな。

これから数百年は平和に過ごせそうな気がするぜ」


ジェラール達も力強く頷いていた。


「しかし、唯一残った疑問が一つある。

そんな強い思いが重なりあったとしても……

普通は来られない。

きっと何か媒介になったものがあるはずなんだ。

それが未だにわからない」


そう言ってウールは申し訳なさそうな顔をした。


「でも……それと同時に……

肉球の欠片が揃ったということは……

聖女としての役目が終わったということでもある」


急に口調が変わった。


心結はその先を聞きたくないと思ってしまった。

怖くてぎゅっと目をつぶってしまったくらいだ。


ラウルはそんな心結を軽く胸に抱き寄せた。


「わかっていると思うけど……。

君の存在はこの世界にとっては異物なんだ……」


やっぱり予感は的中してしまった。


「おそらく近いうちにあるべき場所に戻るだろう。

それはもう誰にも止められないんだ」


ラウルをはじめジェラール達もその発言に肩を落とした。


泣いちゃ駄目だ……。

初めからわかっていたことだ。


そう思っていても心結は涙を止めることができなかった。


「あとどのくらい時間は残っているのですか?」


静かに泣き出した心結を抱きしめながら

絞り出すような声でラウルは言った。


「わからない。

明日かもしれないし、一週間後かもしれない

しかし近い未来の事だ」


「…………」


「その時は僕の力を最大限に使って元のいた時代と場所に

戻れるようには力を尽くすつもりだよ」


(帰る事は決定なんだ……)


心結はぎゅっとラウルの胸にしがみついた。


「心結がこの世界に残るという選択肢はありますか」


ラウルは震える声で聞いた。


「今のところ限りなく低い確立しかないね。

時を渡るということはそう簡単な事ではない。

異世界転生ではないからね。

君の本来の魂のあるところはこの世界じゃないでしょう?」


余りの衝撃に口が乾いてカラカラになった。

何か言おうとしてもラウルは、中々言葉がでなかった。


ただ恐ろしいくらいの重苦しい沈黙の時間が流れていくだけだった。



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