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149.最後の欠片

無事に?恋人同士になったラウルと心結。

もう皆に公認されたからだろうか……。


ラウルの甘さにますます拍車がかかった。


開き直ったとでもいうのか?

暴走していると言ってもいいくらいだ。


(狼の溺愛なめてた……)



しかしとても幸福感に満たされていた。


まさか異世界にきて、モフモフのイケメン彼氏ができるとは!!


それからというもの……

公爵家の敷地では、よく二人がデートをしているのが見られたとか。


東屋で仲良くお茶をしていたり……

中庭の芝生の上で心結がラウルをブラッシングしていたり

手をつないで薔薇園の中を歩いている姿が目撃されている。


まぁ、たいていはモンチラやディーノや

時にはジェラールに邪魔をされて、ラウルがキレるという

お約束の展開が繰り広げられていたのだが……。


それでも格別な時間だった。



今日もガッツリと恋人繋ぎをしながら二人で敷地内の果樹園を

歩いている時だった。


ふいに心結がラウルを見上げながら言った。


「ラウルさん……ありがとう」


「何がだ?」


「私……今、とっても幸せです」


「心結……。俺もだ」


ラウルも嬉しそうに微笑んだ。


しばらくそのまま二人で散策デートを楽しんだ。


「あっ、みてラウルさん!

あの木の枝の間に鳥の巣がみえるよ」


そう言うと心結は背伸びをしながら一所懸命に

鳥の巣を見ようと頑張っていた。


そんな心結の様子を見ながら密かにラウルは

何かを堪えるように唇を噛み、眉尻を下げていた。


〈どうかいつまでもこの幸せな時が続きますように〉


二人とも心の片隅では、わかっていた。

もうそんなにはこの時間が……。



そんなある日の事だった。


「心結、今日は連れていきたいところがある」


そう言うと、ラウルは少し寂しそうに笑った。




ラウルが心結と共にやってきたのは王家の墓所だった。


「今日は母の命日だ。

この日だけは毎年欠かさずこの場所にきていた」


(ラウルさん……)


心結は慰めるようにラウルの手をぎゅっと握った。


心結達はまず……

エーデル妃とセラフィン王子の墓所に花を手向けた。


(どうか安らかにお眠りください)



そして更に奥に進み……

百合の花の紋章が入った墓所についた。


「ここが母の眠る場所だ」


ラウルさん……もしくはジェラール様が

大事に管理してきたのだろう。


何十年も経っているのに、綺麗な墓所だった。


ラウルは大きな百合の花束を手向けた。


いつもはひっそりと訪れていた為に

百合を一輪そっと置いて置くことしかできなかったそうだ。


これからは堂々とお母さんに会えるね……。


ラウルは墓所にむかって語りだした。


「母様、心結です。

この人が俺の唯一の番となる人です。

俺は全身全霊をかけてこの人を愛し、一生守り抜きます。

どうか見守っていてください」


(なんかすごい愛の告白をまた聞かされたきがする)


心結は横で嬉しさと恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。


「心結?どうした」


ラウルは心結の方をむいて首を傾げた。


(えっ?自覚ないのこの人……。

軽くプロポーズ的な事を仰っていましたよ……。

怖いな……狼の溺愛怖いな……)


心結は密かに苦笑した。


気を取り直して今度は心結が祈りを捧げた。

しかしこちらの流儀はわからない。


だから目を閉じて手を合わせて祈った。


(桐嶋心結と申します。

異世界から来たものです。

正直なんと言っていいのかわかりません。

私の存在はこの世界においてはとても不安定です。

でもこれだけは言えます)


心結はそっと息を吐いた。


(ラウルさんが大好きです。

一番大切に思っている方です。

どうか二人の行く末を見守ってください)


そう心の中で告げて一礼した。


「母に何と言ったんだ?」


ラウルは目を輝かせて心結に聞いてきた。


「……内緒」


心結は恥ずかしそうに目を逸らした。


ラウルはキューンと鳴きそうなくらい不安げに獣耳を

ペタンと下げて心結をみつめた。


「心結……」


「そんな顔をしてもダメです。

黄金の国ジャッポーネでは、神様や死者の方との会話は

口に出したら叶わないと言われています。

だから内緒です!」


〈また黄金の国ジャッポーネの話きた!〉


ラウルは遠い目になった。


複雑な表情をしているラウルに心結は見上げてそっと告げた。


「つまりは、ラウルさんが大好きという報告ですよ」


「…………!!」


今度は獣耳をピンと立ち上げて嬉しそうにピコピコ動かした。

尻尾は喜びのあまり高速に左右に振られている。


(フフフ……。

顔はいつも通り美しい程冷たいのに……。

耳と尻尾が正直すぎる。可愛い)


「心結……」


急に心結を一気に抱き上げて、嬉しそうに抱いたまま

踊る様にくるくると回りだした。


「ちょ……ラウルさん」


「俺も心結が大好きだ……」


(どうしてこうなった?

目が回る~おろしてっぇぇぇ)


ラウルの気が済むままその時間が続いたのであった。




そして今、猛烈に叱られて反省している狼がいます。


「急に抱き上げない!まわらない!」


「はい……」


シュンとしているのが可愛いけど……。

言っておかないと、これはまた必ずやる案件だから!


心結はぐったりとしていた。

木の根元に座りながらしばしの休憩だ。


「何か飲み物を持ってくるから、待っていてくれ」


ラウルは急いで駆けていった。


ここは限られた者しか入れない場所だから

心結を一人置いていっても安全とふんだのだろう。


心結はそのまま風に吹かれていた。

とても心が落ち着く場所だった。


(きっと綺麗な空気が流れているのだろう。

そういう穏やかな土地だから墓地にしたのかな?)


そんな時だった。


コン……。


心結の頭の上に何か固い物が落ちてきた。


「い……痛っ……」


(結構な硬さの物が当たったぞ!

一瞬目から火花が出る勢いだったわ)


心結は目の前に落ちているその光る石を拾ってみた。


「…………」


一回それから目を逸らした。

そして目を閉じた。


(そんな事ってある?

もう一度よくみてみよう……)


そして心結は息を整えてからそれを改めてみた。

二度見したくらいだ。


「最後の肉球の欠片、ゲットしちゃったよ」


心結の手の上には、掌球の形をしたピンク色をした宝石が

キラキラと輝いていた。




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