147.俺の事……
最近心結の様子がおかしい……。
ラウルは悩んでいた。
どうも自分に対する態度がおかしいのだ……。
いつものように一緒に寝ようと誘おうとした時の事だった。
「ラウルさん、ごめん……。
今日はモンチラちゃん達と寝るから」
そう言って心結はそそくさとモンチラ達を抱いて
部屋の扉を閉めてしまった。
まぁ、そういう日がたまにあってもいいだろう。
ラウルは自分に言い聞かせてその日は素直に
自分の部屋に戻って、一人寂しく寝た。
その次の日も……
「幼体フェネックちゃん達と寝るから……」
その次の日も……
「ディーくんたちと寝るから……」
その次の日も……
「今日はディーヤ達とパジャマパーティーするから」
その次の日も……
「モンチラちゃん達と寝るから……」
これを二周程されて、ようやくラウルもおかしいと気がついた。
〈もしかして俺……心結に避けられているのか?〉
何か怒らせるような事をしただろうか?
いや……日中は普段通り接してくれているし……。
口をきいてくれないなどいうこともない。
そう言えば最近あまり触れさせても貰えない気がする。
わからない……。
ラウルはまたもや廊下の隅で項垂れていた。
ふと窓の外をみると、庭でディーノ達と遊んでいる
心結が目に入る。
〈心結……。なぜだ……。
なぜ一緒に寝てくれなくなったんだ……〉
一方心結も戸惑っていた。
ラウルの自分に対する気持ちを自覚したとたん……
今まで通り気安く接する事ができなくなってしまったからだ。
どちらかというと……
モフモフ比率が高いというか、狼要素が高いというか……。
そういう気持ちで接していたのに。
それができなくなってしまった。
身体が、気持ちが拒否してしまうのだ。
はっきり言ってしまうと“男”として意識してしまったのだ。
(どうしよう、ラウルさんの顔がまともにみられない。
もう例え獣体の狼だったとしても……
一緒に寝ることなんか無理!無理!無理だよぉぉ)
なぜかお互いに意識しまくってしまい……
傍からみてもボロボロになっていた。
「お前……最近やつれているぞ。
何かあったのか?」
ジェラールは、書類を届けに来たラウルの顔色の悪さに
心配そうに言った。
「いえ……特には」
そう言いながらも獣耳もしっぽもボサボサで
心なし寂しそうに萎れていた。
「心結ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「そういう訳ではありません」
ラウルは頑なに何でもないと言い張るのであった。
「まぁ、無理には詮索しないが……。
せっかくこんなに近くにいるのだから
ちゃんと溝が大きくなる前に話し合えよ」
そう言ってジェラールはラウルの肩を優しく叩いた。
「はい……」
「ふぅ……」
心結は心を落ち着かせるために、一人で東屋にいた。
今はちょうど百合の花が満開に咲いていた。
それを眺めながらお茶を楽しむつもりだった。
しかし心はラウルの事でいっぱいだった。
(どうしよう……。
このままじゃいけないよね……。
それにまだはっきりとそうだと言われたわけでもないし)
「ラウルさん……」
ラウルの事を思うと胸が痛くなる。
自分でもわかっている……。
モフモフなんかじゃない。
一人の男性としてラウルさんの事が好きなんだ。
心結はそっと黄金のコンパクトを取り出した。
肉球の欠片が4つ嵌まっている。
残りは一番大きい肉球部分の欠片のみだ。
因みにこの中央に位置する大きめの肉球の事を
“掌球”(しょうきゅう)っていうらしいよ!
これも近いうちにみつかる予感がする。
そうしたらこのコンパクト開くのかな……。
開いたら何が起こるのだろう。
そんな事を思って掌でコンパクトを弄んでいた。
すると急に目の前に大きな影ができた。
不思議に思って顔を上げるとその人は佇んでいた。
「心結……」
ラウルは泣き出しそうな顔をしていた。
「ラウルさん?」
「心結……。
俺の事……キライになったか?」
「えっ?」
思いがけないラウルの言葉に心結は固まった。
なんと答えていいかわからなかった。
ただ黙ってラウルをみつめることしかできなかった。
「心結……」
ラウルが心結に触れようと手を伸ばしたが……
心結は反射的にビクッと身体を震わせた。
そんな様子を見てラウルは半ばで止めた。
切なそうに手をおろして目を伏せた。
「ごめん……嫌だったよな……」
そう言うと更に泣きそうな顔で心結をみた。
しかし直ぐに……
思いを断ち切る様に背中をむけて歩き出した。
「それでも俺は心結が……」
最後の方は掠れて聞こえなかった。
(どうしよう、ラウルさんが行ってしまう。
誤解したまま別れるのは嫌だ)
勇気をだせ!死ぬ気で行け!
やればできる!
何か違う気がするが、心結は思いっきり駆け出し
ラウルの背中に抱き着いた。
「…………!!」
いきなりの衝撃にラウルは驚いた。
「心結?」
ラウルは後ろを振り返ろうとした時だった。
「振り返っちゃダメ!そのまま聞いて……」
ちらりと振り返った時に見えた心結は耳まで真っ赤だった。
「違うの……そうじゃないの」
そう言って心結は更にぎゅっと抱き着いた。
「…………?」
〈久しぶりの心結の香りにクラクラきそうだ〉
ラウルは動揺を隠しながら意識をしっかり保とうと頑張った。
「恥ずかしいの……」
〈恥ずかしいって何がだ?〉
ラウルの頭の中に?がいっぱい浮かんだ。
「デゼール王国から帰って気がついたの。
ラウルさんはモフモフじゃなくて……
その……男の人なんだって!」
〈ん?もとより俺は男だよな?今更何を?
逆に今までなんだと思っていたんだよ、お前……〉
「そう思ったら……私。
ラウルさんは友達なんかじゃない……。
ラウルさんは……」
心結が言葉を紡ごうとしたその時……。
ラウルがいきなり振り返って心結をぎゅっと抱きしめた。