145.四つ目頂きました
心結達がデゼール王国を離れる日の早朝。
何故か心結はふいに目が覚めた。
何かに導かれるように下の階に降りて行き
そしてある部屋の扉を開けて中に入った。
男がソファーに寝そべりながらこっちを見ていた。
「よっ!
相変わらず色気のねぇ……寝巻だな」
美丈夫な猫獣人はニヤリと笑いながらそう言った。
「やはりあなたでしたか」
心結はうんざりとした顔でその男を軽く睨んだ。
「普通ならここはトキメクところだぞ。
朝一で俺のような男の顔を拝めたのだからな」
そう言いながら、その男は心結を手招きした。
「…………」
心結は不本意ながらもその男の横に座った。
こんな残念な感じだけど、一応神様だ。
大人しく従った。
「そろそろお前の旅も佳境に入ったみたいだな。
自分でも薄々気がついているんだろう」
そう言って真面目な顔で心結をみつめた。
確かにヘルメース様の言うとおりだった。
肉球の欠片は残すところあと2つだ。
恐らくこの2つは近いうちに揃うのだろう。
そうなれば必然的に元の世界に帰されるのかもしれない。
今となっては帰りたくない気持ちの方が強い。
でもきっとその時が来たら……。
心結の心が慄いた。
「俺は今までの女神みたいにお前にスキルは与えない」
「えっ?」
心結は驚きと戸惑いの表情でヘルメースを見た。
「その代わりに飛びきりの幸運の祝福を……
心結と狼に捧げてやろう」
そう言って何かキラキラ光る光を心結に降らせた。
きっと夢の中にいるラウルさんにも降り注いでいるのだろう。
「因みに、女神さまの一言もないぞ」
そう言って揶揄う様にウィンクをした。
「フフフ……」
心結もつられて笑ってしまった。
「心結……。
これからも狼と幸せにな……。
何があっても狼を離すなよ……」
そう言ってヘルメース様は肉球の欠片をくれた。
(これで4つ目……。
残りはあと一つになってしまった)
「ありがとうございます」
心結は複雑な気持ちでその肉球の欠片を握った。
「俺はこの国を近いうちに去るだろう。
ここは余りにも汚れすぎた。
今まではいい感じにその均整が取れていたのだが
お前が攫われてバザールにかけられた事によって一気に崩れた」
ヘルメースは固い声できっぱりといった。
「えっ?」
心結はまさか自分の名前がでてくるとは思わす困惑した。
「この国……ひいてはそれを起こしたものは
代償を払わなくてはならない」
(なんか凄いことになりそうで怖い……)
「それは私が異世界人で聖女候補だからですか?」
心結はドキドキしながら聞いてみた。
「そうだ。
ある意味お前は巨大な“光”の塊だ」
「光属性なのか……私」
(こんな終盤にきて自分の属性が判明しちゃったよ)
「それをむりやり闇に引きずり込んだようなものだ。
そうなるとどうしても歪が生まれる
世界は紙一重で均衡が保たれているのだ。
どちらかが大きくてもいけない」
「そうなのですね……」
「だからこれ以上に均衡が崩れないように
俺が介入したようなものだ」
(だからヘルメース様が最後の勝者になったのか!)
「それならばそうと言ってくださればよかったのに」
「お前たちの驚く顔が見たくてな。
本当に狼はお前にベタ惚れだな。
あの時の顔……いい男が台無しだったぞ」
ヘルメースが心結を競り落とした瞬間を
思い出しているのだろう……。
悪い顔でヘルメースは笑った。
「本当にいい性格していますよね」
心結はジト目でヘルメースを見た。
しかし直ぐにあんな過酷な中でも頑張っている種族や
知り合いの顔が浮かんできて心配になった。
「デゼール王国は生まれ変われるのでしょうか?」
「一度浄化されるようなものだ。
運がいい奴はまた一からやり直せるだろうよ」
(因果応報か……)
心結は複雑な気持ちになった。