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143.運命のカード

ラウルと猫獣人の男はテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

目の前にはカードの山が置かれていた。


そんな二人を取り囲むように心結達は固唾をのんで見守っていた。




「この国で主な勝負事はなんですか?」


ラウルはギースに問うた。


「そうですね。

主なものは、ダイスかカードですね。

うちのお店にも用意がありますよ」


「時間がかかるのは性に合わない。

一発で決まるやつがいい」


「それならば“ガヤニォン”がお勧めです。

53枚のカードからお互いに一枚ひいて強いほうが勝ち

というシンプルなゲームです。

本当は5回勝負なのですが……」


そう言ってギースはカードを取り出した。

それぞれのカードにはすべて違う絵柄が描かれていた。


綺麗な鳥や宝石、宝箱、剣、果物、植物など

多岐にわたった絵柄の綺麗なカードだった。


「それがいい、今回は一回勝負だ」


ラウルは力強く頷いた。


「俺はなんでもいいぜ」


そう言いながら猫獣人こと幸運や財宝の神“ヘルメース”は

愉快そうにラウルの顔をまじまじとみた。



「ラウルさん……」


心結は祈るように胸の前で手を組んだ。


心配でたまらなかった。

相手は勝負事の神様だ、万が一でも勝てる気がしない。




「不正などがないという証に……

新しいカードを用意いたしました」


ギースはそう言って新品のカードを目の前で開けて皆にみせた。


「それではコイントスを行います」


表が出たらラウル、裏がでたらヘルメースが先行と決めた。


ギースが華麗にコインを投げて、手の甲でキャッチした。

結果……裏が出た。


「よし、じゃぁ俺から行くぜ。

勝負は一回こっきりだ!!

狼いいな、恨みっこなしだぜ」


そう言ってヘルメースはカードの山から一枚ひいた。


「それではオープンをお願いします」


ヘルメースがカードを表に返した。


「おぉ……!」


思わずアレクシとギースは声を上げた。


そのカードには王冠を乗せたライオンが書かれていた。


「さすが俺」


ヘルメースはどや顔を決めていた。


「一発目でライオンキングを引き当てるなんて……

そんな事があるのか……」


気の毒そうな顔でラウルをみるアレクシ。


「どういうことですか?」


心結はアレクシに説明を求めるように目で促した。


「事実上、この53枚の中で一番強いカードだ」


「えっ?

それならばもうラウルさんは……

勝ち目がないということですか?」


心結は愕然とした顔でアレクシを見上げた。


「いや、一枚だけこの状況をひっくり返せるカードがある。

しかし52分の1だ……」


心結はヘルメースをジト目で睨んだ。


(大人げないじゃないですか!!

勝負事でヘルメース様に勝てる人なんていないじゃないですか)


(この俺に勝負事を挑んできたのは、お前の旦那だろうが。

後はどれだけ幸運を引き寄せられるかだけだろう?)


(そんな簡単に言わないでください……)


(お前は狼を信じていないのか?)


(へっ?)


(あいつは黄金の魂を持つ男……。

そして誰よりもお前を愛おしく思っている男だぞ)


(きゅ……急になんでそんな事を言うのですか)


心結は赤くなって狼狽えた。


(信じるという力は時には、神さえも凌駕する事もあるって事だ)


そう言って優しく微笑んだ。

それはヘルメースが初めてみせてくれた

心の底から嬉しそうな笑顔だった。




ラウルは集中していた。

不思議と負ける気がしなかった。


どんな事があっても心結は離さない。

たとえ相手が誰であろうと諦めない。


ラウルはカードの山に集中した。

すると急に周りの音が一切聞こえなくなった。


その状態でカードの山をみつめていると……

何故か一枚のカードが光り輝いて見えた。


〈これだ、これに違いない〉


ラウルはそのカードをスッと取った。


「これにします」


ごくり……誰かが息を飲んだ。


「それではオープンをお願いいたします」


ラウルはカードを開いた。


「マジかよぉぉぉ!!

やったな、ラウルさんよ!!」


そう言ってアレクシは思いっきりラウルを抱きしめた。


「なっ!」


「えっ?」


ラウルと心結が同時に驚きの声をあげた。


「こんな奇跡ってあるのですね」


ギースですらちょっぴり涙ぐんでいた。


「この俺が負けるなんてな……」


そう言ったヘルメースは全然悔しそうじゃなかった。


「な、俺が言ったとおりだろ」


そう言って心結にウィンクした。


ラウルが引いたカードは女神のカードだった。

トランプでいうところのジョーカーみたいなものかな?


とにかくライオンキングに勝てるカードは

この女神のカード一枚だけなのだそうだ。


「心結……」


掠れるような声で心結の名前を切なく呼んだ。

そして無言のまま心結の前までくると……

いきなりぎゅっと抱きしめた。


「遅くなってごめん……。

もう何があっても離さないから……」


そう心結の耳元で呟いた。


(ヒヤァァァァァァァ。

えっ?なにこれ……

乙女ゲーのボーナストラックですか?

くらいのご褒美音声!!)


「心結……」


(このまま溶けちゃいそうなんですけど……

皆が見ているからこれ以上はやめてぇぇぇ)


「よかったな、心結さん」


アレクシも男泣きしていた。


そんな二人をニヤつきながら見ていたヘルメースは

肩をすくめながら言った。


「さすが黄金を継ぐものだなお前。

見事に幸運を引き寄せたか……。

約束通り心結はお前に返してやる」


「勝負を受けて頂きありがとうございました」


ラウルは丁寧にお辞儀をした。


「楽しかったぜ。

じゃぁ、俺もそろそろ最後の仕上げにかかるわ」


そう言って猫獣人は部屋を出て行った。


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